82 暴走への抑止力
しーちゃんの暴走に手を焼く三人。
出した結論は……?
大幅加筆修整しました(23.7.05)
「だーかーら! 体に負担がかからないように思念体で移動出来る方法がないか聞いてるんじゃない!………う、………」
突然青い顔になったしーちゃんは、慌ててスマホを握りしめる。しーちゃんの思念石からふわりと薄い水色の光が現れてしーちゃんの体に入っていく。途端にレイアーナさんが頬をひくつかせて叱りとばした。
『馬鹿者! エネルギーのない体に鞭打つようなことをする馬鹿がどこにいる!』
ここにいます。
でもさすがのしーちゃんもやり過ぎたと思ったのか、その後ちょっとおとなしくなった。しーちゃんがゆっくり深呼吸をして息を整えている間に、冷凍ビームが出そうなくらいに鋭くなった瞳でしーちゃんを見つめるレイアーナさん。寒っ。視線だけで部屋の温度が下がった気がした。
そのとき、レイアーナさんの後ろからシュリーアさんが、いつもの頬に手を当てた姿勢のままおっとりと声を出す。
『あの、御姉様』
『何だ?』
姿勢も変えずにレイアーナさんが答えると、シュリーアさんが続ける。
『シイナさんには導き手が必要ではないかと考えます。わたくしたちが彼女たちを監視し続けることができない以上、シイナたちを導き指導する者が必要でしょう。そうでなければ彼女たちを協力者から外すべきではございませんか?』
── 私達が協力者でなくなる?
そうなったら思念波に悩まされることも、思念波酔いに苦しんだり、思念体でつれ回されることもなくなる。思念波を集めなくても良くなるし、他の人の思念にびっくりすることもなくなる。
── でも、私たちが協力者でなくなったら?
遠くない未来に地震と津波による大被害を受ける可能性が高い。それが起こるって分かっている私たちは逃げられるかもしれないけれど、被害を防ぐことは出来ない。東日本大震災や阪神・淡路大震災の時のように、家がなくなったり、たくさんの人が死んでしまうかも知れない。もちろん私やしーちゃんの家だってどうなるかわからない。私たちの代わりは、いない。今、頑張らなかったら未来は確定している。
── ここであきらめる? あきらめて、後悔しない?
そんなの答えは決まっている。私は精一杯力を込めてレイアーナさんを見返した。
「協力者をやめるつもりはありません」
レイアーナさんが言う。
『だが、レナはシイナを止められないのだろう? このままの状態でシイナを協力者にしておくわけにはいかぬ』
しーちゃんが息を呑む音が聞こえた。見るとぎゅっと唇を噛んでいる。スマホを握りしめる手が震えている。
── このままだとしーちゃんが協力者を辞めさせられてしまう……。どうしたらいい?
私の中でしーちゃんを止められる心当たりは、一人しかいない。
「あの、しーちゃんのお母さんに事情を話して協力してもらうことは出来ませんか?」
そう聞くと、レイアーナさんが途端に難しい顔になる。
『そなたらが事情を話したとして、母親が信じてくれるのか? 我らの姿を母親は見ることが出来ぬ。我らが思念波で語りかけても、母親には聞こえぬ。我らは何の役にも立たぬのだ。シイナの母親にどうやって信じさせる?』
うーん、だめか……。そうだよね。きっと私の妄想だと思われるかしーちゃんのいたずらだとしか思われない。思念石だって、見つかったら取り上げられちゃうかも……どうしよう。どうしたらいい?
しーちゃんを伺うと、また顔色が悪くなっている。目が合った。私を見て、何か言いたそうにしてゆっくりと右手をこちらに動かした。そのとき、シュリーアさんが動き、しーちゃんの側に行くと声をかけた。
『シイナ、もうそれ以上行動することはあなたの体に負担をかけるだけです。とりあえず今は回復のためにも眠りましょう』
シュリーアさんがしーちゃんの額に手をかざすと、うす水色の光がふわりと額に吸い込まれていった。するとしーちゃんの瞼がゆっくりと閉じていく。そのままシュリーアさんが手をかざし続けていると、しーちゃんの胸がゆっくりと上下し始める。眠った、のかな?
シュリーアさんはまだ手をかざしている。すると今度はしーちゃんからうす水色の光が出てきて、シュリーアさんの手の方へ戻ってきた。そこでようやく手を離し、シュリーアさんが立ち上がると私の方を向いて言った。
『レナ、今はこれ以上シイナが暴走することはありません。けれどもあなた方をこのまま協力者にしておくこともできません。御姉様』
シュリーアさんはレイアーナさんの方を向くと続ける。
『レナにシイナへの強制力をもたせるのはいかがですか?』
『なんだと?』
驚いたような声を上げたレイアーナさんのところへ戻ると、シュリーアさんはレイアーナさんの手をとって思念通話を始めた。レイアーナさんは眉を寄せ、顎に手を添える。シュリーアさんが思念通話を終えて後ろに移動しても、レイアーナさんは姿勢を変えなかった。シュリーアさんが私ににこりと笑いかけた。気のせいかもしれないけれど、その笑顔が少し怖かった。不安な気持ちで待っているとレイアーナさんが、
『……とりあえず試してみるか』
と独り言のように言って私に近づいてきた。そして、
『レナ、おまえにシイナへの強制力を持たせる。思念石を出せ』
と言う。意味が分からずきょとんとしていると、
『早く思念石を出せ。言う通りにしなければこのまま記憶を消去して終わらせる。どうする?』
と急かされた。けど、思いきって言った。
『あの、しーちゃんへの強制力を持たせるってどういうことですか?』
『説明はあとだ。協力者でいたいのなら言う通りにしろ』
不安だけれど、協力者でなくなる方が困る。仕方なく言われたとおりに御守り袋から思念石を取り出した。すると、
『思念石を両手でしっかり握りなさい』
と指示される。両手で包み込むように持つと、
『中にある受容体は分かるか?』
と聞かれた。
「はい」
『では、その受容体を思念石の中にあるエネルギーで包み込むイメージをしてみろ』
受容体の周りを包む? 受容体も、周りのエネルギーも、実際には見えないけれど存在を感じることは出来る。イメージすればいいんだよね。受容体の周りにエネルギー集まれー。……出来たかな?
目を閉じてイメージしていると、レイアーナさんが確認してきたので黙って頷いた。すると今度はそのエネルギーを思いきり受容体にぶつけて、膨らまないように押さえ込め、と指示される。
膨らまないように押さえる? なんとなく粘土でもこねるように、中の光でぎゅっぎゅっと受容体を押し潰すイメージをしてみる。おにぎりを握るイメージで何度もぎゅっぎゅっとしていると、押し潰された受容体がぷつりと二つに千切れてしまった。
読者様からの感想を元に大幅に加筆しました。おそらく次話からもしばらくは加筆の山となります。
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それでは、またお会いしましょう。
皆様に風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




