5 発掘を手伝う
ついに、発掘出来る!と思ったら、お手伝いでした。
加筆修整しました22.8.23
手招きしてくれたお兄さんのところへ、おしゃべりを切り上げて歩いて行った。背の高い人で、くせっ毛なのか短い髪がところどころはねている。優しそうな目をした男の人だった。青灰色の作業着に野球帽のようなものを被り、首にはタオルを巻いていた。
そのタオルで汗をぬぐいながら、お兄さんがいくつかの土の塊を目の前に置いてくれる。
はてな顔でのぞきこむと、何かの破片みたいなものが、土の中から顔を覗かせている。……何だろう?
顔を上げると、目を細めて笑っている。
「まだ触っちゃダメだよ。」
優しい声でお兄さんはそう言うと、そのままひょいっと屈みこんで、穴の中からお好み焼きのソースを塗る刷毛みたいなのと、絵の具の筆みたいなものを取り出した。
土の塊の一つを手に取り、大きい方の刷毛をその上で、そっと動かすと、ぽろぽろと土が剥がれて、中から何かの破片が顔を出した。
その破片から、絵筆みたいなもので細かい砂を取り除いていくと、博物館や資料で見たことのある破片が出て来た。
「これって、もしかして……?」
胸をどきどきさせながらお兄さんに声をかけた。
「何だと思う?」
面白そうに聞かれた。しーちゃんが首を傾げながら言う。
「土器?」
私もどきどきしながら言う。
「うーん、埴輪だと思うけど。ちょっと丸まってるから円筒形埴輪の一部か、それとも、何かの土台?」
するとお兄さんが目を丸くしている。
「埴輪のこと、良く知ってるね。あそこから見つかったんだよ」
指差した方向には他にも破片がいくつも散らばっていて、土の中から少しだけ顔を出しているものもある。
お兄さんが続けて言う。
「まだ一部しか掘り出していないけれど、あのあたりにまだ埋まってると思うんだ」
「え。それって結構大っきなもの?」
しーちゃんが身を乗り出す。すると嬉しそうな声で答えてくれた。
「うん。たぶん馬型埴輪だと思う。これは頭の一部じゃないかな」
「……すごい。本物だ」
力を入れると割れてしまいそうで、そうっと指で触れてみる。
欠片は意外とつるつるしている。割らないように恐る恐る持ってみると、硬くてけっこう重みがある。
「力を入れすぎなければ、大丈夫。割れないよ」
しーちゃんもゆっくりと手を伸ばして、指先だけでそっと触る。
「すごい。つるつるしてる」
目を丸くした後、手に持ってじっくりと観察している。
私も欠片をじーっと見つめる。少しくるんと丸まったところがちょっとかわいい。初めて手にした実物にじーんと胸が熱くなった。
千年以上も昔に作られた物が、まるで現代によみがえったような。何だか不思議な感動だ。
胸がいっぱいで、ほうっ、と息をついた。
そんな私達を嬉しそうに見ていたお兄さんが、
「君達もこの刷毛で、そっちの塊から掘り出してみるかい?」
と言って、大きい方の刷毛を貸してくれた。
「君はこっちの小さい方の刷毛で、残りの部分をきれいにしてみてくれる?」
しーちゃんにも小さい方の刷毛を貸してくれる。
「二人ともうまく出来たら、他の破片のお手伝いもしてもらおうかな」
「「本当?」」
揃って声を上げると、お兄さんがにこにこしながら頷いてくれた。
私達はさっとしゃがみこむと、がばっと土の塊に向かい、黙々と刷毛と筆を動かし始めた。
しばらく私達の様子を見ていたお兄さんは、そのまま穴の中へ戻って行った。
後から知ったことだけど、見つかった遺物は別の屋内の施設で洗浄して、組み立てられるものはその後組み立てたりするらしい。
たくさん出土する時は大まかに掘り出して、後でまとめて処理するそうだ。
だから私達のお手伝いは、お兄さんが好意でさせてくれてたっぽい。
あの後、お兄さんは無事胴体と足の部分をまとめて掘り出していた。お兄さん、かっこいい。
私達はお兄さんのお手伝い? をしながら午前中を過ごした。
途中でつい古代世界に意識を翔ばしてしまい、その世界にうっとりと浸っていたら、手が止まっているのに気づいたしーちゃんにがっつりしばかれたりもしたけれど、作業を続けるうちにお昼休憩になった。
