9 玄室での遭遇2 幽霊発見!?
すみません。ちょっとかすっただけで、終わってます。
遭遇は次回になりました……。
加筆修正しました22.9.7
「だよねー。ほら、あれかなあ。古墳の中って真っ暗だろうし、たしかキトラ古墳の天井には星空が書いてあったって本で読んだことあるよ。意外と古墳と宇宙って、関係があるのかもね。きっと、今日が楽しみ過ぎてそんな夢見たんだよ」
覚えていないのだから仕方がない。そこで話を切り替えるために、ちょっと意地悪してみることにした。
「だって、古墳って要は大昔の人のお墓でしょう。お墓につきものって言えば……。」
「えーっ! じゃあ、私って実は幽霊を恐がってたって言うわけ!?」
そうかもねーと私がにやにやしながら言うと、いや絶対それは違うから! と全力でしーちゃんが否定した。それがおかしくて、お互いに顔を見合わせて思いきり笑った。
そんなことをしているうちに、無事入口付近が綺麗に片付けられて、ぽっかりと石室の入口が顔を見せるようになった。やはり中は石組みの通路になっているようだけれど、奥の方は真っ暗でわからない。でも横穴式の玄室なら通路の先に広い空間があって、そこに石棺があるはずだ。
うー、わくわくする!
安全確認が取れると、調査のために父さん達が懐中電灯をつけたヘルメットを被り、マスクと軍手をして入って行く。その後にはカメラや様々な機械を持った人達が続いている。
早く入りたいなあ、とじりじりしながら待っていると、しばらくして小鳥遊さんが石室から出てきた。私達を見つけて手を振ってくれる。急いで向かうと優しい声で言った。
「懐中電灯をしっかり持って、僕から離れないで付いてくるんだよ。内部の写真を撮っているから邪魔にならないように。それから、石室の中のものには絶対に触れないこと。約束できるね」
「「はいっ」」
二人揃って背筋を伸ばし、ぴしっと返事をした。
おじさんが続ける。
「質問は玄室に入ってからだよ。照明を持ち込んでいるから中は少し明るいけど、そこまでは暗いから足下に気をつけて。中で気分が悪くなったら、すぐに近くの人に声をかけるんだよ」
私達もヘルメットを借り、マスクと軍手をしていよいよ出発だ。しーちゃんと目で会話する。お互いの目がキラッキラ輝いているのが分かった。ゆっくりと入口に向かうと心臓がドクドクしてきた。強く懐中電灯を握りしめる。
入口から石室までの通路は真っ暗だ。外の熱気が嘘のように遮られている。奥に進むほど空気がひんやりしてきた。周囲に懐中電灯を向けてみると、石組みに囲まれていてごつごつしているのがわかる。天井も床も全てが石で覆われている。
奥の方が少し明るい。きっと持ち込んだといっていた照明の光だ。うっすらとした灯りが先に見えていることに、少しほっとしながら歩いた。
その光を目指して進むと、広い空間に出た。歩いてきた通路は私達が何とか通れる高さで、小鳥遊さんは少し背を屈めていたけれど、玄室の中は天井も高くなっている。
部屋の中には石棺がたて向きに三つ並んでいた。全て大きさが違い、左端が小さく、中央が一番大きい。どの棺も屋根型の蓋で覆われている。
入り口の目の前には、中央の一番大きい石棺がどーんとそびえていた。
一番小さい棺の奥には、いくつか壺のようなものが置かれている。蓋のあるものとないものがある。それらの壺のところがちょうど撮影中で、照明が明るく照らしている。右側の棺の奥にも何か置かれているようだけれど、そちらは暗くてよく見えない。
「石棺を開けるにはリフトが必要だから、先に外観の写真を撮って、発掘当初のままの状態を記録に残しているところだよ。石棺の大きさから推測すると、おそらく家族で葬られていると考えられるね。向かって右奥に武具が、左奥には土器が納められていたよ」
