32 レイアーナ視点 レイアーナ 降臨する
レイアーナ視点です。
ついにレイアーナが降臨します。
場所は…次回まで秘密です(笑)
受容体と表記していた部分を1ヶ所思念核に修正しました。(R3.5月19日)
大幅に加筆修正しました。05.1.22
不思議な研究施設を背に、こちらの世界の母星を眺める。宇宙港を持たないこの星は奇異に見える。豊かな青い海といくつもの大地。母星とそれほど変わらぬ姿であるだけに異様さが際立っている。
研究施設が特異である可能性は捨てきれないが、おそらく思念統制されていないであろうこの地……。
大地まで降りれば思念波を容易に、それも大量に吸収できるだろう。問題はそこまで降下するのにどれくらい消耗するかだ。
思念体を構成している思念エネルギーは存在を維持するだけで少しずつ消耗していく。宇宙船から施設くらいまでの距離ならばそれほど気にしなくとも済んだ。だが地表に向かうとなると、かなりの距離をかなりの速度で移動する必要がある。地表に着くまでに全ての思念エネルギーが霧散してしまうかもしれない。
それでもやらなければならない。大きな賭けだが、他に選択肢はないのだ。問題はいかに効率的に移動するかだ。どの地に向かうか……。
この施設を基点にしての移動は難しいな。移動速度が速すぎる。それに、艦から離れすぎると位置を見失う危険がある。余分なエネルギー消耗はなるべく避けたい。
艦の位置を見失わず効率的に帰還する方法。何巡目かの周回の後、ふと遠くで変わらず光り続けている衛星が目に入った。
……あれが使えるな。降下軌道を衛星から垂直になるように調整すると、この世界の母星と向き合う。
地上はちょうど夜の側に入っており、大地には数え切れない光が眩く瞬いている。
『文明の栄えるところに灯りあり、だ』
ニヤリと口元を引き上げると、意を決し母星に向けて自らの思念体を一気に降下させた。
恐怖をねじ伏せるように速度を上げる。これほどの長距離肉体から離れることなど生まれて初めてだ。思念体が最後まで形を保てるのかも分からない。だが、ギリギリまで近付いてみよう。
みるみる地表が近付いてくる。まだ大丈夫だ。
目指す灯りが建物の形をとり始めたところで一度停止する。
── やはりな。
思念体が子どもくらいの大きさにまで小さくなっていた。
だが、ここから元に戻すのはそれほど難しくないはずだ。予測通りならばこの先いくらでも補充は可能だろう。
見下ろすと大都市が無数の灯りの中で光り輝いている。中央には黒く蛇行しながらゆったりと流れる大きな川がある。古びた建造物が多く残る中に、新しい建造物も並んでいる。それでいて均整のとれた美しい街だ。高層な建築物が並び立つエリアと、低層な住宅地が混在している。エミューリアとは全く違う町並み。
本当に異界に来たのだな……。
王宮らしきものも見られるが、その辺りは灯りが乏しく、まるで生活感が感じられない。
この地の支配者は王ではないということだろうか。
しかし、支配者なしにこのように立派な街が発展するものなのだろうか?
目新しいものばかりだった。
街の灯りは煌々ときらめき、多くの人が行き交っている。
ゆっくりとその中心部に向けて降下していき、一際賑やかな通りにある建物の上で停止した。屋根の上から人々を見下ろしてみる。
やはり思念核を身に付けている様子はなく、雑多な思念波が通り一帯に溢れかえっている。
これだけ思念波が溢れているのに、その流れに気付いている者が一人も見当たらない。更に驚いたことに、通りには様々な人種が混じっていた。服装も統一されていない。
まるで街全体が自治領の様相だ。
この大きな街全体が自治組織のもとに運営されているというのだろうか?
思わずあっけにとられたが、すぐに気を引き締め直す。相手に悟られぬよう、行動開始だ。
道行く人々の様子をうかがいながら、少しずつ思念波を吸収していく。先程の研究施設と同様に全く気付かれる様子がない。少しずつ取り込む量を増やしてみたが様子に変化はない。
自分の思念体を確認してみた。降下する前の半分ほどの大きさにまで回復しているが、まだまだ足りない。少なくとも帰還する分の補充は必要だ。
── ここにある思念波は雑多で吸着率が良くない。やはり受容体が必要なようだな。だが、今はとりあえず吸収することに専念しよう。
気持ちを切り替え、勢い良く辺りの思念波を取り込む。多く放出している者なら気付くかもしれないレベルだ。
すると辺りの感情の波が穏やかになり、通り一体の喧騒が落ち着いていく。急に頭の冷えた者、落ち込んでいた気分が穏やかになった者。喧嘩腰に振り上げていた拳をぴたりととめ、訝しげに通りを見渡す者。
一旦静まったその場だが、周囲の人々に目だった変化がないのを知ると、誰もが何事もなかったように元の営みを続けていく。盛り上がっていた者は幾分穏やかになって談笑を続け、落ち込んでいた者は少し顔を上げてゆっくりと歩みを続ける。拳を振り上げて居た者はゆっくりと手を降ろし、相手にかたりかけている。
誰も何が起こったか気付いていない。
その様子に無意識に片方の口元が上がっていく。
その後幾度か場所を変えながら、同じように思念波を吸収していった。誰に気付かれることもなく充分な量の思念波を集め終えると静かにその地を後にし、ゆっくりと帰還の途についた。
── 夢を見ているなと思った。飛行機から見える景色ってこんな感じかもしれない。とても高い空の上から夜の街を見下ろしている。
……ここは、どこだろう? 街の灯りがとても美しく輝いている。
見覚えがない、行ったこともない場所。
外国だということはすぐにわかった。
建物が違う。それに、街の中央を流れる大きな川。通りを歩くたくさんの人々も、どうみても日本人じゃない。
川から少し離れた場所に小さな塔があり、その近くに大きな古い建物。そして、さらに離れた場所にうっすらと浮かぶ大きな建物……宮殿かな? 川の側には小さなピラミッド型のオブジェがキラキラと光る古い建物。
目を覚ました後でもくっきりとその光景を覚えていた。
「よしっ」
私は気合いを入れるように自分に声をかけてベッドから出た。さあ、一日を始めよう。
降臨場所、分かる人にはすぐ分かると思います。
では、またお会いしましょう。
次回は他の協力者を探します。
皆様に風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。




