20 三つのルール
20話連続投稿出来ました!
これからもよろしくお願いします。
継続読者のかた、ありがとうございます。
大幅修正しました。22.11.6
「ただいまー」
母さんはまだ帰っていなかった。手洗いとうがいをさっと済ませると急いで部屋に向かった。
「ふう」
学習机に向かって座るとため息をつき、べたっと机に顔をくっつけた。疲れた……。
ポケットの中の受容体が殊の他重く感じられる。のそのそと腕を動かしてティッシュごと取り出すと、机の上で開いてみる。
「……やっぱり。大きくなってる」
受容体は米粒くらいの大きさになっていた。指先で転がすとキラキラと光る。見た目はただのガラス玉なのに、少しずつ大きくなっていて、思念波を吸収する量も増えてきている。
受容体を育てるには持ち歩かなければいけない。思念波が流れていく感覚にも慣れなくちゃ。
大きくて強い感情ほど一気に吸い取られる。その勢いについ体が反応してしまう。
大丈夫かなぁ、私。
そう思った途端に、その気持ちもすっと吸い込まれていく。
落ち着こう。
とにかくこの思念波に慣れてたくさん集められるようにならなくちゃ。あの人達が言うように、もしも本当に大地震や大津波が起こったら大変なことになる。東日本大震災や熊本大地震みたいなものがここで起きたら……。父さん、母さん、私もしーちゃんもみんな死んじゃうかもしれない。
それを防げるなら、やらなきゃ。
しーちゃんと古墳の前で確認したことを思い浮かべる。
受容体を他の人に見つからないように持ち運ぶこと。決して他人に触れさせないこと。それから思念波の集め方を考えることだ。どんなときに他人の思念波を吸い込むのかも調べなくちゃ。
出来ることからやっていこう。
他の人に見つからないように持ち運ぶ。
簡単なようで、意外と難しい。
穴が開いているからストラップみたいにしてつるしてみる?
駄目だ。大きくなっていくのがバレバレだよね。
小さい巾着袋に入れて持ち歩く?
駄目だ。袋ごと落としそうな気がする。
あ、巾着袋ごと吊るすのは? うーん、何入れてるの? って覗かれちゃう気がする。
これも駄目だ。むむう。思ったより難しいな。
部屋の中を見回しながら考える。
ぬいぐるみの中に入れるのは? 中でどれくらい大きくなるかわからないよね。却下。本にはさ……めるわけないね。却下。鞄やリュックの中。筆箱の中。あー、絶対どこかにいっちゃうか落としそう。それにずっと持ち歩くのって無理だよね。
……中に何か入っていてもおかしくない、いつも持ち運べて変じゃないものって、何? しかも、持っていても怪しまれない入れ物……?
「あ」
ふと思いついて勉強机の引き出しを開ける。
「確かここに……」
右端に放置していた小さな白い紙袋を取り出した。かさりと開き中身を確認する。
「あった」
紐のついたそれは濃い紫色の袋に金糸で『厄除』と書かれている。節分の日、おばあちゃんが神社でお参りして買ってくれたものだ。これを身に付けていると、一年間災いから守ってくれるよ、て。普段こんなの持ち歩かないからすっかり忘れていた。
でもこれ、ちょうどいいんじゃない? 悪いことから守ってくれるんだよね? ……まあ、異世界人に遭遇しちゃってる時点で既にアウトな気がしないでもないけれど。まあ、そこは置いといて。
うん、このお守りに守ってもらおう。
袋の口を開いて、中に入っていた厚紙の後ろ側の隙間にそうっと受容体を入れて紐を締める。ちょっと罰当たりなことをしている気もするが、守ってもらうにはちょうどいいよね。これからよろしく、て気持ちを込めたら、やっぱりずゎって吸い込まれていった。
夕食の時にポケットに入れて試してみた。食事中の話題はもちろん今日の発掘のことで、父さんが興奮気味に話しているのを聞く。テンションがあまりにも高かったので、私の低さには気付かれなかったと思う。父さんテンション高っとか、ああ、そんなことあったねーと共感すると、思念波が吸い込まれていく感覚があった。びっくりする程強くはなかったから、気付かれなかった。
うん、いいんじゃない?
寝る前にもう一度確認してみると、また少しだけ大きくなっていた。しーちゃんの方はどうなってるかな。何かわかったかな……。
明日はいよいよ棺を開ける。きっと埋葬品がいっぱい見つかるはずだ。楽しみなことだけ考えて寝よう。
古墳時代の首飾りや腕輪のことをうっとりと想像しているうちに、眠ってしまった。
次回、異空間と宇宙から、レイアーナ側の話です。
皆様に風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




