7 レイアーナ視点 異空間からの交信
異世界ではなく、異空間です。
世界の狭間の空間にて。
大幅に改稿しました。内容は変わっていません、たぶん。
22.8.29
目覚めた時、船内は薄暗く、非常灯の灯りにうっすらと照らされていた。
何だ? これは。どうなっている?
── 私は……?
眠っていたのか? まだぼんやりとする頭で考える。
目の前にはいつになく近くに天井がある。体はふわふわと浮いているようで、まるで重みを感じない。
どういうことだ? 私は何をしていた?
不意に頭の中を記憶がよぎる。
そうだ。非常灯が点いているのは私が緊急停止ボタンを押したからだ。
そこではっとして、素早く身を起こそうとして違和感を抱く。
── いつの間に、ベルトを外した?
身体を探ろうとしたところでようやく気付いた。うっすらと透き通っている。輪郭は認められるものの、後ろにあるはずのものが透けて見えている。
ふわり。水色の長い髪が広がり、身体の動きに合わせて波打つ。
……これは、思念体か!?
見下ろすと自分の肉体が、目を閉じて座席に固定されたままそこにある。
それを見た途端、走馬灯のように以前の記憶がよみがえってきた。
はっとして辺りを見回す。
── そうだ。戦況は!?
船内は先程までの喧騒が嘘のような静けさに包まれている。いや、静かなのではない。
全てのものが動きを止めているようだ。中央にある巨大なモニターも、電源が落ちているのか何も映っていない。何よりも、つい先程まで立て続けに揺れ動いていた衝撃が全く感じられない。
『どうなっているのだ?』
目を閉じ、思念波を広げていく。コントロールルーム全体から、さらに広げて船内全体をスキャンする。
……おかしい。誰の意識にも感応しない。思念波を感じ取ることはできるが、どれも微弱で思考している様子がない。
ふうっ、と深く息をするようにしてさらに思念波を船外へと広げてみる。
やはり周囲に感じられるはずのものが全くない。監視衛星の波動、微弱ながら、数多くあったはずの機雷群の微かな振動。外部にあったはずの全てのものが感じ取れない。
……これではらちがあかない。目を開くと、思念体のまま思い切って移動を始め、確認のため宇宙空間へ飛び出した。
つもりだった。
『何だ、これは!?』
辺りは無の空間だった。星明かり一つない。全く何も存在しない空間に、宇宙船だけがぽつんと浮かんでいる。
いや、よく見ると船尾が途切れ、その部分で空間が閉じている。
振り返ると同じように船橋には、わずかに空間の歪みがあった。
試しに歪みに向けて思念波を流してみると、僅かに外部へ流れ出す手応えがある。そして船尾の辺りに思念波を流すと、船外の空間はそこで閉じていることがわかった。
残りの船尾はどうなっているのだ?
思念体を船内に戻し、船尾まで移動する。その間に出会った乗務員達は全て意識がない。ある者は倒れ、ある者は踞ったまま、動かない。
試しに軽く思念波をぶつけてみると微かな反応はあるが、意識が浮上するほどの覚醒には至らない。
不可解なことばかりだ。それに、どれくらい思念体のままでいる? かなり時間がたっているはずなのに、疲れを感じない。
通常思念体での移動には細心の注意が必要だ。長時間身体を空けていると、精神も肉体も消耗してしまう。
だが全く疲労を感じていない。かといって生命活動が停止しているわけでもないようだ。肉体との繋がりを確かに感じられる。これば一体どういうことだろう……。
『まさか、時が止まっているのか!?』
そのような事が可能なのだろうか? しかし他に説明がつかない。肉体との繋がりは感じても、鼓動は感じない。出会う者誰もが動きを止めていることもそれならば説明がつく。
なおも探索を続けていると、やがて何事もなく船尾に到着した。目視した限りでは、今いる辺りは先程の空間の外部になるはずだ。思念波を外へ向けて流してみる。すると、遮るものなく広がっていくのがわかる。
── こちら側は別空間になっているようだな。
意を決し、そのまま船外に抜け出してみる。そこには見慣れた宇宙空間が広がっていた。
── さて。ここはどの辺りか……!!
見渡してすぐに違和感を感じた。先程までの喧騒が嘘のように静かな空間が広がっている。
……ここは、どこだ?
ゆっくりと回転しながら視線の向きを変える。
本来ならば母星が見える方向へ視線を向けると、推定した方向に確かに星がある。青々とした海に、広い大地が見える。
だが、あるべき宇宙港や監視衛星が見当たらない。
身体がこれ以上知ることを拒否するように動かない。これは、恐怖か? 世継ぎの姫ともあろうものが、この程度で怯んでいてどうする!?
自らを叱咤し、結果を知ることを拒もうとする自分自身を、無理に奮い立たせるように力を入れてゆっくりと振り返る。すると、さらにあり得ない光景がそこにはあった。
浮かんでいたのは宇宙船の残骸だった。いくつかの噴出口とその機関部だけが切り取られたように存在している。よく調べてみようと後方に回ってみると、そこには何もなかった。あるはずの宇宙船の欠片の部分には、僅かに空間に歪みがあるように見える。
振り向くと、その先には衛星がある。だが、あるべき人工物が何も見当たらない。
似て非なる世界。
── 並行世界ということだろうか?
母星と衛星があり、目視した限りで今、宇宙船のある場所は距離的にも襲撃に会った地点とそれほどずれていないように見える。
だが、明らかに違う世界。
そして、いびつな形で出現している船体。
── 原因は、あれだろうな。
思念波の相殺。あの時の衝撃が空間に穴を開け、並行世界に干渉したのだろう。
単純に考えれば、あの船橋前の空間の歪み。あの向こうに元の世界があるのだろう。
『さて、どうしたものか………』
次にやるべきことは。
「並行世界からの脱却、か。 ……て、何? 何のこと?」
あれ? 前にもこんなことがあったような?
真夜中にふと目を覚ました私は、布団の中でぼんやりしながら今見ていた夢を思い出していた。
不思議な夢だった。月と地球の間に身体が浮かんでいて、何かをじっと見ていたような気がする。
あれは、誰だろう? わからないけれど、とても辛そうだった。身体が透き通っていたような? あれ?
でも、服は着てたよね。……何か、宇宙人っぽい?
── 明日の古墳探検が楽しみすぎて、変な夢を見たのかなあ。
「……とりあえず、もう一回寝よう」
そして朝起きた時には、昨日の夢のことなんか、きれいさっぱり忘れてしまっていた。
Twitter企画で、
円月おみ@満月 (@sin_karma0083) 様よりレイアーナ姫のイラストをいただきました。
クールビューティーな感じが素敵です。
ありがとうございました!