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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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尽くしたいつくしちゃんその1

 「…つくしちゃんは、俺のこと、好き?」

「はい、好き、です」

「どれくらい、好き?」

「すっごく、好き、です…!」

「じゃあそんなつくしちゃんに、お願いしてもいい?」

「お願い、ですか?」

放課後の中庭、ベンチの上。私はお付き合いしていただいている男の子、流星くんの頭を、正座した脚に乗せて、あたたかなひと時を過ごしていました。ツンツンした髪が脚に当たってちょっとくすぐったく感じます。お願いごととは何でしょう。流星くんの次の言葉を待っていると、ちょっとよくわからないことを言われました。

「今度の月曜日、つくしちゃんには上履きを履かずに過ごしてほしいなって」

「…ふえ?」

とてもとぼけた声が出てしまいました。もう一度、聞き返します。

「え、どういう、ことですか?」

「そのままの意味だよ。今度の月曜日、上履きを俺に預けて、つくしちゃんには上履きなしで過ごしてほしい」

そうお願いをする流星くんの目はまっすぐ私を見つめていて、とても冗談で言っているようには見えませんでした。かといって、私をからかっているわけでもなさそうで、彼にとっては本当にただお願いをしているのだとわかります。『今度、映画館でデートしよう』といった感じでしょうか。

「上履きを履かずに…、くつしたのまま、過ごす、ってこと、ですか…?」

私はお願いの内容を理解して、おそるおそる確認します。

「そういうこと。俺のお願い、聞いてくれる?」

私の大好きな流星くんのお願いとあっては、断るわけにはいきません。それを承知で、私はお付き合いしていただいているわけですから。

「はい、がんばります…!」

「よかった、つくしちゃんならやってくれると信じてたよ!」

うれしそうにそう言ってほほ笑む流星くん。ああ、その笑顔を見ると私は気を失いそうです!こんな笑顔をくれるのなら、一日くらい上履きなしで過ごすなんてなんてことはない、はずです…!

「よおし、じゃあ…」

流星くんは体を起こすと、ベンチの下に置いてあった私の上履きをつかむと、カバンから出した袋に入れてしまいました。背が高くて足の長い流星くんは、上履きを履いたままです。

「あ…」

上履きを目の前で袋に入れられた私。ただそれを見ているしかありませんでした。

「来週の月曜日の放課後まで、これは俺が預かっておくね。もちろん、自分でほかの上履きを持って来たらだめだよ。学校のスリッパも履いちゃダメ。つくしちゃんがそんなことしないって、俺、信じてる」

