91 オタクのミシェルさん
ミシェルと二人が会話します。
加筆修整しました(05.8.4)
私の不安が伝わったのか、しーちゃんが顔を上げてにやりと笑ってみせる。
「さっきも言ったけど、あたしは助かってるくらいだって。自分でもやっちゃったなーって思うこと多いんだ。それをれーちゃんが止めてくれるんだったら逆にラッキーって感じ。れーちゃんなら、無茶な命令とかしないでしょ?
そこは大親友なんだから信頼してるよ」
う、しーちゃんが止まってくれて便利! とか思ってごめんなさい。無茶な命令をしたつもりはないけど、これからも気をつけよう。大切なしーちゃんを守ることに使おう。私がぐっと拳を握って心の中で誓うと、しーちゃんが頷いてくれた。しーちゃんが続ける。
「……それに、他の人には見えないんだから、受容体が付いてるなんてわかんないでしょ? あたしがわかんないくらいだから、他の人はもっとわかんないよ、きっと。だからさ、れーちゃんももう気にしないでよ。それに、これがあるとれーちゃんと手を繋いでなくても思念通話出来そうだし。意外と便利かもよ?」
そう言って笑うしーちゃんがポジティブすぎる。私があっけにとられているうちに、さっさとしーちゃんはまた別のアプリを立ち上げてミシェルさんのIDを入れ、あっという間に友達登録をしていた。
「よしっと。これで完了! では早速……」
「待って」
速攻で通話ボタンをタップしようとしたしーちゃんを、ナイスなタイミングで止めることが出来たあたし、グッジョブ。あぶないあぶない。
「れーちゃんなんでー?」
……お預けでずっと待たされている犬みたいな顔をしないでほしい。はあ、とため息をついて説明した。
「いい? しーちゃん、時差って知ってる?」
「知ってるよ?」
きょとんとした顔で聞いてくる。知ってても、何で止められたのかは結びついてない感じだ。
「あのさ、ミシェルさんってフランスにいるんだよね?」
「そうだろうね」
しーちゃんが頭をこてんと傾けて、はてなな顔をしている。
「日本とフランスって、大分離れてるよね?」
「そうだね?」
── うーん、伝わってないか。どう説明したらわかりやすいかな?
どう説明するか悩んでいる間に、しーちゃんが「あ」と声を出してスマホを操作し始めた。
「れーちゃん、あたし分かったよ。時差があるから、向こうが今何時かわからないってことだよね。勝手にかけたら迷惑になるかもしれないって思ったんでしょう? えーっと、ふ、ら、ん、す、時差っと。いでよ、ゴーグル先生ー! 検索検索ー」
すると、ぱぱっとゴーグルがフランスの現在時刻を表示してくれる。
「うわ、便利ー。フランスは今午後二時らしいよ。時間的にはかけても大丈夫なんじゃない?」
とわくわくした顔で聞いてくる。人差し指を通話ボタンに向けたままで聞かないでほしい。
「ね、押していい?」
「だめ」
「えー! けちだ、けち」
ぶつぶつ言っているしーちゃんは放置して、私は夢で見たミシェルさんを思い出す。
── 本当に電話しても大丈夫かな? 仕事中だよね?
でも、レイアーナさんたちは普通に仕事場に行って話していた気がする。
「ねーねー。早く電話しようよー。いつでも電話していいって言ってたじゃない」
「いつでも、とは言ってなかったよ。気軽に電話して、とは言ってたけど」
「じゃ、いいじゃん。ぽちっと」
止める間もなくしーちゃんが通話ボタンを押してしまった。スピーカーホンにすると呼び出し音が流れてくる。するとすぐに、
「Bonjour」
と相手が出た。男の人にしては高めのちょっと甘い感じの声だ。まだ心の準備が出来ていないうちに、さっさとしーちゃんが、
「ボンジュール。えーと、ミシェルさんですか?」
と話しかけた。すると、一瞬の間をおいて、
「オッス、オラ、ミシェル! ヨロシクナ!」
と元気な声がした。
「「…………」」
えーと……。何か、別の意味で振り切った人だったみたい。
「おたくだね」
しーちゃんがぼそりと呟いた。
「おたくみたいだね」
「モシモシ、キコエテマスカー?」
放置されたミシェルさんの声がスマホからする。するとしーちゃんが、
「もしもし。初めましておたくのミシェルさん。えっと、レイアーナさんから番号を聞いたので電話しました。小鳥遊 詩雛です。隣には守川 怜奈がいます。二人とも協力者です」
と、とりあえず自己紹介をした。すると、とっても嬉しそうな声で、
「オゥ、レナとシイナですね。ハジメマシテ。オレハ、ミシェル、ダゼ。ヨロシクナ」
とミシェルさんが、わざとちょっと低い声で渋そうに言う。なんか、突っ込みどころ満載すぎてどうしていいかわからない。
「あのね、ミシェルさん。聞いてもいいですか?」
しーちゃんはさっさとスルーして話を進める。さすがしーちゃん。私がフリーズしている間に会話はどんどん進んでいく。
「オウ、モチロンダゼ。ナンデモ、キイテ、クレヨ、ナ」
しーちゃんの肩がぴくっと震えた。スマホを持っていない右手の拳がちょっとぷるぷるしている。
「なんかこの言い方微妙にイラつくね。けど、とりあえずはいいや」
さっぱりと流すことにしたしーちゃんが、ため息をついて続ける。
「あたしたち、他の協力者のことが知りたくてChatterに登録しようと思ったんだけど、個人情報を登録しないと使えないみたいで。登録して晒されるのはやだし、どうしたらいいですか?」
「アァ、Chatterノ登録ノ方法ガシリタイデスカー。コジンジョーホー、大事デスネー。サラサレル、ナンデスカ? ニホンゴ難しいデスネー」
独特な日本語で話すミシェルさんと何とか会話を繋げて解読したところによると、Chatterを利用するためには一旦必要な情報を登録しなければならないけれど、登録した内容は公開するか非公開にするかが選べることが分かり、とりあえずほっとした。
二人とミシェルがどんな会話をするんだろうと思ったら、この言葉が飛び出しました。いつものミシェルの話し方と違うのは、相手が違うからだけではなく、思念波での会話と日本語での会話の違いです。ミシェルにとって日本語は母国語ではないので、大好きなアニメを見て覚えた言葉を使っています。
それではまたお会いしましょう。
もうすぐハロウィンですね。
ハッピーハロウィン!
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