76 レイアーナ視点 思念波網の完成
思念波網の構築が終わりました。
修整しました(05.6.11)
サイイドの思念石は、たまたま客の小さな女の子にもらったというキーストラップに付いていたローズクォーツの石になった。
サイイドは最初、私を見てテレビ局の仕掛けたドッキリだと思ったと笑って言った。ボカロを使った何かのプロモーションかと思ったそうだ。だが、周りの様子から私が見えているのが自分だけだと気付き、とても驚いていた。
私の話には半信半疑のようだったが、思念波を集めることは了承してくれた。サイイドの話にはよくわからない単語が多く、戸惑うばかりだったが、それはミシェルに説明を求めればよいだろう。三日後に会うことを約束してエジプトを後にした。
上空に戻り、思念波網の確認をする。やはり南の方に反応がある。思念波網を広げながら、少し南に移動してみることにした。思念波網には常に細かなさざ波が立っている。波の動きに任せるようにしながら移動していった。
だが、中央部に到達しても反応している場所には届かなかった。ここに来て違和感を覚えた。反応を感じる場所が想定以上に遠い。……つまり、まだ思念波網の外にある存在だというのに、反応するほど強い思念波を放つ者がいるということだ。興味を惹かれると共に警戒感も強くなった。
この世界に思念波を認知している者は確認できていない。だからこの思念波の持ち主も思念石を持っていないことは間違いない。なのに、一体どのようにすればこれ程の思念波を放ち続けられるのだろう? しばらく考え込んでいると、突如ぴたりと思念波が止まった。辺りには、先程まで感応していた思念波を受けて波立つ思念波網の存在と、微かに感じられる、地上に住む者から発される思念波のみとなっていた。
今まで感じたことのない反応に、背筋がぞくりとした。
気付けば太陽の位置が高い。そろそろ戻らなければ。後ろ髪を引かれつつ、その場を後にした。
急いで北上し、地中海近くまで戻って来た。思念波網を確認すると、シュリーアの構築した思念波網が混ざりつつあった。そこで一旦停止し、思念波網を繋ぎ合わせ一つにしていく。少し北東部へと誘導し、以前の思念波網とも繋ぐ。
こうして地球全体を覆う思念波網が完成した。
シュリーアと合流するためフランスへと戻る。パリ上空で思念波網の構築をしていたシュリーアは、イギリスの辺りに反応を感じ取ったらしい。そちらも後日確認することにし、二人でミシェルの元へと向かった。
ミシェルの部屋の窓際に着いた時、彼はまた窓側にある机に向かい、複数のモニターを使って何か作業をしているところだった。
『ミシェル』
呼びかけるとすぐに手を止め、椅子ごとくるりと回転してこちらを向いた。眩しいくらいの笑顔での出迎えに、思わず入るのをためらってしまう。すると待ちきれないというようにこちらへ駆け寄ってくる。その様子は尾っぽをぴこぴこと振って喜びを表す子犬そっくりだった。
ミシェルは黒縁の眼鏡を外すと、きらきらに輝く瞳を少しうるませた。なんだこの乙女のような反応は? 本当にこの男は不可解すぎる。これで有能でさえなければ即刻、記憶消去してやりたいところだ。
『やあ、姫様がた。午前中はごめんなさい。三日前に約束したときに予定が入っていたのをすっかり忘れてて。訂正したくても知らせる方法がなかったからね。お待たせしてすみませんでした』
そう言うと申し訳なさそうに頭を下げた。
『構わない。他に要件を済ませてきたから問題ない』
そう答えるとミシェルは眉を寄せ、
「とんでもない! 大切な人を待たせてしまうなんて僕は我慢できないよ。だから、いいことを考えたよ」
そう言うとにっこりと白い歯を見せながら笑った。シュリーアが頬に手を当て、軽く首を傾げると目を瞬かせる。
『いいこと……ですか? あの、わたくしたちに連絡出来る方法があるということでしょうか?』
思念体である我らに連絡する方法だと? どういった連絡手段があるというのだろう? 考えてもわからぬ。腕を組むとミシェルに言う。
『緊急の場合に、我らが地球上にいれば伝わるネットワークなら先程構築したが?』
すると大きく目を丸くし、その後破顔する。
「嬉しいな! 僕たちのことをきちんと考えてくれてるんだね」
答えず黙って口の端を軽く上げた。私が笑うと、最初の頃のミシェルは一瞬身体を引いていたが、今はにこにことしている。もっともミシェルの機嫌の悪い顔などみたことがないが。我らが顔を見せればすぐに自分の仕事を中断し優先してみせる。まるで餌を待つ大型犬のように思えるくらいの従順ぶりだ。実は耳と尾を隠しているのではないか?
顔色も元に戻っており、思念酔いの影響もなさそうだ。
『体調はどうだ?』
そう聞くと、ああ、と言って頭をかいた。
「ごめんね。注意するように言ってくれたのに。思ってたよりも勢いがありすぎて、僕自身まで取り込まれるんじゃないかとびっくりしたよ。思念酔い……って言うんだね。車酔いしたときみたいにぐらぐらして気持ち悪かったけど、すぐ治ったと思うよ」
『そうか』
── ふむ。これは放置しておくと危険なレベルではあるな……一応釘はさしておくか。
ここまで読んで下さってありがとうございます!
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それでは、またお会いしましょう。
皆様に風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。