そう言って、身をかがめて私の頬に口づけをする流星くん。それまで軽くショックを受けていた私でしたが、もうそれですっかり忘れてしまいました。

「それじゃあ帰ろっか。大丈夫?立てる?」

「は、はい…!」

といいましたが、ずっと正座をして流星くんの頭をのせていたせいで、すっかり足はしびれてしまっていました。足先がじんじんします。

「…あれれ?もしかして、足、しびれちゃった?」」

そう言って、流星くんはおもむろに私の背後にまわりこみます。

「は、はい、少し…ひゃう!」

がんばって立ち上がろうとしていると、突然白いニーソックスを履いた足の裏につんっとした刺激が。その後も、つん、つん、つん…。

「あ、あわわ、ひゃうっ!りゅ、流星くん、つ、つんつんしないで、ください…!ひゃっ」

私は流星くんの手から逃れようと、ベンチの上に手をついて、ハイハイの姿勢になりました。それでもまだツンツンはおさまらず、けれど足のじんじんは取れてきました。

「あはは、ごめんね、つくしちゃんの反応がかわいくって」

「も、もう…!」

私はベンチの上に女の子座りをして、流星くんをにらみつけます。流星くんは楽し気に笑っていて、それを見ると私もついついドキドキしてしまいました。

「さ、改めて、立てる?」

「は、はい、…上履き、もう、ないんですよね…」

「そうだね。来週の月曜日の放課後には、返してあげるから」

「絶対ですよ…!」

「大丈夫大丈夫!」

流星くんが手を差し伸べてくれたので、ドキドキしながら私はその手を取ると、白い二―ソックスを履いた足を、中庭の人工芝の上にふぁさっと載せました。芝のちくちくを足の裏に感じます。上履きを履いていないのを急に恥ずかしく感じてしまいました。ちなみに、この二―ソックスは流星くんがプレゼントしてくれたものです。流星くんは他に白いハイソックスや白いクル―ソックス、白タイツや黒タイツもプレゼントしてくれました。どれも靴下専門店の、とてもいいものです。毎日夜のお話の時間に、明日はこれを履いて来てねっとお願いをされるので、私はそれに従って履いていきます。流星くんが私に履いてほしいといってプレゼントしてくれたものなので、履かないわけにはいきません。

「さ、床に落ちているものには気を付けてね」

そう言って私の手を取って歩き始める流星くん。芝の中庭から校舎内に入ると、硬くて冷たい床にかわります。そこを白い二―ソックスのまま歩く私。とてもドキドキするのは、大好きな流星くんと手をつないでいるからでしょうか、それとも上履きを履かずに歩いているからでしょうか。もう私にはわからなくなってしまいました。

「ちょっとここに座って」

昇降口に着くと、流星くんは私を近くにあったイスに座らせました。そして目の前に膝をついて私を見上げます。まるでプロポーズをするときのようで、またドキドキしてしまいます。

「足、見せてくれる?ヘンなものを踏んでいたら大変だから」

「あ、は、はい…!」

やさしい流星くんなので足の裏の確認をしてくれるみたいです。私は床についていた左足を浮かせて、流星くんの方に向けます。下着が見えないように、スカートを太ももの間にキュッと挟んで。好きな人に足の裏を見られるのってとても、とっても恥ずかしい気がしますが、流星くんが見せてと言っているので、がんばります。

「…うん、大丈夫だね。右足も、見せて?」

「はい…」

きっと私の顔は真っ赤になっていることでしょう。そして足の裏はきっと汚れてしまっていることでしょう。それを意識すると、またドキドキしてしまいます。

「うん、大丈夫そうだ。じゃあ帰ろっか、つくしちゃん」

そう言って、流星くんは立ち上がるとすたすたと靴箱の方へ歩いていきます。

「あ、まってください…!」

私は慌てて彼の方へ駆け寄ります。そして靴箱からローファーを取り出すと、二―ソックスの足を入れます。その時にちょっとだけ自分でも足の裏を見てみましたが、足の形に、灰色に汚れが付いていました。こんな汚い足の裏をさっき見られたんだって思うと、とっても恥ずかしくなってしまいました。顔から火が出そう、とはこのことです。


 翌週の月曜日。私は白いナイロンのハイソックスを履いて学校へ向かいました。流星くんのオファーです。ついこの前、付き合って1か月記念でもらったソックスでした。初めて履く素材のソックスでしたが、タイツの素材といっしょで、さらさらしていて薄く、よく伸びる生地でできています。足先やかかとからちょっと素足の色が透けて見えるのが恥ずかしかったりします。生地がほかのソックスよりも薄めなので、ローファーを履くと歩くたびにかかとが浮いてしまって、パカパカさせながら学校まで歩いていきました。歩きながら、今日のことを考えます。一日中、放課後まで、上履きを履かずに過ごさなければなりません。ずっと、くつしたのままなのです。恥ずかしいけれど、流星くんのお願いなのでがんばってやり切らないと。

 学校までは5分ほどで付きます。校門のところに着くと、流星くんが来るのをそこで少しの間待ちます。やがてほかの生徒に混ざって流星くんがやってきました。相変わらず頭はツンツンと決まっていて、制服も適度に着崩していて、今日もかっこいいです。

