74 レイアーナ視点 タイムリミット について
69話に大幅加筆をしました。気になる方は、そちらもお読みください。(21.09.05)
話に直接関係があるわけではないのですが、名前を間違えていたので変更しています。
アイーシャ→アリーシャ
ヒンドゥー語で「光」の意味があります。
大幅に加筆修正しました。(05.6.7)
三日後の再会を、アリーシャに再度伝えたシュリーアと共に部屋を出る。
そこから上空へ移動すると思念波を集め、思念波網を張った場所まで戻る。思念波網は変わらず静かにたゆたっている。
我らは一旦目を閉じ、反応を確認した。目立った変化はなかったので、いつもどおり思念体を出来るだけ圧縮して成層圏を脱出する。
国際宇宙ステーションは見当たらず、そのまま船の元へと向かった。すると、船尾を目にしたシュリーアがふとその場で立ち止まり、目を瞬かせるとためらうように言う。
『あの………御姉様、わたくしの見間違いかもしれないのですけれども……こちらの世界にはみ出しているこの船の破片ですが、少し大きさが違わないでしょうか?』
『そなたも気付いたか。時間が惜しい。話は船内に戻ってからにしよう』
そう言うと宇宙船の中へと戻る。シュリーアが後を追ってくるのを確認して、コントロールルームに戻りがてら先程の説明をする。
『異世界にはみ出ている船尾の部分は、僅かずつだが小さくなっている。もともとあの世界のものではないので排除される可能性はあった。それが目に見える形で現われてきているのだ。いずれ我らはあの世界から切り離されるだろう。我らが異世界とこの空間から脱却出来るまでには時間制限があるということだ』
コントロールルームの入り口が目の前に見えてきた。ドアは閉まっているが、思念体の自分達に不都合はない。すり抜けながら続ける。
『だが、異世界からの排除は悪いことばかりではない。我らの世界に帰還するためには寧ろ好都合でもある』
『そうなのですか?』
シュリーアが自分の身体に向かいながら聞く。私も自分の身体へ戻りながら答える。
『そうだ。異世界に突出した部分があれば、それをこの空間に戻すためのエネルギーが更に必要になる。いずれあちらの世界への空間が閉ざされるなら、その後で脱却する方が効率的なのだ。だが、無論短所もある』
シュリーアが思念体を戻して答える。
「わたくしたちが思念波を集められる時間にも期限があるということですね」
『そうだ』
思念体を身体に戻して続ける。
「今すぐというほど差し迫っているわけではない。焦る必要はないが確実に計画を遂行していく必要はある。それはそうとして、シュリーア」
身体を起こしてシュリーアの方を向く。
「はい」
するとシュリーアも姿勢を正す。ようやくシュリーアも少し身体を動かせるようになってきたのだ。
「補助核の様子はどうだ?」
するとシュリーアが緩く微笑みながら答える。
「はい。主核にはゆとりを持たせていますが、補助核はこれで八割ほど満ちた状態になると思います」
「そうか。ならば残りの補助核も使えるようにした方がいいだろう。やり方はわかるな?」
「はい。受容体を分割して補助核に移せばいいのですね?」
「そうだ。必ず主核から分けるように」
「わかりました」
答えるシュリーアの様子を注意深く観察する。だが、アリーシャのことを気に病む様子は今のところ見受けられない。杞憂であったか? あえて触れぬようにはしているが、この船には既に死がはびこっている。シュリーアも腹心を亡くしたばかりだ。
だが、妹はいつも通りの様子で思念波の取り込みを始めている。その表情から内面を推し量ることは出来なかった。
この室内だけでも二体の亡骸が浮かんだままだ。いずれも学園の近侍コースで学ぶはずであった者たちだ。
姿勢を戻すと、思念波の取り込みをしながら考えていた。
今回船内で起きたクーデターは、クーデターと呼ぶにはあまりにも稚拙なものだった。だからこそ予測不能でもあったのだが、亡くなった者たちはいずれもまだ若い学生ばかり。反乱というよりは撹乱が目的であったとしか思えない。あのように幼い者たちが正規の軍人に勝てるわけがないのだ。
── おそらく真の目的は……。
目を閉じたまま、シュリーアに言った。
「採集した思念波の取り込みと補助核の確認がとれたら今日はもう休め」
「はい」
補助核を満たしながら計画を確認し、推敲する。
イルラは今のところ順調に増えている。問題は空間離脱時の思念波の操作だな……。
── やはり思念石を設置して使うべきだろうが……。
今の身体では、まだまだ自由に船内を移動できるまで時間がかかる。思念石を移動させようと思えばどうしても実体で動く必要がある。
── 間に合うだろうか?
いや、間に合わせなければ帰還そのものが不可能になる。間に合わせるしかないのだ。……焦るな。
焦る自分の思念波も受容体に吸収させ、気持ちを落ち着かせる。焦るな。最速で計画を実行することだけを考えろ。
やがて取り込みが終わると、ゆっくりと休眠状態に入った。
しばらくの休息の後、我らは再び地球へと移動した。思念波網を確認し、イルラの痕跡を追う。特に異常はないようだ。
今日はミシェルの元へ向かう。
オフィスのあるビル内部へと入って行くと、ミシェルは来客中だった。入口に近い位置にあるローテーブルの周りの椅子に数人の青年と女性が座り、大画面のモニターに映し出された映像に向かって賑やかに話しながら手元の小さな機械を操作している。画面に映る三次元のようにも見える映像の中の人物を一人一人が操作しているようだ。
── 何かのシュミレーターか?
とりあえずミシェルに声をかけた。
『ミシェル。いつ頃なら手が空く?』
すると急いでこちらを振り返り、ひどく嬉しそうな顔を見せた。
それでは、またお会いしましょう。
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