94 協力者 サイイドさん
何とか間に合いました…。
加筆と修整しました。(05.08.15)
「なるほどー。例えばあたしはさっき書き込みがあったシエナさんとか、他のSって書いてた人のことを見てみる。んで、れーちゃんはじゃあ……サイイドさんとか?」
「うん。他にRって書いてた人のことを見てみたい」
私がそう答えるとしーちゃんはにかっと笑って、
「それ面白そうだね、わかった。じゃ、明日また情報交換しようね……ふわぁ」
そう言うと最後に大きなあくびをした。
「おやすみ、しーちゃん」
「うん、れーちゃんもおやすみー」
「うん」
しーちゃんが目を閉じたのを確認して私も目を閉じると、ふーっとゆっくり大きく息を吐いた。今晩はしーちゃんと同じ夢を見たくなかった。昨日の夜みたいに何かのきっかけでしーちゃんがまた思念体になったら、と思うと怖かったから。
それに、試してみたいことがある。もし、毎晩見ている夢が自分の知りたいことを見ているのなら、自分の意思で見たい夢を選べるんじゃないかな。例えば、見ている途中で他の記憶に切り替えたり、そのときに知りたいと思ったことをもっと色々調べることができるかも知れない。
昨日思念波網の中に入った時は、どんな記憶が流れているのかな? という好奇心でいっぱいだった。その結果たくさんの記憶が一度に流れてきて処理しきれなかったんじゃないかと思う。その時受け取った記憶は全部脳の中に入っている感じがする。けれど、短い映像がぱっぱっと浮かぶだけで、それがどこなのか、誰の何の記憶なのかさっぱりわからない。命の危険を犯してまで手に入れた情報なのに、このままでは宝の持ち腐れだ。もったいなさすぎる。
だから今夜は、夢の中で受け取れる記憶をどれくらいコントロールできるか調べてみたい。しーちゃんと一緒だといつ暴走するかって心配しながら試さなくいゃいけなくなる。それはちょっと遠慮したい。それに、別々に調べた方がいろんな情報を集められると思うんだよね。
夢ならば思念体にならなくて済む。体に負担をかけることなく、自分の知りたいことが調べられるはずだ。
── さあ来い、レイアーナさんの記憶。
私は何かあったときのために御守り袋をお腹にはさみ、ゆっくりと目を閉じた。
── 最初は、サイイドさんから見てみようかな……。
目を開けた時、強い日射しにびっくりした。真っ先に飛び込んで来たのは巨大な正方形の建物。
── は、初めて見た。本物のピラミッドだ! お、大きい!
けれどもレイアーナさんはちらりと見ただけで側にある街へと降りて行く。
── ああ! せっかくの生ピラミッドなのにー!
レイアーナさんが通過していくだけのためじっくりと堪能することが出来なかった。ああ、私の古代ロマンっ! 後ろ髪を引かれまくっている間にレイアーナさんは宮殿みたいに立派な建物のエントランスに向けてゆっくりと降りて行く。エントランスの天井はドーム型に広く覆われ、強い日射しが差し込まない形になっている。入り口の前には、真っ白で何人乗れるんだろうと思えるくらいに大きな車が一台、同じ大きさの黒い車が他に二台止まっている。
── あれはひょっとしてリムジンとかいうやつ? 今にも映画スターやどこかの王族が出てきそう! なんって豪華!
でもレイアーナさんは何の感動もしていない。そのまま入口の前でお客様らしき人たちをにこやかな顔で出迎えている男の人に近付いて行く。
── ホテルのドアマンかな?
真っ白の制服にカフスボタンがきらきらと光っている。アラブ系の人だとすぐにわかる褐色の肌に黒髪とふさふさの顎髭のあるおじさんだ。あの人がサイイドさんなのかな? お客様を丁寧な仕草で案内すると、てきぱきと車からスーツケースをいくつも取り出して、荷物運びらしき人が持ってきた金色の豪華なカートに丁寧に積み上げていく。やがてお客様とカートがホテルの中へ入っていった。
周りに人がいなくなったタイミングを見計らってレイアーナさんが声をかける。
『サイイド』
サイイドさんはレイアーナさんを見ると、人懐こそうな笑顔を向ける。サイイドさんが口を開こうとするとレイアーナさんが、
『声を出さずとも良い。これより思念通話で会話する』
そう言うとサイイドさんの腕にレイアーナさんの手を重ねた。
『ようこそレイアーナ様。お変わりないご様子ですね』
サイイドさんの声はとても温かい感じがした。レイアーナさんもなんだか親しげに話しかけている感じがする。
『そなたも変わりないようだな。思念石を確認させてもらうぞ。……ああ、取り出さずともよい』
レイアーナさんは制服のポケットから何かを取り出そうとしたサイイドさんを制すると、思念波をサイイドさんのポケットの中に向けて流していく。ポケットの中に思念石があるみたいだ。レイアーナさんの思念波がサイイドさんの思念石を包み込むのが分かる。思念石は半分くらい満たされている。
『半分ほど溜まっているようだな。初回なのでその半分程を回収させてもらおう。意識を逸らしておけ』
サイイドさんがエントランスの様子を確認している間に、レイアーナさんはさっと思念波を抜き、持っていた別の受容体に移し替えた。
PVが4000超えました。ここまで続けて読んでいただき、ありがとうございます。
再読していただいている読者様、本当にありがとうございます。感謝しています!
初めてお越しの嬉しい読者様、続きが気になる、面白いと思っていただけたら、下の方にある⭐️をぽちっと押したり、いいね、ブクマしていただけたらとても嬉しいです。
読者の応援が、書き続ける力になります。
それでは、またお会いしましょう。
皆様に風の守りが共にあらんことを。