「おはよう、つくしちゃん。今日もかわいいね」

「おは、ちょ、なんですか、急に…えへへ」

かわいい、なんて面と向かって言われると照れてしまいます。さっきまでの悩みはどこかへ飛んでいってしまいました。

「さ、行こうか。ホームルームが始まっちゃう」

「はい!」

流星くんはごくごく自然に私と手をつないで、昇降口まで行きます。自分の靴箱の扉を開けると、当たり前ですがそこに上履きはなく、グラウンドで体育のときに使うシューズしか入っていませんでした。すこしだけ、期待していたのですが…。

「つくしちゃん?大丈夫?」

先に上履きに履き替えた流星くんが声をかけてくれます。いけません、流星君に心配をかけては。

「いえ、大丈夫です!ごめんなさい、いま、行きますね」

私は息を整えてローファーを左足、右足と脱ぐと、ナイロンのハイソックスを履いた足を床につけます。夏が近づいているとはいえ、タイルの床はまだひんやり冷たいです。ただそれがちょっとだけ気持ちよくもあったります。

「ごめんなさい、お待たせしました!」

「ううん、よかった、それじゃあ行こうか!」

再び手をつないで、私と流星くんは階段を上がります。私たち2年生の教室は、校舎の3階です。サスサスと独特の摩擦音が足元から聞こえてきます。3階の廊下は、日も当たって暖かく感じます。

「じゃあね、また昼休みに!」

「はい…」

「大丈夫?元気出して」

こんなに仲良しなのに、流星くんと私は別々のクラスなのです。3年生になったときには同じクラスになれるよう、日々祈っています。なので、毎朝、別々のクラスに入るときにいつもさみしくなってしまいます。たまに休憩時間に流星君から会いに来てくれるのですが、基本的に次に会えるのは昼休みになってしまうのです。流星くんは平気そうなんですが、私はとても寂しいのです。

「今日の昼休みは、校舎の屋上でね」

「は、はい…!」

流星くんが急に身をかがめて耳元でささやきました。そして、別れ際にあたまをポンポン…。ドキドキしてしまいます。いつも会うのは中庭なのですが、今日は屋上でランチのようです。流星くんは私が教室に入るまで廊下で見守ってくれていました。教室に入ると、私は一人静かに(足音もとても静かに)、窓ぎわの真ん中の席に座ります。今月の私の席です。隣は私と1年生の時から同じクラスの男の子。私と似て大人しい子で、あまり話したことはありません。上履きを履いてない足をあまり見られたくなくって、私は椅子の下で組んであまり目立たないようにしました。流星くんと一緒だと心強いんですが、教室では一人。心もとない感じです。先生に何か言われないかな、とか気になってしまいます。そんなときは、流星くんとのラインで気を紛らわせます。スマホは校舎内では電源を切っておくことになっていますが、先生に見つからなければ大丈夫、という暗黙のルールがあるのです。


 午前中の授業はすべて教室内だったので、移動もほとんどなく、クラスメイトからも足元のことを指摘されることなく、平和に時間を過ごすことができました。昼休みになって、私は家から持ってきたお弁当を手に、一目散に屋上を目指しました。みんなに見られることを意識しちゃうと動けなくなってしまうので、考えるより先に動くことにしたのです。サスサスとくつしただけの足を走らせて、屋上へ続く階段を上ります。気のせいか、砂のようなザラザラ感を足の裏に感じます。3時間目の後の休み時間、気になって足の裏をこっそり見てみました。あまり動いていなかったはずなのに、足の形に灰色の汚れが浮かび上がっていました。恥ずかしくって、他の人には見せられません。私はすぐに足を戻しました。

 屋上への扉はかなり重くて、開けるのは一苦労です。足をしっかり踏ん張って、少しだけ滑りながらなんとか扉を開きます。屋上は相変わらず風が強くて、生徒は数人しかいませんでした。ほとんどが男女のペアです。ここはそんな空間になりつつあります。流星くんはまだ来ていないようでした。ちょっと早く来すぎたかな?と思ったら、肩をポンポンと叩かれて、振り向いて見上げると彼が立っていました。

