19 車中での会話
今回は、帰宅中の会話です。しいて言えば、受容体の検証になるかな。
改稿しました(22.10.30)
帰りの車中、父さんは上機嫌で運転していた。時々ふんふーん、と鼻歌が聞こえる。
「良かったね、父さん。発掘頑張ったかいがあったね」
声をかけると、父さんの口元がゆるゆるになった。
「いやー、『未盗掘』だ、と当たりを付けた時から期待はしていたけれど、想像以上に状態が良かったなあ。土器、武具が揃っていたし、棺が三つ、それも綺麗に残っていた。明日の開廟が待ち遠しいよ! ……それに、怜奈は気づいたかい? 棺の周囲に細かな破片があったのを」
心の中ではぎくりとしたけれど、動揺を気付かれないように答える。
「玄室の中では気付かなかったけど、ガラスの入れ物に入ってたのを見たよ。棺の周りにあったんだね。……じゃ、じゃあ、棺の中にもあるかも?」
ちょっと、つまってしまった。思わず冷や汗が出る。
「そうなんだよ。恐らく埋葬時に外れたものが、踏み潰されてしまったんだろうね」
嬉しそうな声で話し続けるのを確認してちょっとほっとする。父さんは続ける。
「破片の種類もいくつかあっただろう? だからきっと装飾品も多く埋葬されているはずだよ。今から待ちきれないね。男性用、女性用。もしかしたら子ども用の装身具も見つかるかもしれない」
うわぁ、父さんのテンションが高いよ。ても、わかる。私も明日何が見つかるかを考えるとわくわくが止まらない。青、碧、白。色とりどりの装飾品の数々を想像すると、テンションが爆上がりしてくる。これぞ古代ロマンだよねっ。
そう思った瞬間、ずわっと大量に思念波が流れ込んでいくのが分かった。私のだけでなく、父さんからもぐぐっと流れ込んて来るのを感じる。あまりの大きさにびっくりして、ぎゅっと目を閉じた。
波が収まってから恐る恐る父さんを見た。別に変わったところはない。思念波が動いたことなど全く気づいていないみたいだ。ふんふーん、と相変わらず下手な鼻歌を歌いながら機嫌よく運転している。
どうして急にあんなにたくさん流れ込んで来たんだろう? 埋葬品の話で盛り上がったから?
もう一度試してみよう。
思念波の流れに慣れないと、受容体に気付かれてしまうかも知れない。もう一度父さんに話しかけた。
「うす青いのと、白い破片があったよね。父さんはあれが何の破片か分かる?」
「うんうん。怜奈はよく見てるねー」
さらに機嫌が良くなった気がする。これは、逆にヤバイかも。あわてて言葉を付け足す。
「父さん、私に分かるように説明してくれる? 専門的なのはパスで!」
「ん? 怜奈なら分かるだろう?」
父さんが不思議そうに聞き返してきた。本気ですか? 私、小学生だよ!?
そういえば家で父さんが話し出すと、うんうん、とか、ふーん、とか言って、適当に流してたっけ。そっか……あれで私が理解して聞いてるって、思ってたんだ。ものすごい誤解されてたよ。あきれているうちに父さんのスイッチが入ってしまった。
「かなり破損してしまっていて、原形を復元するには難しい状態だったからね。今は推測するしかないね」
嬉しそうに話し出す。でも、このくらいの内容ならわかる。ちょっとほっとして、続きを聞くことにする。
「古墳の年代や、過去に出土したものから傾向を類測することはできるね。ただ、主墳墓だと思われる白鳥山古墳からは鏡、大型埴輪などは多数出土しているけれど、玉類の出土は今回が初めてだからねー。元の形を、となると難しいなあ」
難しいといいながらも、口許がゆるゆるになっている。本当に好きなんだなあ。私も何だか嬉しくなってくる。
嬉しいなあ、と思った瞬間、またずわっと父さんからの思念波が流れ込んで来た。
さっきよりも強い。思わずびくっとして体がかたまり、ポケットを手できつく押さえてしまった。ちらりと父さんを見る。良かった、気付かれていない。
ふう、と息をついて気持ちを落ち着ける。びっくりした。
父さんの話は続いている。
「……特定は出来ないけれど、管玉か勾玉、腕輪や首飾りの可能性があるね。いずれにしても明日、もっと具体的なことが分かるだろうね」
「まだ元の形はわからないんだね。白いのは勾玉、青い方は管玉じゃない?」
「色だけでは決められないよ。白い管玉の首飾りもあれば、瑪瑙のものも過去には出土例があるからね。それに、どれもが勾玉の可能性もある。うーん、どんどん明日が楽しみになってくるじゃないかっ!」
そのとき、ちょうど家の前に着いた。
「怜奈のお陰で明日の発掘が待ち遠しくなったよ。ありがとう」
今日のドライブはとても長く感じた。なんだかとっても疲れたなと思いながら、ゆっくりと車を降りた。
怜奈もいろいろと考えています。
それでは、続きをお楽しみください。
皆様に、風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