小鳥遊さんの説明を聞きながら玄室内を見渡していると、入口側の右奥に人影があった。何だか違和感のある人影に、? が浮かんだけれど、小鳥遊さんが気にしていない様子なので、とりあえず明りが照らしている土器の方へ向かった。撮影の邪魔にならないよう少し離れたところから観察させてもらう。
赤茶色でつるっとした土器の表面には、ぱっと見ただけでは模様がない。教科書に載っていそうなくらいに見たことのある形の須恵器だ。その形が綺麗に残っていることに、じーんと感動する。千年以上も前に作られたものがそのままの形で残されているなんてすごすぎる。
言葉もなく見とれているうちに、ついいつものように想像の翼を広げてしまった。
── 私はさる豪族の娘。父様、母様、弟と四人仲良く暮らしていた。今年は稲の実りも良く、厳しい冬も安心して越えられそうだと思っていた矢先、流行り病で家族が次々と犠牲に。父様母様、なぜ私だけ置いていかれたのでしょう? 跡継ぎの弟でなく、なぜ私だけが生き残って……。
どっぷり古代ロマンに浸り込みうっとりとしたその時、横からシャツの袖をぐいと引っ張られて、現実世界に引き戻された。
……ちっ。いいところだったのに。
仕方なく隣のしーちゃんに目を向けると、入口側の右奥の方をじっと凝視している。
「しーちゃん、どうしたの?」
私が小声で聞くと、
「何かいる」
ぼそりとしーちゃんが呟いた。
どきりと心臓が鳴った。しーちゃんが見ている方向は、入って来た時に私が気になったのと同じ場所だった。
はっとして小鳥遊さんを見ると、撮影している人達と話し込んでいて私達の様子には気付いていない。父さんも撮影スタッフの監督をしていて、私達が入って来たことすら知らないと思う。父さんって夢中になると他のことは全然目に入らなくなるから。
仕方なく、そうっとさっき気になった人影の方を伺う。照明の反対側なので暗闇に包まれていてはっきりとは見えないけれど、やっぱり誰かが立っているように思う。
ように、というのは人影みたいに見えるけれど、最初に気付いた時から全く動きがないので、人ではなく像かもしれないと思ったからだ。
最初は人型の埴輪があるのかと思ったけれど、人影はほっそりしていて背丈もある。たぶん埴輪ではない。手前と奥に二体あって、手前の方が背が低く、奥の方は大人と同じくらい。
私の知る限り、古墳から埴輪や須恵器は見つかっていても、中国の兵馬俑のような人形の像が見つかったことはない。埴輪ならばずんぐりむっくりした形をしているはずなのだ。
何だろう。
何かを見張っているように見えなくもないけど、ただ立っているだけで武具を持っているわけでもない。
どうみても怪しい人達なのに、私としーちゃん以外誰も気にしていない。
背中がぞくりと震えた。まさか……まさか本物の幽霊、じゃないよね!? さすがに気味が悪くなってきた。
ぐいっ。
またしーちゃんが腕を引っ張った。それだけでちょっとほっとする。一人じゃなくて良かった……。見ると顎で入口の方を示す。どうやら入口まで戻って壁の方を見てみよう、ということらしい。私達はそうっと来た道を入口まで戻った。
そこからしーちゃんが懐中電灯を右奥に向ける。右奥には小鳥遊さんの説明通り武具らしきものがあった。私も同じ方向に懐中電灯を向けて確認する。錆びてはいるが鎧っぽいのや槍らしきものがある。何もなければじっくりと観察したい貴重なお宝だ。
でも、今頭にあるのは別のモノだ。好奇心なのかこわいものみたさなのかは自分でも分からない。ごくり、と喉が鳴る。私達は恐る恐る懐中電灯を右奥に向けていった。
しーちゃんがぎゅっと手を握って来た。私も強く握り返す。ゆっくりと懐中電灯の光が動いていき、人影らしきものがある辺りを照らしていく。心臓からどくりどくりという音が聞こえて来た。
今回はここまで。
「続きが読みたい病」にかかってくれることを祈っています。
PV100、ユニーク50超えました。ありがとうございます!頑張ります!