88 楽しい夜ご飯
久しぶりに平和な回です。
地名をハルヴェストの丘に変更しました。
(2021.12.01)
修整しました(05.7.25)
「「「いただきます」」」
今日のメインは、私としーちゃんが根性で混ぜたハンバーグだ。母さんは両面を一度フライパンで焼いてから、オーブンに入れて中まで火を通している。そうするとハンバーグを割った時に、中から肉汁がぶわっと溢れるハンバーグになるらしい。付け合わせはニンジンのグラッセと塩ゆでしたブロッコリー。それにレタスをしいたマカロニサラダと、冷凍マッシュポテトを使った冷たいジャガイモのビシソワーズというおしゃれなスープがついている。
私は手を合わせた後、冷たいビシソワーズからいただくことに。私としーちゃんの分は飲みやすいようにとマグカップに入っている。スープの表面には冷凍パセリが散らしてあり、クリーム色のスープに緑の色が映えて、とてもオシャレなスープになっている。
ごくりと飲むと、口いっぱいにじゃがいもの甘味が広がる。冷たくて喉をすーっと通っていくのが気持ちいい。暑い夏にピッタリの味だ。思わずごくごくと続けてのんでいると、横からぷはーっと大きく息をつく音がした。
「れーちゃん、これ、すっごくおいしいね!」
にかりと笑ったしーちゃんの口の周りには、しっかりと牛乳ひげがついていて、思わずぶ、と吹き出してしまった。すかさず母さんにこら汚いっと叱られたのは、しーちゃんといるときの日常だ。
次に選んだのは根性入りハンバーグ。ナイフを入れた瞬間にじゅわっと肉汁がしみだしてきた。我が家のハンバーグソースはとんかつソースにケチャップ、少しウスターソースを混ぜたものを軽く煮立てて作られたオリジナルだ。ソースの味が混ざってハンバーグにものすごく合う。
ぱくりと口に入れるとまだ少し熱い肉汁が口の中に溢れ、噛む度に肉の旨味を引き立てる。そこにケチャップの甘さが残るソースがからまり、火の通った玉ねぎの甘みが被さり、口いっぱいに美味しさが広がっていく。
── ああ、最高に幸せ。
私としーちゃんの根性混ぜの成果だと思うと、余計に美味しい。一口一口をじっくり味わっていると、隣がやけに静かなことに気づいた。しーちゃんは口いっぱいにハンバーグを頬張って、リスのようになった顔に満面の笑顔という器用な表情で目を閉じて、しっかり顎を動かしながらハンバーグを味わっていた。
おいしいと思ってくれているのはわかるけれど、結構大きなハンバーグが半分になっていて、びっくりすると同時におかしくてまた吹きそうになるのを必死でごまかした。
そんなしーちゃんを呆れ半分嬉しさ半分といった様子で母さんが見ている。父さんもビシソワーズとハンバーグを交互に味わい、幸せそうな顔でうんうんと頷いている。
……あ、これは嫌な予感。
すると、しっかり味わった後で父さんが私を見て言う。
「怜奈、詩雛ちゃんと一緒に作ってくれたんだってね。凄く凄くおいしいよ。1日の疲れが癒される美味しさだよ。ありがとう。明日のお休みは三日ぶりに怜奈と一緒に過ごせるね。父さん嬉しいよ」
若干目が潤んでいるように見えるのは、気のせいだ。気のせいということにしておこう。
「どうも」
何とか返事を返して目を逸らす。毎回ちょっとしたことでキラキラ顔を輝かせたり、うるうる感動するのは正直勘弁してもらいたい。隣でしーちゃんが、ごっくんとハンバーグの塊を飲み込むと、麦茶を手に取りながら言った。
「相変わらずおじさんのれーちゃん愛は突き抜けてるね」
母さんは無言で食事を続けていたけれど、手を止めて感動している父さんに一言、
「ハンバーグ、冷めるわよ」
と声をかけた。はっとした父さんが慌てて口にハンバーグを運ぶ。そんな父さんに小さくため息をつくと、母さんは私たちの方を向いて言った。
「今日はよく頑張ったわね。明日は約束通りハルヴェストの丘に行きましょう」
「やった!」
「よしっ」
私としーちゃんは顔を見合せて手と手を合わせた。計画通り、明日は思念波を集めまくろう。
ハルヴェストの丘はゴーカートや芝すべり、ちょっとした観覧車やメリーゴーランドのような遊具のあるスペースと、ヤギやカピバラ、羊や牛のいる動物とのふれあいスペースなんかがある遊園地だ。予約しておけばパン作りやソーセージ作りといった体験設備もある。夜は花火も上げられるので一日中遊んでいられる。夏場は地面から直接噴水みたいに水が出る場所があって、びしょ濡れにはなるけど涼しくて楽しいじゃぶじゃぶ広場なんかもある。
施設で作られたハムやソーセージも売っていて、バーベキューができたり焼きたてピザを食べられる店もある。明日は楽しい一日になりそうだ。
その後、夜ご飯の間は父さんに説明会の様子を聞いたり、自由研究とその後のクッキー作りの話をしたりした。説明会は今日も盛況で、博物館もいつもよりも多くの来館者で賑わっていたそうだ。見つかった遺物で展示されていなかった冠や遺骨、布製品なんかは劣化しないうちに機械にかけていろいろ調べてから、洗浄と防腐処理をしないと展示出来ないそうだ。私たちが実物を見られるのはもうちょっと先になるみたい。
早く見たいな。王冠なんだから天皇が被ったものかも知れない。だとするとあの古墳に埋葬されていたのは、天皇と皇后、そして皇太子? 一家で葬られているということは暗殺とかにあったのかもしれない。……ああ、あの古墳には古代の悲劇が!
べしっ。
「いひゃい」
気がつくとしーちゃんに頭をはたかれ、ほっぺたをつねられていた。またやってしまったらしい。
「れー、ちゃ、ん? せっかくのごはん、私がもらうよ?」
「ごみぇんなひゃい」
淚目でしーちゃんの手をぺちぺちたたくと、ようやくしーちゃんは手を離してくれた。
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それでは、またお会いしましょう。
皆様に、風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




