51 シュリーア 降下する
投稿し始めてから3か月が経ちました。
ようやく二人で降下します。
加筆修正しました。(02.5.5)(05.4.15)
ISSに寄り、地球成層圏付近まで来ると思念体を小さくする。
『シュリーア、始めての降下だ。不安なら目を閉じていろ』
声をかけるとシュリーアの思念体を抱え込むようにして自分の思念体で包み込む。
『行くぞ』
一気に降下を開始する。
やがて陸地の形がはっきりと見えるところまで来ると一旦停止した。
『見えるか。これが地球の大地だ』
シュリーアは初めての降下に怯え、固く閉じていた瞼をおそるおそる開き、ゆっくりと大地を見下ろす。途端にみるみる目が大きくなった。
『まあ! 何と美しい……』
ほうっと息をつき眺めている。
青々と広がる海原。緑と茶色のグラデーションに彩られた大地。多くの人、多くの生き物が健やかに暮らす星。
シュリーアがささやくように言った。
『国際宇宙ステーションから見た地球も美しく思いましたが、近づくとまた一層美しさが際立つように感じられます』
『アレトによく似ているだろう』
『ええ、本当によく似ています。御姉様、あの辺りがわたくし達のエミューリアと同じ地でしょうか』
ヨーロッパの辺りを指差して問うのに頷く。
『そうだ。これから向かうパリもその辺りになる。だが、ここは異世界だ。そなたもすぐに違和感を抱くことになるだろう。落ち着いたようなら行くぞ。ついて来い』
シュリーアを離すと移動を始める。すると、
『何か気に止めておくことはありますか?』
そう問われたのでミシェルに教えられた地球の様子を簡単に伝えた。
『……このように発展の仕方そのものが違うため、町並みも人の行き交いも我らの星とはまるで違っているのだ』
するとアレトとの違いに戸惑いを覚えたのか眉を寄せている。
『そのようなこと、想像もつきません……』
その様子には構わずそのまま速度を落とさず地表へと降下していく。慌てて後を追ってくるシュリーアを確認すると口を開いた。
『我々が向かっている街はフランスという国の首都で、パリというそうだ。そこにいる協力者ミシェルと面会することになっている。この後全てのイルラの統括を任せようと思っている人物だ』
『御姉様はミシェルという方を信頼なさっているのですね』
感心したように言われ、ふと考える。
── 私は、ミシェルを信頼しているのか?
『……どうだろう。まだイルラにして日が浅いゆえ何とも言えぬ。だが仕事は出来そうだ。それに、アレは裏切らないだろうな。そなたも会えばわかる』
思わず歯切れの悪い返答になった。シュリーアも不思議そうな様子を見せる。
熱に浮かされたようなミシェルの眼差しが思い浮かぶ。彼の思念波からは畏敬と憧憬の念のようなものを感じた。信用に足る人物かはこれからの行動で分かるだろう。
しばらく移動すると、都市が一望出来る辺りに来た。そこで告げる。
『シュリーア、ここがパリだ』
眼下には広い平野が広がっている。長い年月をかけて造られた町並みが、太陽の光を受けて鮮やかに浮かび上がっていた。初めて見る異世界の町並みに目を奪われ、瞳をキラキラと輝かせている。
『これが、パリ……』
口元を両手で覆い、動きを止める。しばらくそのままじっとパリの町並みを眺めている。
この辺りにはまだ思念波は届かない。もう少し降下すれば強い波の届く地帯があり、その先は雑多な思念の溢れる場と化す。人の思念の溢れる場所など経験したことのないシュリーアの様子を注意深く見ていかねばならないだろう。
『シュリーア』
声をかけるとはっとしたように目を瞬かせた。
『すみません、御姉様。つい、見とれてしまいました』
その様子に何か微笑ましいものを感じながら問う。
『この街を見てどう思った?』
『はい。この街は川を中心に造られたのではないかと推測いたしました。ですが、王宮や宮殿ではないかと思われる建造物がこの付近にないのを不思議に思います』
シュリーアはパリの町並みに目を落としながら続ける。
『それから古くからあるものと、近代的なものが混在していて、この街の中心はどこになるのかと考えておりました。……ここは首都だと御姉様はおっしゃいましたね?』
私が黙って頷くと、シュリーアが右手を頬に当てながら話す。
『首都、ということは国の要。ですがこの街は王宮を中心として発展した都市には見えません。あのように、』
指先が示す方向には大きな門が設置されている。その門のことはミシェルに聞いて知っていたが、黙ったまま続きを促した。
『門を中心として放射状に道があるなど、門の役割を果たしているとは思えません。それにあちらの塔は、』
『エッフェル塔だな』
『近代に建築されたと思われる建物群よりも、はるかに低い塔なのに公園の中心に立っていたりするところから考えますと、この街は一度崩壊し、全く別の者が再興した街のように思えます』
そこで軽く首を傾げると続ける。
『ですが、征服されたのであれば、それ以前の文明は失われるか破壊されてしまうはずです。なのにこの街では古くからの建造物も大事に残されているようです』
しばらく間があった。やがて、
『御姉様がおっしゃったように、わたくしの知るアレトとは違う仕組みがこの国を動かしているのだとしか考えられません』
そう締めくくったシュリーアの導き出した答えは満足のいくものだった。
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皆様に、風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。