「ごめんね、遅くなっちゃって」

「いえ!私もいまきたところなので!」

「よかった。じゃあ、あそこらへん行こうか」

屋上なのでもちろん屋根はなく、昨日の雨でしょうか、端っこの方はまだ水が残っていました。それを踏まないように気を付けながら、屋上の端っこの段差に座って、流星くんとランチです。くつしただけの足を前に伸ばして、その上にお弁当を広げます。普通なら上履きを履いている足。けれど今日見える足先はくつしただけ。足の指をくねくねと動かすと、いつもの上履きに包まれていない分、少し気持ちがいいです。風が足を直接なでていきました。

「どう?上履きなくても、大丈夫そう?」

大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、気持ちで言えばそんなに大丈夫じゃないのですが、まあ生活はできているので、大丈夫ということにしておきます。

「よかった。僕との約束通り、スリッパとか履かないでいてくれるから、とてもうれしいよ」

「私も、それが聞けて嬉しいです」

「放課後は、僕が教室まで迎えに行くから、待っててね」

「え、ほんとですか!」

なんと。普段は靴箱のところで待ち合わせなのですが、今日は迎えに来てくれるらしいのです。うれしいな♪


 そのままたわいもない話をして、昼休みはあっという間におしまいです。5時間目が始まるので教室に戻ります。午後はこの5時間目と7時間目が移動教室です。化学室と、最後は芸術の授業で美術室へ向かいます。

 最後の芸術は、書道・美術・音楽から選択制です。入学前に決めるのですが、なんと私と流星くんは同じ美術を選んでいたのです。とてもうれしいです。席は自由なので、ごくごく自然に、私と流星くんは隣同士に座ります。クラスメイトにも公認の仲なので、この時だけはみんな空気を読んで隣同士に座れるようにしてくれます。みんな優しい…!

「今日は、デッサンをしたいと思います。隣同士の人の、体のパーツを描いてみましょうどこでもいいですよ。顔でも、手でも、足でもOKです」

先生の指示で、隣同士に向き合ってそれぞれペアでデッサンを始めます。私と向き合うのは流星くん。ずっとドキドキしっぱなしです!

「…どこでもいい、みたいですけど、私、流星くんの、手、描いていいですか?」

本当は顔を描いて永久に保存しておきたいんですけれど、顔を描くってことは流星くんの顔をずっと長い間見なければならないということですよね!それはさすがに無理なので(恥ずかしくって死んでしまいそうなので!)、かろうじて描けそうな手を選びました。

「もちろん、いいよ。じゃあつくしちゃんは、足を見せてもらおうかな」

半ば予想はしていましたが、やっぱり流星くんは足を指定してきました。

「足、ですか…」

「うん、斜め下から描きたいと思うんだ。だから、これを…」

そう呟きながら、近くの椅子を引き寄せる流星くん。

「これに右足を載せて。あ、靴下は履いたままでいいよ」

「こ、これに、ですか…」

「そうそう。さ、早く早く!」

周りを見渡すと、みんなすでにデッサンを始めているようでした。まだえんぴつを持っていないのは私たちだけのようです。

「わ、わかりました…」

そう言って、私は美術室によくある、背もたれのない真四角の椅子に、それまであちこちを歩いてきて真っ黒になったソックスを履いた足をそのまま載せました。足の裏は斜めに流星くんの方を向いていて、流星くんから見たら私の足の裏がばっちり見えてしまいます。ああ、すっごく恥ずかしい…。

「わ、つくしちゃん、靴下真っ黒だね…!」

そうはっきりと指摘されてしまい、私は真っ赤になってしまいます。

「うう…だって、ずっと上履きなしで歩いていたんですから、汚れちゃいます…」

「そうだよね、仕方ないよね!上手にそっくりに描いてあげるから、待っててね」

そう言って紙にえんぴつを走らせる流星くん。もしかして、足の裏の汚れまで再現する気なのでしょうか。恥ずかしすぎる…!

