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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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汚してみたい黒田さん

 キキイ、ガチャン。

 自転車を止めた先には川がある。昨日までの雨はやみ、河川敷はいい感じにぬかるんでいるようだった。

「よし…、と。だれもいない、よね」

時間は早朝5時。まだ日の出前の時間で、少しずつ明るくなってきているけれど、あたりに人気はまったくない。ただ川の流れる音がざあざあと耳に届く。私はなるべく人目を避けようと、階段を下りて橋の下へ移動した。コンクリートの地面から、ぬかるんだ土の地面へと変わる。そのちょうど変わるところで、私は履いていたスニーカーを脱いだ。そして白いハイソックスだけになる。靴下は、汚してもいいかな、というか、それをしにわざわざ朝早く起きて、自転車を20分ほど飛ばして、ここまで来たのだから。

 靴下だけになった足を、朝の冷たく湿った空気がなでていく。そしてドキドキする心を抑えながら、足をぬかるんだ土の地面に踏み出した。ぬちゅ、というかすかな音ともに、私の右足が土、というか泥の地面に下ろされる。ひんやり、ぬちゃっとした感触を足の先に、靴下越しに感じる。そのまま足を踏み込んでいくと、最後には右足の裏全体が土の中についてしまった。足の裏全体に、ひんやり、ぬちゃぬちゃとした土を感じる。うわあああ。わああああ。気持ち悪くて、気持ちいい…!続いて、まだ無事な左足も、泥の地面に踏み入れる。ぬちゃ。ひやひや。足元を見ると、両足が泥の地面についている。けれど上から見ただけだと、まだ白いハイソックス。けれど、足の裏はもう泥で真っ黒になっているだろう。私はもっと先へ行こうと、泥の地面を歩き出した。ぬぽ、ぬちゃ。ぬぽ、ぬちゃ。歩くたびに、泥の足音が響いてくる。川まで近づいていくと、だんだん泥が深くなって、足の全体が泥に吸い込まれるようになっていった。もう白かったハイソックスは、甲の部分まで泥で真っ黒になって、はねた泥でふくらはぎにも点々と汚れがついていた。その場で足ふみをすると、ぬっちゃ、ねっちゃ、ぬっちゃ、ねっちゃと音を立てながら、だんだんと足が泥に沈んでいくのを感じた。

「おっとっと…」

一瞬バランスを崩して、勢いよく足をついてしまう。すると一気に足が泥に沈んでしまった。右の足全体が、足首部分まで完全に泥に埋まってしまっている。抜け出せるかな…。左足を踏ん張って、無事に右足を脱出させる。しとしと、しとしと、と足先から泥水がしたたり落ちていた。もはや足全体に泥がまとわりついて、足が重く感じるようになった。

 そのまま歩を進めると、やがて川に差し掛かる。意外にも水は澄んでいて、川底にある石が見ることができた。私は泥まみれの靴下をその水に浸してみる。途端に泥が水に流れていって、足を付けた部分だけ水が濁ってしまった。そのまま、足全体を水につけてみる。とても冷たくって、ひんやりしていた。今度はその場で、ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃ、と足踏みしてみる。泥が少しづつ落ちてはいくけれど、完全に元通りというわけにはいかず、グレーのハイソックスがその場に残った。どうやらおおまかな汚れは流れたけれど、繊維の間に入り込んだ泥はとれなかったらしい。そのままもう少し川の中に入ってみる事にする。ぴちゃ、ぴちゃ、ぱしゃ、ぱしゃ。ふくらはぎあたりまで入ってしまうと、足の裏に川底の小石を感じるようになった。足つぼのようにぐいぐいとした刺激を感じる。川の流れは意外なほどにはやく、けっこうは抵抗を感じる。

 そろそろ上がろうか。私はふいっと振り返って、また泥の河川敷へと歩を進めた。川から上がるとすぐに泥になって、また、ぬちゃ、ぬちゃとした感触に変わる。せっかく川の流れでとれた泥が、また靴下の足にまとわりついてくる。全体的に川の水で湿った靴下に、泥がしみこんでいく感覚。なんともいえず、やっぱり、気持ち悪くて、気持ちいい。両足をベターっと泥につけて、足の指をもにもにと動かしてみる。指の間に泥が入り込む感覚が、また気持ちよかった。これはいよいよ、クセになりそうだ…!

「…そろそろ帰らなきゃな」

朝日は完全に上がったようで、橋の向こう側から日差しが照ってきた。夏の太陽はやっぱり暑い。私は泥まみれの足をコンクリートの方へ、ぺちゃぺちゃ進めると、脱ぎ置いていたスニーカーを手に持った。人々が出てくる前に、家に帰らないと。私はスニーカーを手に持ったまま、コンクリートの階段を上る。歩くたびに、ぺちゃぺちゃと泥の足音が耳に届く。振り返ってみると、さっきのところからずっと、私の足跡が続いていた。


つづく

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