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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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からかいたい高木さん その1

 パカン。

 授業中の教室、私はまた背後からの視線を感じ取っていた。視線の主はわかっている。本人はそれを悟られないようにしているだろうけれど、私からすればバレバレだ。でもその視線は嫌じゃない。むしろ私もドキドキしていて、もっと見てほしい、視線の主である彼をじらしたい、そう思っていた。手始めに、授業が始まって数分後、私は上履きを”ワザと”脱いで、片方は音を立てて床に落とした。思ったより大きい音が出てびっくりしたけれど、幸い周りのみんなは気づいているのかいないのか、気にしている様子はなかった。私はそのまま、授業を何もなかったかのように受け続ける、ようにふるまっていた。足元では脱いだ両方の上履きを、足先でもてあそんでいる。くるくる、くるくる回したり、上履きを上から押しつぶすように足を置いたり、机の前方に押し出してみたり。後ろからの視線はさらに感じるようになっていった。

「ふう…」

私はそのドキドキな行為からか、もともと外が暑いからなのか、体が火照っているのを感じていた。冷房は弱いながらついているはずなのに、体がやけに熱い。季節はもうすっかり夏で、今日も猛暑日の予報が出ていた。今日はもう少しやっちゃおうかな。

 そう思った私は、右足のつま先を左足の靴下にかけて、足の指を動かしてそのまま脱がしてしまった。一気にグイっと、ショート丈の白ソックスを床に脱ぎ落す。後ろから、ゴクリ、とのどを鳴らす音とかすかな咳払いが聞こえてきた。動揺しちゃったのかな。相手をもてあそんでいる感じがとてもわくわく、興奮してしまう。直接相手の姿や表情を見られないのがとても残念だ。

 靴下を脱いで素足になった左足で、右足の靴下も脱ぎ去ってしまう。足元をやや冷えた空気が伝わって、思った以上に気持ちいい。脱いだ靴下も上履きもそのままに、私は素足をぐぐっと机の前方に伸ばして、授業を受けることにした。途中、机の脚に触れてみると金属製でひんやりとしててとても気持ちいい。足の親指とその隣の指で挟んでみたり、足の指をグネグネ動かしてみたり。当初は後ろの彼に見せつけるためだったけれど、自分でもとても気もちいいことに気付いて、無意識のうちに足を動かしているのだった。

 「はい、今日はここまでー、号令!」

「きりーつ、れーい」

あまりの気持ちよさで注意は授業から完全にそれていて、時間もいつの間にか経っていて、唐突に終わりを迎えた。学級委員の号令で、みんなガタガタと席を立つ。上履きも靴下も脱いで、完全にリラックスモードだった私は、その流れに一歩遅れて立ち上がった。おかげで上履きを探す間もなく、裸足のままで床の上に立つことになってしまった。先生が出ていくと同時に座ったけれど、周りの人に見られているようで何となく恥ずかしい。席に横向きに座って、例の視線の主を見てみる。一瞬目が合って、すぐに逸らされてしまった。おかしいほどに明後日の方向を向いている。私はドキドキした気持ちで、上履きを机の下に脱ぎ置いて、裸足のまま彼のもとへペタペタ歩いて行った。正確には後ろの棚から次の時間の、書道の道具をとるためだけれど。彼は私が近づくと、ちらちらとまた目線を私の足元に向けていた。同じクラスだけれど、話したことはまだ一度もなかった。席が近くになったことはないし、部活や係りも違うし、接点がなかった。

 書道の道具をとると、書道の教室へ移動する。次の時間は「芸術」で、書道、美術、音楽から選択することになっていた。偶然にも、視線の主の彼も私と同じ書道を選択していた。席はクラスごとに自由で、私はクラスメイトと並んで教室の真ん中あたりの席に座る。そして彼は私とは別の列の、私より後ろに座っていた。これもいつものことで、おそらく私の足の動きを見るためだろうなと思っている。前に座ったら見えないし、かといって同じ列だと、後ろに座っても見えないもんね。

 さすがに書道教室まで裸足のまま移動するのは気が引けて、私は靴下は教室に置いたまま、素足に上履きを履いて移動していた。気が付くと、彼も後ろをついてくる。わくわくしているんだろうな。その気持ちに応えてあげなきゃな。

 教室について席に着く。硯や墨、紙などを用意して、今日の課題を書いていく。私は授業が始まってすぐはまだ上履きを履いていたけれど、5分もすると上履きの中が蒸れてきて、かかとをぱかっと浮かせてしまう。そしてそのまま両足とも素足を上履きから出してしまった。足を前に伸ばしたり、椅子の下で組んだりして、後ろの彼の視線をひきつける。直接は見えないけれど、やっぱり何となく見られているような気がする。自分の作品はできてるのかな。なかなか納得のいくできにならず、私はイスの上に正座をすることにした。すでに上履きは脱いでいたので、素足をイスの上にあげる。足の裏はスカートで隠すことなく、後ろの彼に見えるようにした。

 そのまま書き続けているとやっぱりしびれてきて、足の指をもじもじ、もにもに。そしてようやく、納得のいく1枚ができた。授業の時間ももうすぐ終わりだ。先生が1枚を提出するように言ったので、私はその1枚を持っていくことにした。しびれてじんじんする足をそのまま床につける。グイッと伸びをして、足もぐぐぐっと伸ばして、裸足のまま持っていった。先生は優しそうなおばあちゃん先生で、1枚1枚丁寧に受け取っていた。そっちに集中しているみたいで、私が裸足のまま前に来ても、それには気づいていないようだった。提出して振り返ると、少し後ろに彼がいて、ふと目が合うとまたササッと目を逸らしていた。

 教室に戻ってホームルームが終わり、みんな部活に行ったりそのまま帰ったり。私は今日、部活がない日だったので、そのまま帰ることにした。脱いでいた上履きを素足のまま履いて、かかとまでしっかりと入れる。靴下はカバンの中に丸めて入れた。クラスメイトの子と一緒に靴箱に向かい、素足のまま靴を履き替える。通学用のローファーに足を通すと、中敷きのざらざら感を直接感じて、これは気持ちいいのか悪いのか…。初めての感触だった。

「あれ、高木ちゃん、靴下どしたん?」

靴を履く瞬間、不思議そうに聞かれてしまった。そうだよね、裸足ってやっぱりおかしいよね。

「途中で暑くて、脱いじゃったんだー」

姿は見えないけれど、どこかで聞いているような気がして、私はあえて声を落とすことなく答えた。その子は、そうなんだーっと軽く流して、一緒に帰ることにした。校門のところまで来ると、私は忘れ物に気づいた(ふりをした)。

「あ、私、宿題のやつ忘れちゃったかも…」

「えー、明日提出だよね!?」

「うん、ちょっと、とってくるね!さき、帰ってて!」

「おっけー、じゃ、また明日!」

クラスメイトとうまく別れると、私はまた昇降口へと戻った。なんとなく、戻るといいことが起こるような、そんな気がしていた。


つづく


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