69 レイアーナ視点 新たなイルラの獲得
レイアーナ視点です。
二人がイルラを獲得していきます。
まる一日分、計算ミスをしていたことに気付きました。本日、大幅加筆しています。(21.09.05)
更に修整しました(23.5.25)
シュリーアを伴いミシェルを訪ねた後、そのままパリでイルラを探させた。
人通りの多い場所の上空で、思念波を薄く広げ感応者を探す。すると広い川に架けられた大きな橋の上で、シュリーアより少し年上に見える少女が見つかった。
サーラと名乗った少女は、友達と待ち合わせをしているところだと言っていた。
初めて我らを見た彼女は目を丸く見開き、慌てて周りを見回したが、他に我らに注視する者がいないことで訝る様子を見せた。それから「携帯電話」とミシェルに教えられたこの世界の通信機器をこちらに向ける。すると、パシャリと音が鳴った。そのまま画面を見ていた彼女が眉を寄せる。その後何度か同じ動作をし、何か呟いている。
受容体を持たない者の言葉は理解出来ない。彼女が何に戸惑っているのかわからないので、意志疎通出来るようシュリーアに指示を出した。
シュリーアが彼女のブレスレットにある、いくつかの石の一つに受容体を飛ばす。
彼女は携帯電話の画面に夢中で気づいていない。受容体が石に定着したところでシュリーアが声をかけた。
『お取り込み中失礼いたします。初めまして、わたくしはシュリーアと申します』
サーラは一瞬ぴょんと飛び上がり、一メートルほど後ろに下がって怯えた目を見せた。シュリーアが慌てて、
『驚かせてしまい申し訳ございません。少しお話させていただいてもよろしいでしょうか?』
と尋ねると、
「わ、私? ……あ、あなた達は何? ホログラムなのに話せるの? え、これ何なの? テレビのドッキリ?」
びくびくしながら再び辺りを見回し始める。だが、やはり誰も気付く様子がないことにますます混乱しているようだ。
「え? 何? どうなってるの?」
そんなサラにシュリーアは柔らかい笑みを浮かべながら話しかける。
『わたくしは今思念体という存在です。わたくしの思念波に感応してくださった方でなければ、この姿を目にすることが出来ないそうです。よろしければそちらの携帯電話を耳に当てていただけませんか?』
彼女が恐る恐る携帯電話を耳に当てると、シュリーアは花がほころぶような笑みを浮かべて話を続ける。
『ありがとう存じます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか』
「サ……サーラよ」
シュリーアがサーラに協力者になって欲しいと説明すると、彼女はしばらく考えていたが、試しで良ければとイルラを引き受けた。その後簡単な注意事項を伝え、三日後の再会を約束して彼女の元を離れた。
しばらく様子を伺っていると、サーラの友人と思われる者が数人現れた。彼女を取り囲み話し始めた途端、いきなりサーラが意識を失い石畳に倒れ込んだ。幸い彼女の友人が咄嗟に支えたお陰で怪我はなく済んだようだが、完全に意識を失った彼女をどうすることも出来ず、救急車を呼ぶ騒ぎとなった。
どうやらサーラのブレスレットに複数の者が一度に触れたことで急激に受容体に思念波が流れ込み、彼女が耐えきれなくなったようだ。これ以上脳に負担をかけると危険なため、我らの記憶ごと受容体を回収することになった。
最初のイルラの獲得に失敗したシュリーアは気落ちしていたが、受容体には強い思念波が吸収されている。収穫はあったのだから次に活かすようにと諭すと、前向きに取り組む気持ちになったようだった。
サーラは一種のショック状態に陥っただけで、命に別条はない。それに我らのことも覚えてもいないのだから、すぐに退院していつもの日常に戻れるだろう。
それから幾度か場所を変え感応者を探してみたが、この日正式なイルラを獲得するには至らなかった。薄明のころ、一旦引き上げることにした。
翌日再びパリ近くへと降下し、範囲を広げてイルラを探しては見たが、結果ははかばかしくなかった。他のヨーロッパの国々でも捜索し、幾人か候補を見つけることが出来たが、私に適合する者はミシェルほど強い思念波を持たず、イルラとするまでには至らなかった。
シュリーアも幾人か候補を見つけ接触を試みたが、姿を見て悲鳴を上げた者、接触を拒絶した者など、徒労に終わるばかりだった。唯一の収穫はシュリーアが記憶消去の方法を身につけたことだ。
シュリーアはその後、イタリアのローマという観光地で現地ガイドをしている青年をイルラにした。軽薄そうなこの男は、ガールフレンドの一人にもらったという天然石のペンダントトップを思念石にしたが、その後様子を見守っていると、ガイドと称して観光客らしき女性を見かけては手当たり次第に声をかけていく。見ていると言葉巧みにペンダントトップを触らせては思念を読み取っているようだ。
そのうち一人の女性に話しかけ、ペンダントトップを触らせると、やおら彼女の肩に手をかけ親密そうに話していたかと思うと、そのまま肩を抱くようにして彼女を路地へと誘い込んでいく。
私はシュリーアに留まっているように声をかけると男目指して一気に降下し、すぐさま受容体を回収して男の記憶を消去した。シュリーアのもとへ戻る手前で、受容体に吸収されていた思念波を全て自分が取り込むと、何食わぬ顔でシュリーアの元へ戻った。
その後シュリーアには、いくら思念波を感知できても人格的に問題のありそうな者はイルラとしないようにとこんこんと説教をする羽目になった。
結局この日も新しいイルラを得ることは出来なかった。
さらにその翌日、私はジョンソンの元へ向かい、シュリーアはミシェルから教えられた候補地の一つであるインドへと向かった。
午前中にジョンソンの元で回収を終えた私は、アメリカから一気に南へと移動し、ブラジルという国の大都市に行った。コパカバーナという海外沿いの町で、褐色の肌に癖のある茶色の髪の陽気なディエゴと名乗る土産物店を営む男をイルラにすることが出来た。
ディエゴは最初、私をヤパンという国のアニメキャラクターだと思ったと豪快に笑った。彼は左手の薬指にエメラルドの指輪をしていた。受容体についての注意を述べると濃い茶色の目をきらめかせ、寧ろ好都合だと答えた。彼は商売柄、詐欺に悩まされることが多く、この受容体があれば防ぎやすいと上機嫌に言ってみせた。私は三日後の再会を約束し、彼の元を去った。
船内に戻ると回収した思念波を補助核に移す。後一度取り込めば、ほぼ元の状態に戻りそうだ。
── そろそろ次の段階に移れそうだな。だが……。
気にかかることがあった。いびつに異世界に飛び出している船尾の部分のことだ。考えにふけっていると、
『御姉様、ただいま戻りました』
とシュリーアが声を掛けてきた。
『戻ったか。成果は?』
顔を向けると、両手を組み合わせ微笑むシュリーアの姿があった。
『はい。無事イルラを得ることが出来ました』
今回ミシェルは名前だけです。別に、出し惜しみしたわけではありません!……たぶん。
次回もレイアーナ視点で続きます。
面白いな、続きが気になる!っと思っていただけたら、ずーっと下の方にある⭐️をポチポチポチっと押したり、ブクマ、いいねで応援してください。
感想もらえるとまりんあくあが大喜びします。レビューいただけると、変な舞いを踊って喜びます。
それではまた4お会いしましょう。
皆様に風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。




