89 あなたの知らない夢の続き
しーちゃんの知らない(消去された)記憶の話です。
少し加筆と修整しました。(05.7.25)
夜ご飯の後、昨日と同じようにお風呂に入り、二階の自分の部屋へ上がって布団を敷く。しーちゃんはスマホでおばさんに電話をかけて明日の予定を伝えていた。
「え? 大丈夫だって。迷惑なんかかけてないよ。自由研究も終わったし! ……わかった。んじゃ、明日向こうでね。父さんによろしく。うん」
電話を切ったしーちゃんはべたっと布団に張りついてぐったりした後、もっそりと起き上がり行儀悪くあぐらをかいた。それから腕を組んでうーんと声を出しながら部屋の中をぐるぐる見回し始めた。
「しーちゃん、どうしたの?」
私が聞くとさらにむーんむんとしばらくうなってから、ようやく口を開いた。
「ねえ、れーちゃん。昨日の夜教えてもらったChatter見てみない? ミシェルさんのことも確認したいし、他の協力者のことも知りたくない?」
「うん。知りたい」
私たちの他に八人の協力者がいるってレイアーナさんは言っていた。どんな人たちがいるんだろう? しーちゃんはベッドにきて私の隣に座ると、スマホにChatterの画面を出す。
「まずは登録っと。……うげ、名前書かなくちゃ駄目なのか。フリートークじゃないんだー。うーん、どうしよう。勝手にやったらまずいかな。……ま、いいや。とりあえず入れてみよう。生年月日、電話番号、え! 住所もいるの? ……駄目だ、めんどくさくなってきた。これは勝手にやるとヤバいやつだ、きっと。あー、でもこれ使えないと他の協力者と話ができないんだよねー。うーん……」
確かに個人情報を登録するのはものすごく勇気がいる。間違って書き込んだものが拡散したりしたら、それこそ大変なことになると思う。でも登録しないと他の協力者の情報もわからないし、その人たちと話もできない。かといって、父さんや母さんには……。どうして必要なの? とか聞かれたら答えられない。
私としーちゃんは二人して頭を抱えた。
── 何かいい方法はないかな? 誰か相談出来る人……。
「あ」
私が声を出すとしーちゃんががばっとこっちを振り向いて、
「何かいい方法あった?」
とすかさず聞いてきた。
「いい方法かどうかはわからないけど。昨日レイアーナさんが言ってたこと覚えてる? ミシェルさんのことで」
一瞬しーちゃんがはてなの顔で首をこてんと傾けたので、この記憶も残ってないのかなとちょっと心配になっていたら、くわっと目を見開いてがしっと腕を掴まれた。ちょっと痛い。しーちゃんは構わずに、
「れーちゃん天才! そうだよ、困った時はいつでも相談していいって言ってたよね! あたしたち、まさに今困ってるじゃん。よし、早速連絡してみよう!」
すぐにしーちゃんがインストール済みのアプリから無料通話ができるものをぽちっと押して入力し出したので、私は慌てて止めた。
「ちょっと待って、しーちゃん」
その言葉でぴたりとしーちゃんが動きを止める。そしてぎぎーっと音がしそうなくらいぎこちない動きでこちらを見ると言う。
「待ってる。……ねえ、れーちゃん」
珍しくしーちゃんの眉が下がり、ちょっと困ったような顔をしている。私の心臓が大きく跳ねた。しーちゃんが続ける。
「あたしさ、今日なんでかわかんないんだけどれーちゃんに頼まれるとね、やりたいって思ってても、やめなきゃ、とか待たなきゃ、って身体が自動的に一時停止するんだ。いつもならさ、やりたい! って思ったらすぐ体が動き出してる感じだったのに……」
そう言うと顎に拳を当てる。しーちゃんが考え込むときのポーズだ。それを見ているうちに心臓がばくばくとうるさいくらい大きな音を立て始める。
「そ、それで?」
内心の動揺を必死で隠して聞くと、しーちゃんがじっと私を見てくる。やばい、冷や汗が出てきた。しーちゃんが言う。
「あたしさ、自分でもこれはまずい、とかやばいとは思うんだよ? だけど、やってみたい! って思ったらもう体が動いちゃってるんだ。それは自分じゃ止められないんだよ。だから、そんな時に一時停止できてるのはある意味助かってるっちゃ助かってるんだけど。でも、今までれーちゃんと一緒にいてもこんなことなかったし、時々れーちゃんが声に出してなくても頭の中に直接れーちゃんの声が響いてきて身体が停止してる時もあるんだよね。……ねえ、れーちゃん」
どきぎくり。
「は、はい!」
思わずしーちゃんから目を逸らしてしまう。しーちゃんはそんな私をじーっと見ながら言う。
「昨日の夜、何かあったね? あたしの知らないうちに」
── ぎゃーっ! ばれたー!
心の中で思わず叫び声を上げると、しーちゃんがにやりと笑って言う。
「今、ばれたーって考えてたよね?」
── どわひょえしゃあああぁぁ!
もうパニックだ。どうしようどうしよう! そりゃあいつかはぱれるだろうって思ってた! うん、それは間違いない。だけどこんな早く、しかも逃げ場のないところで問い詰められることは、想定外っ!
──……落ち着け、私。
ちらりとしーちゃんを見ると、私の心の中の雄叫びがそのまま伝わったみたいで頭を押さえている。
── 今のうちに考えを整理するんだ!
……思念体になってた時のことは、絶対言っちゃ駄目だと思う。これは決定。じゃあ、そこを飛ばしてどう説明したらいい? レイアーナさんは何て言ってたっけ?
そこではっとした。
── これだ、レイアーナさんのせい!
私はしーちゃんに言う。
「あのね、しーちゃん。しーちゃんは覚えてないみたいだけど昨日の夜中に、レイアーナさんとシュリーアさんがもう一度来たの」
すみません。次回に続きます。
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