56 会合対策会議
やっと異変の欠片が…。すみません、まだ欠片だけです。
しーちゃんが真面目な顔になって頷く。
「あたしも見たよ。レイアーナが栗色のくしゃくしゃっとした髪の男の人にミシェルって、呼びかけてた」
「見たのは同じ夢みたいだね。レイアーナとシュリーアが空からパリの街を眺めていて、変わった形のビルに向かって飛んでいったよ」
私は夢の中で見たことをしーちゃんに伝えた。うんうん、と聞いていたしーちゃんが言う。
「あたしはね、シュリーアさんが戸惑ってたのを感じたよ。たぶん初めて地球に来て、初めて人に会ったからだと思う。あれ、すごいね。まんまゴーグルアースを目の前で見てるみたいだったよ。生でって言うと変かも知れないけど、エッフェル塔とかルーブル美術館とか。あと凱旋門! ただで観光旅行してるみたいで得した気分だったなー」
そう言って天井を見上げると顎に拳を当てる。
「ミシェルさんって働いてるみたいだけど、あの人若いよね?」
「私もそう思った。松永さんとそんなに変わらないんじゃないかな」
しーちゃんがそのままの姿勢で一人言のように呟く。
「あの二人に会う日に、それに合わせてあの夢を見たのだとすると……。やっぱり何かメッセージみたいなものが入ってる、って考える方が自然だよね」
しーちゃんは拳を顎にとんとんと当てながら軽く身体も揺らし始める。考え込んでるときの合図だ。今のうちに自分の考えを整理しておこう。あの人達に会ったら伝えること。聞くこと。
考えがまとまったのか、しーちゃんが顎から手を離した。
「ねえ、れーちゃん。今日話すことなんだけど……」
私たちは相談して聞きたいことをまとめた。
一 協力者になることを伝える
二 ミシェルさんのことと、Chatterのことを聞く
三 大災害のことをもう少し詳しく聞く
四 思念波の使い方を聞く
時計を見るともう待ち合わせの時間が近付いていた。立ち上がろうとするとしーちゃんが、
「二人と会うの、今日の午後で間違いないよね?」
と聞いてきた。
「うん、三日後のこの時間って言ってたから、たぶん午後三時くらいじゃない?」
「説明会の後ってたぶんランチに行くよね。その後母さんを家に送って、それかられーちゃん家に行くでしょう? 何とかおばさんから離れてれーちゃんの部屋で話せるかなー」
ちょっと考えて首を振る。
「どうかな。今日ここに来る前、母さんに自由研究のチェックを受けたんだよね。この土日に進めた方がいいんじゃない? って言ってたから、たぶんランチの時にその話を進めるんじゃないかと思うんだよね。その後は実験に必要な材料を買いに行くことになると思うよ」
れーちゃんがまた顎に拳を当てて言う。
「そうすると、買い物中に時間になっちゃうかも知れない?」
そうならないといいけど。あいまいに笑ってごまかし、
「しーちゃん急ごう。時間過ぎちゃうよ」
と言ってしーちゃんを引っ張り上げると入口へ急いだ。ヤバいー、また怒られるーと叫ぶしーちゃんは、きっぱりと無視した。
入口に着くと母さん達がもう待っていた。でも説明会までの時間が押していたのでお小言はなしでそのまま発掘現場に向かった。危なかったー。
外は少し雲があるけれど晴れていて、やっぱり蒸し暑い。涼しい博物館にいたから余計そう感じる気がする。私もしーちゃんもUVカットの長袖を羽織り、帽子を被った。みんなでぞろぞろと説明会のある場所に移動する。いつもと違い、発掘現場に向かう人がぽつぽつと固まりになって歩いている。
現地に着くと結構人が集まっていた。中には団扇や扇子、携帯扇風機を持っている人たちがいる。少し歩いてきただけで背中に汗が流れている。突然、首筋に冷たい物を当てられて、ひゃ! と声を出してしまった。母さんが「はい」と手渡してくれたのは冷感タイプのウェットティッシュだった。母さんがくすくす笑っている。……普通に渡してください。ありがたく使わせてもらうけどねっ。
私たちの後からもどんどん人が来て、発掘現場の前には五十人くらいの人が集まっていた。みな興味津々といった様子で穴の中を覗いている。そこにはプラスチックの番号札や、発掘された埴輪の欠片が置かれている。ここで説明した後、場所を古墳前に移して見学してもらうって父さんが昨日の夜に話してたっけ。
ニュースになったからか、まだ人は増えそうだ。父さん達が古墳側に固まって何か話している。しばらくすると拡声器を持って小鳥遊のおじさんが歩いて来た。
おじさんの話によると、想定以上に参加人数が多いので二つのグループに分けて古墳側と発掘現場側と交替で説明することになったみたい。
私たちは古墳側になったので、他の学芸員さんの案内で古墳入り口前の広場に向かった。古墳の入り口は前と同じで立ち入り禁止になっている。広場の一番奥、右側がきれいに整地されて、長方形の石組みの中に玄室で見た土器や刀の一部が置かれている。
「ね、ね、れーちゃん。あれ、古墳の中を再現してるんじゃない?」
しーちゃんが早くも興奮したのか早口で聞いてきた。
「そうみたい。刀や土器の前に四角く白線が引いてあるのが、石棺の代わりかも」
うー、わくわくしてきた。
そのとき、ずわっと一気に思念波が動き、そのまま受容体に吸収されていくのを感じた。何、これ!
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