75 レイアーナ視点 7人目のイルラ
75話目です。しばらくレイアーナ視点で続きます。
少し加筆と修整しました(05.6.9)
周囲の者が怪訝そうにミシェルを見ている。隣に座っていたミシェルより少し年上にみえる女性が何か親しげに話しかけるが、ミシェルは皆に声をかけるとこちらへ向かって歩いてきた。ボトムスのポケットから携帯電話を取り出して耳に当てると話し出す。
「お待たせしてすみません。今、開発チームとのミーティング中で。こちらはランチミーティングまでの約束なので、午後からならば大丈夫です」
こちらに向かって、軽くウインクして微笑んだ。
『では、また午後に来よう』
そう言ったところで思念石の色が変わっていることに気づいた。
『思念石が満ちているようだ。抜かせてもらうぞ』
ミシェルは携帯電話を持つ右手の中指をぴくりと上げると、何か思うところがあったのか、
「なるほど。どうりで」
と呟いた。ミシェルに近づき、思念石に触れる。途端にミシェルの瞳がキラキラと輝き、うっとりとした表情になる。正直あまり近寄りたくはないのだが、そうもいかぬ。ちらりとシュリーアを伺うと、相変わらず柔らかく微笑んではいるが、かすかに口元が引きつっている。軽く息を吐き、気持ちを切り換えると言った。
『半分ほど抜かせてもらうぞ。だが、これだけ満ちていると抜いた直後、一気に思念波が流れ込む。流れに引きずられぬように心せよ』
ミシェルの思念石に手を添え、たまっていた思念波を抜き取ると持っていた受容体に移す。それから再度声をかける。
『私の手が思念石から離れると、一気に思念波が流れ込む。かなりの勢いになるだろうから巻き込まれぬようにしっかり繋ぎ止めておけ』
「え? どういうこと?」
そのまま触れていた手を離す。すると周囲の思念波が一気にミシェルの思念石に向けて流れ込んだ。
「うわっ」
ミシェルは大きな声を出して携帯電話を取り落とすと、その場に踞り頭を抱えた。顔色が真っ青になっている。
『やはり思念酔いしたか』
だが、勢いはあるが本体に影響を及ぼすほどの量ではないことは計算済みだ。それでも最初は驚くだろうし引きずられそうにもなるだろう。何度か経験すれば慣れていくものなので、心配はない。酔いもすぐに収まるだろう。
「ミシェル!」
先ほど隣にいた女性が駆け寄って来る。そっと身体を寄せてきた彼女を制止して、
「大丈夫。ちょっとした立ちくらみだから。昨日徹ゲーしたからかなっ」
とわざと軽い調子で言うと、ゆっくりと立ち上がった。そしてまた携帯電話を耳に当て、
「すみません。それでは午後、お待ちしています」
と言うとまだ少し青い顔のままではあるが確かな足取りでソファーに戻って行った。
── 徹ゲー、とは何だ?
何に時間を費やしたというのだろう? ゲーとは何のことだ? やはりこの世界のことはよくわからない。だが、今その問いに答えてもらう事はできない。とにかく出直すしかないのだから、部屋を出て一度上空に戻る。そこでシュリーアに言った。
『そなたはここで思念波網の構築を始めよ。私はアフリカに行き、新たなイルラを得てくる』
『かしこまりました。御姉様に風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします』
シュリーアは両手を組み合わせ、額に当て無事を祈ってくれる。アレトでは当たり前の送り出す側の挨拶だ。私もシュリーアの額に手を伸ばし、祈りを返す。
『そなたにも風の恵みがもたらされんことを祈ろう』
見送られながら、南へ向かって移動を開始した。
一路アフリカを目指して南下し、海を越えたところで思念波網を構築する。ゆっくりと思念波を広げながら、反応がないか確認していく。空から見たアフリカは大きな砂漠を抱え、海岸沿いに張り付くように都市と緑がある。
しばらく思念波を広げていくと、東の方角に微かな反応を感じた。更に広げると砂漠の中央付近にも反応がある。中央付近のものが反応は強い。しかし、砂漠では効率的に思念波を集めるのは難しいだろう。
時間的に両方へ向かうのは難しい。ならばここは人口の多さで選ぼう。そう決断し、東の方角に向かうことにした。
しばらく海岸沿いに移動すると、突如緑に覆われた大地が見えてきた。砂漠を縦断するように流れる驚くほど大きな大河の河口だった。思念波の反応はこの川沿いから感じられる。
砂漠を南東側へ向けて突っ切るように移動していくと、いきなり広大な耕作地が現れたかと思うと、見る間に大きな街が現れた。
反応があったのはまだ東側だ。さらに東へ向かうと、突然目の前に巨大な遺跡が浮かび上がり、一瞬ぎょっとした。
眼下には巨大な四角錐の建造物が三基確認出来る。砂漠の砂と色が似ているために近くに来るまで存在に気付かなかったのだ。
── これは、こちらの世界のピラミッドか。随分風化しているな。
学園在学中に、同じ辺りを治めるザラマンデル王国の者から映像でピラミッドを紹介されたことがあった。ザラマンデルのピラミッドは白く輝いて見事な装飾もされていたが……。元は白かったのだろう。よく見るとごく一部にその名残が見てとれる。
ザラマンデルでは信仰の対象でもあり、非常に大切にされているということだったが、地球のピラミッドはただ大きすぎたために破壊を免れただけのようにも見える。まさしく過去の遺物という様相だ。
非常に興味を引かれたが、今は時間が惜しい。あきらめて先を急いだ。ピラミッド群を通り抜けた先にまた街が開けている。イルラの反応はこの街からのようだ。
ギザと呼ばれるこの街で、目立って立派なホテルでドアマンをしていたサイイドという三十代の男をイルラにした。褐色の肌に彫りの深い顔立ちで、くるくると縮れた黒髪と顎を覆う濃い黒髭の人懐こそうな男だった。
少しずつまた新しい読者が増えて来ました。ここまで読んでくれて、ありがとうございます!
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再読の方、改稿するたびに確認していただき本当にありがとうございます!(感涙)
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よろしくお願いいたします。それでは、またお会いしましょう。
皆様に風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。




