77 レイアーナ視点 受容体に潜む危険
しばらくミシェルとの会話が続きます。
少し加筆と修整しました。(05.6.12)
ミシェルに視線を合わせると、さっとミシェルの頬に赤味がさす。見なかったことにして厳しい声で言った。
『そなたは気付いていないようだが、相当危ない橋を渡っていた自覚はあるか? 思念波に呑まれてしまえば、そなたは死ぬぞ』
「……え?」
ミシェルの笑顔が固まる。そこに追い討ちをかけるように言う。
『思念波は、人の思念で出来ているのは分かるな?』
ミシェルがこくりと頷く。
『では、思念とはどこから来る?』
「え? ……うーん、多分脳から……だよね?」
ミシェルは額に左手の人差し指を当てて考えている。
『そうだ。我らアレトで思念波を操る者は、能力が高いほど思念波の扱いに訓練が必要になる。それは思念波が人の思考から発されるものだからだ。思念石は人の発する思念波を一定量吸収する受け皿だ。そなたの思念石は紫水晶の指輪だったな?』
再びミシェルがこくりと頷き、右手の中指にはめられている指輪にちらりと目をやる。
『アレトの人々が持つ思念石は、ほとんどのものが一定量の思念波を吸収するだけのものだ。だが、そなたの思念石には受容体が入っている。受容体は本来、思念波を扱う為に使うものなのだ』
「思念波を、扱う……?」
ミシェルが呟くように言って人差し指でこつこつと額をたたく。
「……何だか思念波に力があるみたいに聞こえるけれど。まさか、ね?」
そんなわけないよね、と同意を求めるミシェルをバッサリと切るように言う。
『何の力も無いものを集めてどうする』
ミシェルが一瞬動きを止め、驚いた声を出す。
「え? って、これ、何かパワーがあるの? え、待って。思念波って、人の思考から出る波動みたいなものだよね? 僕の感覚では、強く感情が動いた時に多く出てるみたいだな、て思ってたんだけど。さっきみたいに皆でワイワイやってる時とかはすごく集まってくるなって感じたし、最近は何となく強い感情だったら、近くにいる人の考えてることがわかるような気がするな、とは思ったりしてたんだけど……」
ミシェルは額に指を押し当てたまま、うーんと考え込んでいる。しばらくそのままでいたが、首をひねり、
「これ自体にパワーがあるなんて感じたこと……あっ!」
そこでぴたりと動きを止めると顔を上げて言う。
「さっき、レイアーナ姫が思念波を抜いた後に来たやつなら……」
ふいにミシェルの顔から表情がなくなる。
「あの時の思念波にはものすごい力があったような気がする。すごい勢いで流れ込んで来て、引きずり込まれそうになったんだよね……ねえ、レイアーナ姫」
珍しく真面目な顔になると聞いてくる。
「あれが、思念波の力なの?」
『そうとも言えるし、違うとも言える。たしかにあれも思念波の力の一部だ。より多くの思念波が集まれば大きな力の流れとなる。だが、その力を使うにはより確固とした意思の力が必要となるのだ。ミシェルが危険であったのはそこだ。もしもあの時、思念波の流れに呑まれていれば、そなた自身が思念石に吸収されてしまっていただろう』
ミシェルが静かな声で聞く。
「そうなったら?」
『ミシェルの思念体がなくなり、肉体だけがこの世界に残ることになる』
後ろに控えていたシュリーアがにっこりと微笑みながらつけ加える。
『脳死という状態になりますね』
ミシェルの頬がひくりと震えた。おそるおそるといった様子で聞いてくる。
「それ、回復の見込みは?」
『ないな。受容体に取り込まれた時点でエネルギーに変換されるので不可能だ』
「あっぶな! え? じゃ、何? オレ、死にかけてたわけ?」
ずざざ、と身体をバックさせたミシェルは肘をこちらに向けながら、色を失った顔を隠すように覆っている。あまりに驚いたからか、言葉が荒くなっていた。
「さすがにちょっと怖くなってきたよ」
そう言うとミシェルは両腕をさすっている。鳥肌が立ったのだろう。ふ、と笑いながら付け加えた。
『思念酔いで済んで良かったな。……ところで先程言いかけていたのは何だ?』
「え? 何だっけ……」
まだ顔色の悪いミシェルに、ため息をつきながら言う。
『いいことを思い付いたと言っていただろう』
「……ああっ、思い出した。……ねえ、この指輪、危ない物じゃないよね?」
ミシェルはまだ恐々(こわごわ)といった様子で紫水晶の指輪を見ている。
── 少し怖がらせすぎたか。
腕を組んだまま、ミシェルに言う。
『そこまで怯える必要はない。その思念石の中の思念波を、全て一度に抜けばさすがに危ないかもしれないが、私が調節して取り込んでいるからな。普通にしている分には影響ない』
「良かったぁー」
ミシェルがほっとしたところで、先程の話の続きを促すと、あっという間に笑顔を取り戻して言う。
「さっき言いかけてたことなんだけど、僕たち協力者も予定が急に変更になったり、何か姫達に相談したいことがあったときに連絡が取れる手段があったら便利だな、って思ってさ。……それに、どんどん協力者も増えてるみたいだし、僕たち協力者同士が情報交換出来たりするといいなって思ったんだ」
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