 30分から40分もするとデッサンはだいたい形になります。初めは恥ずかしさが優ってなかなか集中できませんでしたが、流星くんの私の足を見る真剣な目を見て、私もちゃんと描かないと、という気になりました。えんぴつを持つ流星くんの左手を目で追いながらデッサンを仕上げ、無事に完成できました。

「はい、ではできたところまで、ペアの人に見せてください。お互いに感想を言い合ってみてください」

先生の合図で教室内がざわざわし出します。私も流星くんの手のデッサンをおずおずと差し出しました。

「わあ、上手だね、こんなに俺の手、おっきいっけ?」

「はい、大きくてすごく優しい手だと思います!」

「そっかそっか!ありがとう。じゃあ俺も、つくしちゃんの足。けっこうがんばったよ」

そう言って見せてくれた私の足のデッサン。ソックスを履いた、小さな私の足。シワや足の裏の黒っぽさまで、精密にデッサンされていました。こんなに真っ黒なんだ、私の足…。

「わ、わあ、そっくり、ですね…!」

「ありがとう。じゃあ提出しに行こうか」

「あ、はい!」

先に立ち上がった流星くんの後ろをついて先生のところへ向かいます。先生は淡々と作品を受け取っていましたが、内心はどんな気持ちなのでしょう…。私の足の裏があんなに真っ黒っていうことを先生にも知られてしまうなんて…。うう、恥ずかしい…。

 席に戻る途中、足の裏に刺激を感じました。席に戻って見てみると、落ちていたえんぴつの芯を踏んだようです。デッサン授業なのであちこちにえんぴつの芯や消しゴムのカスが落ちて、私のくつしたの裏をより黒くしていました…。


 美術が終わると今日の授業は全ておしまい。教室に戻ってホームルーム、放課です。少しの間自分の積に座って本を読んでいると、約束通り、流星くんは教室まで顔を出してくれました。

「つくしちゃん、一緒に帰ろっか」

「あ、はい!」

というわけで、流星くんと一緒に昇降口へ向かいます。帰宅のラッシュは過ぎて、生徒の姿はありません。靴箱からスニーカーを取り出して履こうとしましたが、くつしたが真っ黒なことを思い出して一旦ストップ。

「あ、そうだったね、つくしちゃん、靴下真っ黒だったよね」

先に靴を履いた流星くんが、私の足元を見ていいます。くつしたは裏側だけでなく、サイドや表面にも黒っぽい汚れがついていました。

「はい、ちょっとこれじゃ靴を履けないですね…」

替えのくつしたを持っていればよかったのですが、あいにく持ち合わせはありません。このまま我慢して靴を履くか、くつしたを脱いで、素足のまま履くか悩んでいたところ、流星くんがカバンの中をごそごそ。中から袋に入ったままの新品の白いハイソックスが出てきました。

「はい、これ。履き替えていいよ。汚れたものは、俺が責任を持って洗うよ」

「え、いいんですか…!」

「うん、もちろん!俺がお願いして靴下のまま過ごしてもらったからね」

「ありがとうございます!」

というわけで、新しいくつしたをもらって一安心。履き替えようと思いますが、いつ誰が来るかわからない昇降口で履き替えるのはドキドキするので、

「ちょっと待っててもらっていいですか?トイレで、履き替えてくるので…」

「え、いいよ、ここで。俺が見ててあげるから」

「え…」

いやいや、流星くんに見られている前でくつしたを履き替えるのはかなり恥ずかしいです。けれど流星くんは私の前に座って見守る姿勢はバッチリ。

「ささ、はやくはやく!」

とせかしてきます。もう仕方ありません。誰も来ないことを願って、私は近くにあったイスに座って、まず右足のくつしたをするすると脱いでいきます。そして左足もするする。一度両足ともハダシになると、流星くんがくれたくつしたを履いていきます。さっきまで履いていたのはナイロン素材でしたが、今度のくつしたは綿製です。こちらの方が分厚くて、暖かい感じがします。

