98 残念でした
怜奈と詩雛の攻防です。勝者は?
加筆修整しました。(05.8.23)
「こんな時に妄想するとはいい度胸よねぇ?」
やばい。しーちゃんがまじ怒りになってる。ここは、そう。秘技話題転換だっ!
「そういえばしーちゃん。しーちゃんの夢はどうだったの?」
「……れーちゃん。今ごまかそうとしたでしょう?」
しーちゃんがじと目で見てきた。あちゃー。失敗したっぽい。しーちゃんは腕組みをして仁王立ちになると、すごい圧で、
「さあ、白状しなさい」
とそのまま詰め寄ってきた。か、顔が近い。こわい。うう……仕方ない。心がぽきっと折れた。あきらめて口を開く。
「……あのね、あれくらいなら簡単に回復出来るから大丈夫……なんだよ? 体の外には出てなかったし、そこまで危なくない、と思う」
しーちゃんの眉がぴくりと動く。う、心臓に悪い。
「と思う? 本当に?」
「うん。前に思念体で外に出ちゃったことがあるんだ」
本当はしーちゃんに無理やり連れ出されたんだけど、そこは伏せておく。
「その時は体に戻ってきたらものすごく体が重くてすごくしんどかったんだけど、それに比べたら大したことなかったから。そこまで心配しなくても大丈夫だよ、きっと……まあ、ちょっとやりすぎたかな、とは思うから次から気をつける」
しぶしぶ白状すると、しーちゃんは仁王立ちを止め顎に拳を当てる。これはしーちゃんが何か考えているときの癖だ。怒られた後なので、そのま大人しく待った。
「……ねえ。それって、あたしたちも思念体になれるってことだよね?」
しーちゃんが顎に拳を当てたまま聞いてきた。来た、その質問。やっぱりそうなるよね……。私はごくりと唾をのみこんで、黙って頷く。するとしーちゃんが続ける。
「思念体になって、好きなところに行けるってことだよねっ?」
しーちゃんの目がキラキラと輝き出している。うん、きっちり良からぬことを考えてるね。ここはガツンと言っておかなくちゃ。
「思念体になったら、ね。でもしーちゃんは思念体になれても好きなところには行けないよ。私が一緒でないと」
しーちゃんがぴきっと喜びの姿勢のまま固まる。そしてぎ、ぎ、ぎと音がしそうな不自然な動きで、首だけ私に向けて聞く。
「なんで?」
心の中で金槌とでっかい釘を準備する。……せえの!
「私がさっきしーちゃんに命令したから。私のいないところで思念体にならないでって」
かこん。先ずは一回、しーちゃんの心に刺さるように大きく釘を打つ。続けて、こんこんこんと連続打ち!
「それに、思念体が体から離れると命の危険があるんだよ? 最悪、死ぬよ? さっき私の思念体は体の中にあったけど、離れかけてた。気がついて戻したけど、その後体がすっごく重くてすっごくだるくて、すぐには動けなかった。私は思念体の戻し方も回復の仕方もレイアーナさんに教えてもらったから何とかなったけど、もしも知らないうちに体から離れてたら、もーっと大変なことになってたと思う。……しーちゃんが勝手に思念体になったらどうなると思う? 戻り方もわからないでしょう? 死ぬよ?」
しーちゃんが確実にダメージを受けるようにちょっと厳しく言ったら、しーちゃんがぐえっと変な声を出しながら胸をおさえて踞った。そのままorzポーズになって、なんてこったーとごろごろ転がっている。
そんなしーちゃんをさっさと放置して着替えると、出かける用意をする。まだのたうっているしーちゃんをぺいっと布団から除けるとてきぱきと布団をたたんでいく。するとようやくしーちゃんがのそのそと起き上がり、布団を片付けるのを手伝ってくれながらぶつぶつ言いだした。
「あーあ。思念体って透明人間より上だと思ったのにな。行きたいところに行けて、映画だってなんだって見放題でうはうはじゃん! って思ってたのにさー。何、その体に悪いって。思念体にはなりたいけど死んだら意味ないじゃんー。つっまんなーい。レイアーナさんたちうらやましすぎるよ」
はーっとため息を吐いて、ちぇーっ、けちだけち、とぼやき続けるしーちゃんが、だんだんうっとうしくなってきた。そろそろ階下にいかないと。そうだ、その前にあのことだけは確認しておこう。布団をベッドの上に片付けるとしーちゃんに言った。
「ねえしーちゃん。とりあえずその話はもう置いといて、昨日の夢の話をしてよ。しーちゃんは何を見たの?」
するとしーちゃんはぴたりと動きを止めて、ぽんと手を打った。
「そうそう。その話をするんだった。れーちゃん、手貸して」
「へ?」
私がきょとんとしている間に、しーちゃんが私の左手を取ると受容体の付いているおでこにぺたんと押し付けた。
すると、ずわっと何かがうごめく気配がして、しーちゃんのおでこから私の手を通してナニカが流れ込んできた。
「何これ!」
思わず手を引っ込めそうになったけど、しーちゃんが私の手をしっかりと握ったまま離してくれない。ぎゅっと目を閉じた瞬間、映像と音が一気に頭の中に流れ込んできた。
しーちゃんの記憶だとわかった時には、もうぴたりと流れが止まっていた。
「行った?」
しーちゃんが手を離してにかりと笑う。
「うん、来た。びっくりした」
ふふーん。しーちゃんが得意そうに鼻を鳴らす。
「ヤーンさんって人がやってるのを見たんだ。便利でしょう? 今度はれーちゃんの番だよ」
そう言ってしーちゃんはスマホに付いている勾玉を自分の手のひらの上に乗せた。それから、
「れーちゃん、あたしの思念石に触って記憶を流し込んでみて」
そう言ってぐいっと前に突き出した。
受容体のお陰でなんとか怜奈が詩雛を抑えられました。(抑えてもらわないとしーちゃんが危険すぎるので汗)
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