24 受容体の運びかた
受容体の検証が始まりました。
修整しました22.12.4
しーちゃんが頬をぽりぽりかきながら、
「だーかーら、その相談を今からするところなんだって。まだ具体的には何も決まってないから、心配無用!」
とふんぞり返った。
「不安しかないでしょ!」
おばさんがしーちゃんを一喝し、くるりと私に向き直る。
「ということだから、怜奈ちゃん。詩雛が行動する前に報告してちょうだい。何をするつもりなのか」
それからしーちゃんにずいっと顔を近付け、
「行動する前に、か、な、ら、ず、母さんに報告するように! 怜奈ちゃんも、いいわね?」
と念を押した。
「分かりました」
慌てて答えると、
「りょーかーい」
しーちゃんはめんどくさそうに手をひらひらさせながら答えた。それを疑わしげににらんだおばさんは、
「じゃあ怜奈ちゃん。たのんだわよ。必ず、ぜっ、たい、報告してね」
ふんっと鼻息荒く釘を差すと出ていった。
うう、不安しかないんだけど。私にしーちゃんが止められるかな……。
とほほな気分になっていると、しーちゃんがやれやれというように手を広げてため息をついた。
「まったく。これこそ壁にメアリーだよね」
メアリーって、誰?
「どっからメアリーが出てきたの?」
しーちゃんはぐびっとジュースを飲むと言った。
「ほら、誰が聞いてるか分からないって意味のことわざだよっ」
「……ひょっとして、壁に耳あり障子に目あり?」
「そうともいう」
いろいろ突っ込みたい気もするけれど、流すことにした。
「ねえ。さっきのは何?」
「ん? ああ、アレは実験」
「実験?」
首をかしげていると、
「昨日決めたルールの3つ目だよ」
何でもないことのように言う。三つ目のルールは「思念波の集め方を考えること。他人の思念波を吸い込むのはどんな時かを調べること」だった。
「昨日れーちゃんから流れて来たアレ。あの感じから予想したんだけど、強く心の中で思ったら、力が強くなるんじゃないかなって。だから実験してみたんだよ。ね、どうだった? 昨日よりも強かった?」
そう言いながら身を乗り出してくる。顔が近い。とっさに身を引くと、あ、ごめんごめん、と元の位置に戻ってくれた。それを確認してから答える。
「結構すごかったよ。すごい勢いで入ってきた感じがする」
「ふっふっふっ。実験1は成功かなっ」
機嫌良くしーちゃんが言う。相変わらずパワフルだ。うーん、やっぱり、きっちり巻き込まれる予感しかしない。おばさん、ごめんなさい。私にはきっと止められないと思います。
でも、いろいろ検証して確かめるのは大事だよね。実験や検証は研究の基本だ。
「あのね、アレが流れ込んでくるタイミングなんだけど、相手のことを考えている時に感じることが多かった気がする」
しーちゃんもうんうんと頷きながら答える。
「なるほどね。そう言われてみればそうかも。あたしも昨日父さんとお宝発見の話をしてるときに、よくキタって感じた気がするっ」
「つまり、感情とか想いの強さが強いときに多く流れる。相手のアレは、相手のことを考えると入ってくるってことでいいかな」
「うん、そうだねっ」
楽しそうに答えるしーちゃんがなんだか犬みたいに見えてきた。嬉しいとしっぽをパタパタさせる犬みたいに頷くたびにポニーテールがゆらゆらと揺れる。
楽しそうだな、と思った瞬間、しーちゃんから思念波が流れてくるのを感じた。こんな感じで自分の思念波だけでなく、他の人の思念波も受け止めてどんどんためていかないと。……とりあえずいっぱい集めなくちゃだめだよね。
「んじゃ、次の確認行ってみようっ。れーちゃんはどうやって持ってきたの?」
私はポケットからお守り袋を取り出してテーブルの上に置いた。
「御守り? なるほどー、考えたね。これなら誰も中身を開けて見ようとは思わないよね。開けるとなんか罰当たりな気がするしっ」
「何? それは私が罰当たりなことをしているって言いたいのかな?」
しーちゃんが、うっと詰まっている間にさっさと説明する。
「これはね、災いが降りかかりませんように、ていう願を掛けてるの。持ち歩いてもあやしく見えないだろうって思ったのもあるけどね」
「うんうん。いいと思う!」
力強く言ってくれたので、ほっとした。
「で、しーちゃんはどんな風にしたの?」
「あたしはねー、これ!」
じゃじゃん、と効果音を付けて得意そうにテーブルの上に置いたのは、真新しいスマホだった。そのスマホケースにじゃらじゃらとストラップがいっぱいついている。
あんまりたくさん付いているから一瞬目がチカチカした。
それをごそごそかき分けるようにして、いくつかのビーズを繋げて作られた細いストラップを見せてくれた。
しーちゃんの指はそのストラップの一番下に付いている白くて他のビーズより二回りくらい大きいガラス玉を差している。
「え、これ? ……しーちゃん、自分で穴を開けたの?」
昨日のしーちゃんの受容体は小石くらいの固まりだったはずだ。あの時より2倍くらい大きくなっている。びっくりしてつい、じーっと見つめてしまった。
するとしーちゃんがぶんぶん首を振って、
「いやぁ、それがさあ。昨日父さんと発掘の話でちょー盛り上がっちゃって。母さんに、うるさいからいいかげんにしてって二人して怒られたちゃったよ。で、部屋に戻ってポケットから出してみたら、こんな感じに大きくなってたんだ。いい感じに穴が空いてたんで、他のビーズと合わせてストラップにしてみた。さらに、似たような形の中に紛れこませたら分かりにくいかな、と思って他のストラップもつけて隠してみたよ。どうよっ」
そう言ってストラップをじゃらじゃらと動かして見せ、ふん、とえらそうに胸を張る。
くすっ。
思わず笑ってしまった。なんか、実にしーちゃんらしい。ビーズストラップの回りには紐状の房が何本かついたストラップと、さらに紫色のくまのかわいいストラップも付いていた。
しばらく二人の会話が続きます。
実験と検証は大事ですから。
うんうん。
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から変な舞を踊ってお迎えさせていただきます。
それでは、またお会いしましょう。
皆様に、風の守りが共にあらんことをお祈りいたします