木陰でお弁当を食べていると父さん達が戻って来た。発掘していた人達の間を回って声をかけ、午前中の成果を聞いていく。
発掘されたものはその場所ごとにまとめられて、プラスチックの大きなトレーみたいなものに入れられていた。
父さん達がお兄さんの掘り出した馬型埴輪を見て、にこにこしている。お兄さんも良くやった、て感じで肩をとんとんされて嬉しそうだ。
他の場所でも、人形のや柱みたいな形の埴輪がいくつか見つかったりしていて、お宝ざっくざくって感じで、みんなちょっとテンションが上がっている。
一通り見回ってから、父さんと小鳥遊のおじさんが戻って来た。
「父さんおかえり。お疲れ様ー」
「おかえりー、お手伝い出来たよ! 馬の埴輪発掘したからね!」
「欠片だけどね」
「でも本物だよ! 重くてびっくりしたよ」
父さん達はペットボトルのスポーツドリンクをごくごく飲んで、汗をふきながら木陰に腰をおろしてお弁当を広げた。
「ちゃんとお手伝い出来てえらいぞ。なかなか扱いが丁寧で筋がいいって、松永くんが褒めてたよ」
松永、というのがさっきのかっこいいお兄さんの名前らしい。父さんが頭をよしよし、となでてくれた。ふふん。
父さんも小鳥遊のおじさんも、作業着姿だ。違うのは父さんがつば広の布製の帽子で、おじさんが野球帽タイプの作業着と同じような色の帽子を被っているところだ。木陰で帽子を取ると二人とも髪が汗で光っていた。
父さんがお弁当を見て、嬉しそうに玉子焼きに手を伸ばす。今日の玉子焼きは私が作った。母さんに教わって作っただし巻きで、お野菜もとれるように小松菜の刻んだのが混ぜてある。
ちょっと焦げてたり、形が微妙に崩れてたりはするけど、味付けはちょっと甘め。だしの素のおかげでおだしの風味もして自分でもおいしいく出来たと思う。玉子焼きとウインナーを炒めたのが私だ。ちなみにウインナーはかにさんの形になっている。
「怜奈の作った玉子焼き、おいしいよ。将来は母さんみたいに料理上手になれそうだな。……でも、あんまり早く大きくならなくていいからな。お嫁になんて行かなくていいからな」
微妙に涙目になっている。……何考えているのかな! お嫁って、いつの話だ。
「お前、相変わらずだな……」
小鳥遊さんが、呆れている。
「おじさん、本当にれーちゃんのこと大好きすぎるよね」
もぐもぐとエビフライにかじりつきながらしーちゃんが言った。ま、いつものことだけどねーと放置だ。
「詩雛が作ったのはどれだ?」
小鳥遊さんがわくわくした声でお弁当を見ながら聞く。
「んー。グラタンとそのエビフライ」
「えっ、しーちゃん作ったの!?」
「んーん。チンしただけー」
小鳥遊さんががっくりとうなだれた。
「ちゃんとしたお手伝いだよー。パック見て、ダイヤル合わせて、チン」
おいしー、としーちゃんは普通だ。お手伝いに変わりはない。うん。
「怜奈ちゃんみたいに今度は、玉子焼き……」
「えー。オムレツでいー?」
「しーちゃん、そんなの作れるの!? すごい!」
「んー。それならチンできる」
ですよねー。
ラクチンでおいしー、としーちゃんはグラタンに手を伸ばしている。うん。確かにおいしいし。
小鳥遊さんはさらにがっくりしてるけど。こっちもめんどくさそうだから放置でいいか、うん。
その横で父さんは嬉しそうにかにさんウインナーをつまんでいる。
「このかにさんもかわいいねー。さすがは怜奈、おいしいよ」
「まだ包丁は大きくて危ないから、果物ナイフで切ったんだよ」
……あ、小鳥遊さんの目がちょっとうらめしそうに父さんを見ている。うん、ここは話題転換だね。
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それでは続きもお楽しみください。
皆様に、風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




