41 イルラ ミシェルとの会話
文中にミシェルの名前はまだでてきませんが、他のタイトルが思いつきませんでした。
一部、文章を修正しました。21. 6. 6
(21.6.25)
大幅に修正しました。(22.4.13)
更に大幅改稿しました
23.2.25
『……そう。そこで、右へ回り込んで。……ケイ、左頼める? オレ、このまま行くから。カウント三十秒で突入するよ。……いい? ……ナタリア、前出過ぎ。ちょっと下がって……』
聞き慣れない発音で、何を話しているのか全く分からないが、軽い興奮状態にあることはわかった。
モニターを見ながら目の前の入力ボードの上でせわしなく指を動かしている。
── 今は無理だな。
『……よし、行くよ! 三、二、一 。ゴー! ………ああぁー!』
頭をかかえると装着していた機械を前に放り出した。その瞬間を逃さず、強めの思念波をぶつけてみる。しかし、何の変化もない。
チッ。思わず舌打ちをしてしまう。やはり感知されないか……。さて、どうやってこちらに気付かせるか。
その時、ふと窓の外に視線を向けた彼の目が大きく見開かれた。慌てて眼鏡を外すともう一度こちらを凝視してくる。
── ほう。思念体がみえているのか?
ならば都合がいいぞ。思わずほくそ笑むと、さっと顔色を青くして一歩後ろへ下がる。
── これは、どういう反応だ?
すると先程放り出した機械を手に取り、またモニターに向けて話しかけた。それから機械を机の上に置き、ゆっくりと窓に近づいてくる。
ずいぶん若い男だった。背は同じか、少し彼の方が高いかもしれない。澄んだ青灰色の目が見開かれ、ぽかんと口を開けたその姿は少しユーモラスにも見える。
ゆっくりと彼のいる室内へ入った。窓ガラスを通り抜け彼の前に降り立つと、まるで眩しいものでも見たかのように瞳をきらめかせ、頬を少し赤く染める。
『……美しい。新作のホログラム? まるで、生きているみたいだ』
うっとりとした声で何か呟くと、ゆっくりと手を伸ばしてくる。その右手の中指には、紫水晶の指輪が光っていた。
その指輪に向けて受容体を飛ばす。彼が魅入られたようにその光の行方を追う。受容体が紫水晶に定着するのを見届けると彼に思念波を送った。
『私の姿が見えているようだな。そなたを私のイルラとする』
するとぱちりと大きく目を瞬かせる。
「今のは、君の声?」
青灰色の瞳がみるみる大きく見開かれ、破顔すると興奮気味に話し出した。
「すごい! これ、誰の作品かな? すっごいリアル! どうやってんだろ。映写機はどこかな?」
いきなり訳の分からないことをまくしたてたかと思うと私の前を素通りし、窓に駆け寄ると外をキョロキョロと見回し始める。
何をしているのだ、こやつは? 私が話しかけたというのに無視をし、非礼を詫びることもない。何と尊大なとその態度に少しむっとしたところで気付いた。
違う、そうではない。ここは異世界だ。彼は私が何者かなど知らないのだ。それにこの世界は社会の構造自体も違う可能性が高い。ならば彼のこの態度もこの世界では当然のことかも知れないのだ。
私はこの世界のことを知らぬ。とりあえず様子を伺うしかない。
しばらくすると彼が再び近付いてきて、私の周りをぐるぐる回りはじめた。
「うーん、本当によく出来てるよ。……くぅ、作ったヤツ誰だ? せめて映写機の場所が分かれば……」
どうやら私が作り物だと思っているらしい。
── ならば。
再び思念波を送る。
『そなたのしていることは見当違いだ。私は作り物ではない。ただの思念体だ』
「思念体?」
彼は動き回るのを止め、首を傾げた。
思念体が何のことか分からないらしい。この世界には思念体そのものが存在しない可能性もあったな。そこから説明せねばならないか、面倒な。
思わずため息が出た。簡単にはいかぬな。仕方ない。
『今の私の姿が思念体だ。体はこことは別の特殊な空間に囚われている。そこから脱出する手段を得るためにそなたをイルラとした。私にはそなたの話す言葉がわからぬ。ゆえに先程飛ばした受容体を通してそなたの思念波を読み取り、今そなたと会話している』
彼の眉がぴくりと動いた。
「え? ごめん。ちょっと待って。情報量が多すぎて処理出来ない……」
彼は額に人差し指を当てて動きを止めた。
『私は幽霊ではない。体は遠く離れた場所にある。肉体のままではここに来ることが出来ないゆえ、思念体だけを飛ばしているのだ』
「ふうん。それって、精神だけをここに飛ばしてるってことでいいのかな?」
額に当てた指がとんとんとたたくようにうごいている。どうやらこれは彼の考え込むときの癖のようだ。
『精神か。そうとも言える』
「……で、イルラって、何?」
視線を合わせると聞いてきた。
『イルラとは私の国の言葉で協力者という意味だ。先程飛ばした受容体が受け皿となり、そなたの持つその指輪が、そなたやそなたの周りにいる者の思念波を吸収する思念核となった。そなたにはその思念核に出来るだけ多くの思念波を収集してもらいたい』
「何で?」
彼の目が細められる。だが、口元が軽く引き上がり、面白そうだと思っているのがわかる。
面白いな。いきなり現れた私のことを恐がることもなく、対等に話しかけてくる彼に興味が出て来た。私の思念波に共鳴するからにはどこかしら通じ合う所があるはずなのだ。さて、彼はどういう人物なのか。
── ふむ、どう答えるか。
個と個として、対等に話せる存在など我らの世界では考えられぬ。対等に話せる存在がこれほど心地よいとは思いもしなかった。……それに、存外肝が据わっている。
ならば、正体を明かしてみるか。
彼の目を真っ直ぐに見据え背筋を伸ばすと告げる。
『私の名はレイアーナ。そなたの生きるこの世界とは別の世界で生きる者だ。元の世界に帰還するためのエネルギーとしてこの世界で思念波を集めたい』
静かに語りかけながら彼に向ける思念波を強める。濃い水色の髪が光を帯び、ふわりと彼の方に流れる。
思念波に念を乗せる。
──私に、従え。イルラとなり私の手足となれ。
やがて彼の目がうっとりと魅入られた瞳に変わる。
流れが治まったとき、彼は跪き片膝を立て頭を垂れていた。
ミシェルをイルラに命じて終了!の予定だったのですが、甘かった……。
初めましての方、再読していただいている読者の皆様本当にありがとうございます。先の長ーい話なので、よろしくお付き合い下さい。改稿もがんばります!
今回本当苦労しました。レイアーナさん、なかなか手強い。為政者は胸の内をなかなか明かさないものなんですね……。
まりんあくあの新作はマイページから。
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「しーちゃんが行く!~絶望の箱庭~鳥籠の姫君~のワールドエンドミスティアカデミーにお邪魔しました!」
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最初の学園訪問もそろそろ終わりです。こちらはしーちゃん主人公。怜奈と再開する前の物語ですが、この後はれーちゃんも登場します。お楽しみに。
それではまたお会いしましょう。
皆様に風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。