「よかった。履けたね」

「はい、ありがとうございます…!」

私はなんとか誰にも見られずに履き替えを終えると、床に落ちていた真っ黒なくつしたを拾い上げます。

「あ、それ、俺が洗ってくるからさ。ちょうだい」

「え、これ、ですか…」

先程言っていた通り、流星くんが洗ってきてくれるということですが、私が一日中履いていたくつしたを渡すのはちょっと恥ずかしい気がします。それも、私の足の形に真っ黒に汚れているのです。

「うん、さ、この袋に入れて」

流星くんは受け取る気マンマンのようで、断るのは悪い気がしました。せっかく洗ってくれるということなので、お言葉に甘えることにします。私自身で持って帰っても、おそらくあまりの真っ黒さでそのまま捨ててしまいそうです。

「じゃ、じゃあよろしくお願いします…」

私はなるべく足の裏が見えないようにくつしたを折りたたんで、流星くんに渡しました。彼はそれを大事そうにカバンにしまうと、

「よし、じゃあ帰ろっか!」

と言って私の手を取りました。

「ちょ、ちょっと待ってください」

「ん、どうしたの?」

今の流れで、流星くんが忘れてやしないかと思っていることを聞いてみます。

「わ、私の、上履きは、どこですか…?」

確か、月曜日の今日、一日頑張ったら返してくれると言っていました。

「あ、そうだったね…。今日返してもいいんだけれど…」

流星くんは少しためらいがちに、さらにお願いをしてきました。

「…もうちょっと、くつしたのままで頑張ってくれたり、しないかなあって」

「え、もうちょっと…?」

「うん、あと、2日くらい…」

え、えー…。上履きなしのまま、あと2日、過ごしてほしいってことです、よね…。

「そうしてくれたら、俺、すごくうれしいんだけれど…」

こんなにお願いをしてくる流星くんは見たことがありません。いつもはなんでもできるすごい人なのです。そんな流星くんにこんなにお願いされては、断るわけにはいきません。私にできることがあれば、ぜひしてあげたいと思います。

「で、でも…」

「くつしたで過ごすつくしちゃん、とってもかわいいと思うんだよね。そんなつくしちゃん、もう少し見せてくれないかな…!」

え、くつしたで過ごしてるとかわいい、んですか…?そう言われると照れてしまいます。じゃあ、もう何日か、頑張ってみようかな…。

「わ、わかりました…!もうちょっと、頑張ってみます…!」

私がそうお返事をすると、流星くんはぱあっと嬉しそうな表情を見せてくれました。ここ最近で一番うれしそうなお顔です。そんな顔を見られて、私までとてもうれしくなります。

「じゃあ明日もまたよろしくね!」

「は、はい…!」


 翌日、今日の流星くんのオファーは、白いクルーソックスでした。ハイソックスよりも短いくつしたです。足の見える範囲が広くて、それだけでも恥ずかしさが増していきます。

「おはよう、つくしちゃん。今日もよろしくね!」

「おはようございます。はい、がんばります…!」

昇降口に着くと、私は昨日と同じようにスニーカーを脱ぎ、くつしただけの足をそのまま床に乗せます。くつしたを通して伝わる、床の固さ、ひんやりさ。それも2日目なので慣れてきた私がいます。教室に入って、一人だけ上履きを履いていないことを意識するとやっぱり恥ずかしくって、小さくなってしまいます。けれどこれも大好きな流星くんのため。流星くんが喜んでくれるなら、私はなんでもしてあげたいと思うのです。


つづく

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