87 別に鬼じゃないと……
自由研究を終わらせます。
修整しました(05.7.24)
ふと昨日した話を思い出す。
── ミシェルさん。ミシェルさんなら話を聞いてくれるかな? レイアーナさんはいつでも連絡していいって言ってたけど。
私はしーちゃんを見た。しーちゃんは何とか昨日のことを思い出そうと必死になっている。受容体のおかげでしーちゃんの考えていることがわかる。その強い思念波をがんがん思念石が吸収しているので、どちらの思念石もいい仕事をしていると思う。
しーちゃんの記憶からは思念体になったこと、その後の行動についての記憶がすっぽりとなくなっている。記憶操作。シュリーアさんがしーちゃんを眠らせた時に、その部分の記憶を消去したんだと思う。ぞくりとして思わず腕をさすった。
しーちゃんは相変わらずスマホを握りしめている。
── スマホ。
スマホが欲しい。切実にそう思った。スマホがあれば誰にも気づかれずにミシェルさんに相談出来るのに。母さんにお願いしてみようか? でも、私の誕生日は二か月以上先だし、クリスマスはもっと遠い。……そうだ、誕生日祝いの先取りって出来ないかな。私が悶々(もんもん)としているとしーちゃんが、
「ねえ、れーちゃん」
と呼んだ。
「な、何?」
慌てて答えると、しーちゃんが私の方をじっと見て、
「れーちゃんの見た夢を教えて」
と言った。
「しーちゃんが見たのと、そんなに変わらないよ」
そう言って昨日の夢のことを話した。ミシェルさんがレイアーナさんに叱られてこわがってたことと、SNSのこと。しーちゃんは黙って聞いていた。それから、
「れーちゃんはさ、レイアーナさんが考えてること分かった?」
と聞いてくる。私は一生懸命思い出した。その後に起こったことの方が衝撃的すぎて、半日くらいしかたっていないのに随分前のことのように感じる。
── レイアーナさんはどう思ってたっけ。確か……。
「ミシェルさんが危なっかしいから、釘を差しておこう、て考えてたね」
しーちゃんはカピバラさんの頭をべしべししと軽くたたきながら言う。
「あ、それはわかる。あたしもやばかったんだって、ちょっと背中が寒ーくなった。思念波なめてると痛い目にあうよね、やっぱり」
私も頷く。
── でも、もっと危ないのは……。
昨日のしーちゃんを思い出して体がぶるっと震えた。しーちゃんは忘れている。でもその話をしたら、絶対にまた思念体になって飛び出して行くだろう。……今話すのはやめておこう。
「ねえ、しーちゃん。私たち、今晩も一緒の夢を見るよね、きっと」
私は抱きしめていた白いカピバラの巨大ぬいぐるみの頭に顔を少し埋めながらしーちゃんに言う。しーちゃんも頷いた。
「うん、あたしもそう思う」
考えを整理しながらしーちゃんに言う。
「私たちが見ている夢。あれ、私達が知りたいと思ったことを夢で見てるんじゃないかな?」
するとしーちゃんは顎に拳を当ててしばらく身体をゆらゆらと揺らした。それから、
「確かに言われてみればそうかも」
と言った。私は続ける。
「昨日の夢はさ、Chatterの話を聞いてたからそのことを夢に見たんじゃないかな」
「そうだね。あたしもそう思う」
しーちゃんが私と目を合わせて、強く頷く。だから私もしーちゃんをしっかり見て提案する。
「あのね、知りたいことを先に決めておくのはどうかな?」
するとしーちゃんがにやりと笑う。
「いいね」
その時母さんから、出来たわよー、と声をかけられたので、話はそこまでになった。
昼食の後はクッキングタイムで、大量に使った小麦粉とココアパウダーにベーキングパウダーを混ぜて生地を作り、他に使った材料を混ぜたりトッピングしたりしていろんなクッキーを作った。生地を寝かせたり、焼いたりしている間にはきっちりと実験結果をまとめさせられた。スマホとデジカメで撮った写真は母さんがパソコンに取り込んでプリンターで印刷してくれる。
その写真を見ながら順番にまとめていくのはなかなか大変だったけれど、しーちゃんとワイワイ言いながら出来たので、例年に較べたらとても楽しく出来たと思う。
最後のまとめには、実験に使った食材はリサイクルしておいしく食べましたって入れようね、と言って出来立てのクッキーの写真を撮ったり、まだ少し温かいクッキーをおやつにしながら二人で協力してまとめていった。
思ったよりは大変で、途中で考えすぎて知恵熱が出る! としーちゃんが騒いだりもした。もちろんその時は母さんから、今日中に終わらせないと明日のお出かけはなしよ、と冷静な突っ込みを受けて、二人でひいひい言ったりしたのは……まあ、いつものことだった。
夜ごはんまでになんとか終わったときには、二人ともぐったりしてカピバラさんを枕に死体になっていた。でも母さんから容赦なく手伝いに駆り出された。しーちゃんがまた、鬼だ、ここに鬼が出た、とぶーぶー言って母さんからブリザード級の冷たい視線で射られたりと、やっぱりしーちゃんがいるとにぎやかだった。
夜ごはんの用意がすっかり済む頃、ようやく父さんが帰ってきた。母さんは速攻で父さんをお風呂に放り込んでいた。
Tシャツと半ジャージに着替えた父さんが団扇片手にテーブルにつくと、父さんと母さんがビール、私たちはコーラで「父さんお疲れ様でした!」と乾杯してからの夕食となった。
実験内容はカットしました。
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それではまたお会いしましょう。
皆様に風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




