84 夢のスイッチ
夢から覚めたら……。
ユニークが1500超えました。
ここまで読んで下さってありがとうございます!
大幅加筆改稿しました。流れは変わっていません。
(05.7.13)
「あなたたち、いつまで寝ているつもり? さっさと起きなさい!」
いきなり母さんの大声とともにシャッとカーテンを開ける音がした。部屋が明るくなり、びっくりして飛び起きた。
「え、今何時?」
机の上のデジタル時計は九時半を指していた。母さんが窓を背に仁王立ちしている。
「一体、何時まで遊んでいたの? 見に来た時は眠ったふりをしていたんじゃないでしょうね?」
腕を組んで睨んでいる。
「母さん、覗いてたの? 全然知らないんだけど?」
私が目を瞬かせていると、
「ほら、早く着替えなさい。母さんが来たのは十一時過ぎね」
そう言いながら母さんはずかずかとしーちゃんの枕元に移動する。しーちゃんは部屋が明るくなると同時にひんやり上掛けをさっとひっかぶって、その上掛けごと丸くなっている。起きる気が全くないよ。その上掛けを母さんがべりべりっと剥がしていく。抵抗むなしくしーちゃんが剥かれたけれど、それでも布団の上にくるんと丸まってしっかり目を閉じている。母さんが、
「詩雛、それ以上寝てるとおばさんがいろーんなことするけど、いいの?」
しーちゃんはいやいやと首だけ振っている。目はまだ閉じたままだ。さすがしーちゃん。私が変な感動をしているうちに母さんが最終攻撃に出た。
「詩雛、おばさん、ちゃんと声かけたからね。起きない詩雛が悪いのよ。では、行きます!」
そう言うと、こちょこちょこちょー! と言いながらしーちゃんの全身をくすぐった。さすがのしーちゃんもうわーっ、降参降参っ! と大騒ぎして、ようやく体を起こした。
「あー、死ぬかと思った」
けろりとして言う。母さんが、人間それくらいでは死にません、と言ってしーちゃんを布団から放り出すと、さっさとたたんで私のベッドを空けるように言う。私はなるべく急いで布団をたたみ、しーちゃんの布団が置ける場所を作った。
「二人とも着替えて下に来なさい。早くしないと今日中には終わらないかも知れないわよ!」
母さんはそう言いながらせかせかと部屋を出ていく。しーちゃんが、それは困るー! と言って急いで着替えを出しにボストンバッグのところへ行ったので、私もボックスに行って着替えを用意した。母さんが階段を降りる音を確認してからしーちゃんに声をかける。
「しーちゃん、もう大丈夫なの?」
「ん? 何が?」
しーちゃんが着替えを取り出しながら不思議そうに聞く。
あれ? しーちゃんは何もなかったみたいにいたって普通だ。どういうこと? もしかして夢だったのかな?
「あのさ、昨日の夜中のこと……覚えてる?」
恐る恐る聞いてみるとしーちゃんがぴたりと動きを止める。それから、ゆーっくりとした動作で私の顔を見る。これは、どういう反応だろう? でも、その瞬間にしーちゃんの額にうす青く光る受容体がバッチリくっついているのが見えた。おおぅ、夢じゃなかったよ。
「それって、またあの人たちの夢を見たか、っていうことを聞いてる?」
そう言うしーちゃんの顔は無表情で、何を考えているのかわからない。わざと知らないフリをしてるのかな? それともからかってる?
「いや、それもあるけど、昨日というか今日の夜中のことを聞いてるんだけど。身体がだるいとか重いとか、そういう感じはもうしないの?」
話がかみ合ってない気がする。しーちゃんは何度か目を瞬かせてから不思議そうに言う。
「ん? ……ああ、そっか。れーちゃんも同じ夢を見てたんだね。あれは、しんどかったー。……て言っても、夢の話でしょう?」
しーちゃんがごそごそ着替えながら続ける。
「夢でいくらしんどいと思ったって、しょせん夢は夢。現実じゃないんだから何ともないに決まってるじゃん」
さっさと着替え終わったしーちゃんはシュシュに腕を通すと、さっと長い髪の毛を一つにまとめてポニーテールにしていく。本当に何ともないみたいだ。……良かった。でも、あの夜のことを夢だと思ってるの? あんなに青い顔で息苦しそうにしてたことをおぼえてないなんて変だ。しーちゃんのおでこをじーっと見ながら考えていたらしーちゃんが、
「ん?何かついてる?」
と言ってぺたぺたとおでこを触わる。でも受容体には気付かない。何と言っていいのかわからなくてしーちゃんからついと目を逸らし、もそもそと着替えながら考えていた。その間にポニーテールにし終えたしーちゃんは、机の前に行くとスマホを立てかけてカメラを起動し、鏡代わりに自分の顔を映して確認している。なんとなくそれを覗き込んだら……
── あれ?
画面のしーちゃんには受容体が映っていない。しーちゃんのおでこにぴたりと貼り付いているはずの受容体がどこにも見えない。……本当に見えないんだ。でもしーちゃんが昨日の夜のことを夢だと思ってるのは、どうして?
その時、以前レイアーナさんたちが話していたことを思い出した。協力者になれなかった人たちから記憶を消去した、と話していたのを。……もしかして。
「ねえ、しーちゃん。昨日レイアーナさんたちに会ったのって何回かな?」
「何、まだ寝ぼけてるの? 買い物の時と夜でしょう? まあ、夢の中のことを数えるなら、ミシェルさんに会ってたのを入れて、三回? ……あれ、あの後どうしたんだっけ?」
そこでしーちゃんが前髪を触っていた手を止め、顎に手を当てようとして、はっとしたように顔を上げると、
「ところでれーちゃん。さっきから手が止まってるけど大丈夫なの?」
とくるりと私の方に向き直りながら言った。
「え? あ、やばっ。ちょっと考え事してた」
慌てて着替えを再開する。やばいやばい。また怒られゃう。
──……ん? 待って。ということは。
私は重大な事実に気がついた。
しーちゃんは、おでこに受容体がくっついていることを知らない。レイアーナさんはこれが抑止力になるって言ってたよね。……つまりこれからはしーちゃんの暴走を止められるってことじゃない? そんな、夢みたいなことが?
心臓がとくん、と鳴った。
「れーちゃん急いで。降りるよ」
「わ、わかった」
しーちゃんにせかされて慌てて立ち上がると、御守り袋をポケットに入れて部屋を出た。
詩雛の暴走、果たして止められるでしょうか?
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どちらもお楽しみいただければ幸いです。
それではまたお会いしましょう。皆様に風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




