21 レイアーナ視点 再び、異空間より
レイアーナ視点です。
なぜ地球に来なければならなかったのかを書きました。
一部、手直ししました。(21.7.23)
大幅に加筆修整しました22.11.6
しばらく異世界の宇宙空間に佇み、思考していた。船尾からの異世界への移動は、異世界側からも船内からも、何の問題もなく行き来出来ることは確認できた。
コントロールルーム内に戻り、自分の身体に無事に戻れるかも確認する。難なく戻れることは確認出来たが、肉体を動かすのは非常に難しかった。瞼一つ動かすにも相当な努力が必要だ。身体が重いというレベルではない。石膏で固められたようにぴくりとも動かない。
諦めずに少しずつ、少しずつ、薄皮を剥ぐように自分の身体を慣らし、動かせる部分を増やしていった。訓練の合間には思念体で船内の様子を見て回り、状況を確認する。
乗務員は全て意識のない状態か、あるいは事切れている者ばかり。幾人かに思念波をぶつけて試してみた結果、能力の高い者ほど反応はあったが、覚醒にまでは至らない。
強い思念波を使えば少しは覚醒させることが出来るかもしれない。だが、受容体に残されているエネルギーにも限りがある。シュリーアの暴走を止めるためにかなりの量を使ってしまっていた。だからといって意識のない者から思念波を搾取すれば、その者の命に関わる。
『ふむ。どうしたものか……』
この異空間から元の世界へ戻るというミッションの攻略方法を、様々な視点から検討考察する。船内で思念波を補充するのは最終手段にしたい。元の世界に帰還後の動きが予測出来ない中、出来る限り現状維持はしておきたい。
『となれば……』
あることを決断し、行動を起こすことにした。
まずは現状把握と我が身を使っての検証が必要だな。
他に方法はない。側近達に意識があれば目を剥いて断固阻止してくるだろうが、この空間で動けるものは私一人。それに、失敗すればそれまでだ。何ら現状が変わることはない。自らが動かなければ全ては無になるだけだ。
思念体で肉体を抜け出すと、異世界の探索に向かう。
船尾から出ると、艦の残骸を見やる。船体は変わらずそこに浮遊している。その後ろ、遠くに衛星が見える。この世界では学園も、そこへ向かう為の道標となるビーコンも見当たらない。
衛星方向に向かう必要はないな。やはりこの世界の母星に向かうか……。
試しに母星に向けて思念波を流す。成層圏上に反応は見られるものの、微弱。恐らく人工物だ。……む? 成層圏付近に思念波感知。監視衛星か?
方向を確認し、移動する。
すると比較的速いスピードで母星上を周回する、少し大きめの人工物がある。外部に向けて展開している羽根のようなものは太陽を捉えている。太陽光をエネルギーとして取り込んでいるようだ。
中央にいびつに組み合わさった円筒形の建造物がある。そこから飛び出た不揃いの形の物体の繋がりが居住空間らしい。まるで、後から次々と増築されでもしたかのような構造だ。
監視衛星ではないようだな。
母星の周囲を周回しているだけで、武器を携帯している様子はない。思念波は建造物のあちらこちらから複数感知出来る。
妙な物体だ。
円柱形の施設からは、光が漏れている。
そのうちの一つにゆっくりと近づき、窓から様子を伺ってみた。黒髪の男が何か作業をしている。ここは研究施設だろうか?
この施設で作業しているのは、この男一人だけだった。
くるりと周り、反対側の施設に移動して中の様子を伺ってみる。こちらでは金色と栗色の髪をした色白の男二人が、モニターに向かって話しながら何か盛り上がっている。こちらも実験施設のようだ。
どちらの施設でもヘルメットは被っていない。施設の中では空気が確保されているようだ。
奇妙なことに気が付いた。この施設のどの人物も思念核を保有しているように見えないことだ。額にも、手にも見当たらない。流刑者なのかとも考えたが、莫大なコストのかかる施設にそのような者を収容する現実性がない。少民族ならば尚更必要性を認めないだろう。一体、どういうことだろうか。
試しに軽く思念波を送ってみた。すると、一切の抵抗なく相手の思念波を感じ取ることが出来る。どうやら本国との通信中らしい。陽気に会話をしているようだ。
今度は少し強めの波動を当ててみた。僅かな抵抗感はあるものの、無防備で容易に思念を読み取ることが出来る。どうやら本当にただの健康チェックと定時報告のようだ。
そのとき、金色の髪の男が大きな笑い声を立てた。大きく思念波が放出される。しかし、男は全くそのことを気にも留めていない。
思念波の一部を取り込んでみた。だが、男がそれに気付いた様子はない。つられたように笑う栗色の髪の男からも大きく思念波が放出される。それも取り込んだが気付かれた様子は全くない。
まさか、この世界では思念波を認識していないのか!?
そんなことが、あり得るのだろうか?
男達が今度は施設内でボールを投げ合ったり、手を繋いで押し合ったりして笑っている。その時に放出された思念波を先程よりかなり多めに取り込んでみる。受容体に向けてまとまった波が吸い込まれていく。アレトの民なら気分の悪くなるものもいるはずの量を、一度に吸収されたにも関わらず、二人の男に全く変化はない。
間違いない。この世界では思念波は感知されるどころか、力としても認識されていないのだ。
── ならば遠慮はいらぬな。
施設を巡り、搾取出来るだけ存分に思念波を取り込んだ。雑多な思念波はエネルギーとしての質は落ちるが、その分搾取する量を増やせばよいだろう。
取り込んだ思念波が、受容体を通して濃縮され、受容体を中心に周囲に纏わりつく。思念体のままでも問題なく取り込めるようだ。
ちらりとこの世界の母星に目をやる。濃い青の海と、緑と茶色に覆われた広い大地がことさら輝きを放ち、手招きしているように見えた。
次回から発掘3日目に入ります。
今回の話、ISSを書きたかったので、楽しんで書けました。
ご意見、感想、いいね、ブクマ、⭐お待ちしています。少しずつ読者が増えているようで、嬉しいです。これからもお付き合いください。
皆様に風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。
現在絶賛改稿中です。まりんあくあの新作は「猫展」にて。詳しくは活動報告を見て下さい。ご来場お待ちしています。(まりんあくあの在廊は期間中1回のみです。)




