79 記憶の奔流
思念体になった二人が行った場所、そこは……。
加筆修整しました(05.6.23)
『……本当だ。レイアーナさんたちと同じ思念体になってる。でも、どうして? それに、ここはどこ?』
真っ暗闇の中をきょろきょろと見回しているとしーちゃんがニヤリと笑って上を指差した。見上げると、今まで見たことがないくらいたくさんの星が輝いていて、くっきりと天の川も見えている。
『すごい』
── ここ、空の上? ということは……。
おそるおそる下を向くと、ずーっと下の方に眩しいくらいに明るく輝く近畿地方の姿が見えた。ところどころ白くかすんで見えるのは雲が出ているところみたいだ。
『うわあ』
思わずぽかんと口を開けてしまった。いつまでも眺めていたいくらいに綺麗だけれど。
『……ねえ、私たちどうして思念体になってるのかな?』
するとしーちゃんが何でもないという感じで言った。
『ああ、それはあたしがれーちゃんを巻き添えにしたからだね』
『はい?』
何ですか? 巻き添えって。物騒な言い方にぎくりとしていると、しーちゃんは横でふわふわ浮きながらすぐ上の空間を指さす。
『そこ見て、何か気付かない?』
言われた通りに指さした先をよく見てみると、ゆらゆらと何かが動いているのが見えた。……何だろう? じっと眺めているとしーちゃんが言った。
『さっきの会合でさ、レイアーナさんたちが自分たちの記憶を薄ーく広げて協力者を見張ってる、みたいなことを言ってたの覚えてる?』
『うん、レイアーナさんたちのことを夢に見るのはそれが関係している、とか言ってたやつね。それが、あれ?』
よく見ないとわからないけれど、水面のようにゆらゆらと揺れる何かがあるのがわかる。あれがレイアーナさんたちの記憶を広げたもの?
『ねえ、しーちゃんはどうやってここまで来たの? 夢は見なかったの?』
『見てたよ。ミシェルさんがいて、うわぁ、外国人だかっこいー、とか思ってたよ。でも、あたしシュリーアさんたちが過去の記憶を広げて監視してるって言ってたのを思い出してさ。じゃあこの夢も、その記憶から来てるのかなって気になって……。この記憶を辿ってみたら、その記憶の元へ行けるんじゃあ? って思ったんだ。それで試しにシュリーアさんから離れてみようと思ってやってみたんだ』
しーちゃんが今度は下の灯りを見ながら言う。
『そしたら、何か体がすごい重いなって思ったんだけど、頑張って抜け出してみたら、れーちゃんの部屋の中で思念体になって浮いてたんだ。あたしとれーちゃんが寝ているのが見えて。それで、あ、思念体になってる! ってわかったんだ。このまま空の上に移動して行けば見つかるかもって思ったんだけどね、一人で行くのはちょーっと不安だったから、れーちゃんも連れ出せないかなって。れーちゃんの身体に手を伸ばしたら、何となくこれがれーちゃんの思念体だ! って感じ取れたから、後は思いっきり引っ張ってみたらずるずるーって、れーちゃんの思念体が抜けてきたから、そのまま引っ張ってここまで連れて来たよ』
……うん。思いっきり巻き込まれたのはよくわかった。
『じゃあ、あれがレイアーナさんたちが広げたって言ってた記憶?』
しーちゃんが頷く。
『うん。そうじゃないかと思うよ。だからあの中に入ったら、もーっといろんなことが分かるんじゃないかと思って』
『なるほどね。じゃあ行ってみる? せっかくここまで来たんだし」
そう言うとしーちゃんがにやりと笑う。
『そうこなくっちゃ。……じゃ、行くよ?』
『うん、行こう』
私としーちゃんは『せーの、』で波の中に突っ込んだ。
途端にいろんな記憶がごちゃ混ぜになって押し寄せてきた。頭の中に、ぱっ、ぱっ、と映像が切り替わるようにして様々な情報が押し寄せて来る。あまりの多さに頭の中身までごちゃ混ぜになったように感じて、慌てて波の中から逃げ出した。
ふーっ、と二人で一息ついていると、辺り一帯に響き渡る大音量でレイアーナさんの声が響いてきた。
『お前達! 今すぐに自分の身体に、速やかに戻れっっ!』
『うわっ!』
『ひゃっ!』
腰を抜かすくらいびっくりしていると、追い討ちをかけるようにまた声が響いてきた。
『我らもそちらに直ぐに向かう! そなたらは、今すぐに身体に戻りたい、と強く願え!』
私としーちゃんが驚きのあまり呆然としていると、
『早くしろ! 今直ぐに戻らねば、死ぬぞ!』
『『ええっ!』』
『急げ! 戻りたいと願え!』
『『はいっっ!』』
私はしーちゃんと顔を見合わせると、ぎゅっと目を閉じて、
── 戻りたい!
と強く念じてみた。
すると、ぐんっと何かに引き寄せられるような感じがして、あっという間に身体に引き寄せられていくのがわかった。
気付くと自分のベッドに寝ていた。体が、重い。目が、開かない。体のパーツ一つ一つに、ものすごい重さを感じる。身体って、こんなに重かったんだ……。まるで地球の重力に貼り付けられているようだ。なかなか動かない体を動かそうと何度も挑戦して、ようやく目が開いた。
見慣れた天井が暗闇の中にぼんやりと見える。ゆっくりと首を動かして時計を探した。午前零時を過ぎたところだった。なかなか動かない口を無理やり動かすようにしてしーちゃんに声をかけた。
「しー、ちゃん。だい、じょう、ぶ?」
身体が重いだけじゃなくて何だかだるい感じもする。呼吸すらうまくいかなくて、深呼吸をするように力を入れてしている。
……私、どうなってるんだろう。
そのときしーちゃんの布団から、妙なうめき声みたいなものが聞こえた。その後でかすかにしーちゃんの声が。
「な、に……こ、れ。……から、だ、……う、ご、……な、い。お……も……い……」
活動報告にも書きましたが、PVが3000を越えました。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。読者がいることで、書く力が湧いてきます。
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それでは、またお会いしましょう。
皆様に風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。




