164 怜奈、精霊の加護を受ける?
後ろの景色に溶け込みそうな水色の身体。四枚の薄い羽が細かく羽ばたいて宙に浮かんでいる。大きさは十五センチくらいかな。目は少しつり上がって切れ長だけれど、瞳がない。鼻は高く、唇は薄い。きつく結ばれた両方の口角がつり上がっている。髪の毛も同じ水色で短く、今は逆立って見える。服、は着ていないみたい。手足は細く、指は四本。
『レナ、大丈夫だよ。レナはオレが守るから絶対に死なない!』
そう言って両手両足を広げて私の顔の前に立ちはだかる精霊さん。あんまりびっくりして、さっきまでの恐怖感はどこかへ飛んでいってしまった。
「……心配してくれてありがとう。でも、怖かっただけでいじめられていたわけじゃないから、ミシェルさんを攻撃するのはやめて」
『だって、コイツがレナを怖がらせたんだろう? 絶対許さない!』
「私は大丈夫。爆散のことをちゃんと考えてなかった私が悪いの。怒ってくれてありがとう。でもね、それで人を傷つけたりするのは違うよ。それは、やっちゃいけないことなんだよ」
『悪いことをすれば、悪いことが起きるよ。レナを傷つけた悪者には制裁を!』
「ミシェルさんは悪者じゃないから! だからもう怒るのはやめて、精霊さん!」
そんなつもりはなかったけれど、一生懸命説明していると思念波が精霊さんに向けて流れていた。私の思念波が精霊さんを包み込む。
すると、精霊さんの髪の毛が下りてきて、つり上がっていた目尻も下がる。
『……本当に、大丈夫なの? レナ』
心配そうに聞く精霊さんに、なんとか笑顔を見せて頷くと、
『分かったよ。もうしない』
そう言った途端に精霊さんの姿が光の粒になって消えていき、元の光の玉に戻っていった。
『レナハ オレガ マモルヨ』
精霊さんは私の右肩の上の方に移動して動きを止めた。
「なんとかなったみたいだね」
「うん、なんとか、ね」
私はほっと息を吐いて、ミシェルさんを見た。
……あ、見なけりゃ良かったよ。
ミシェルさんの目がキラキラしている。
『すっげー、僕今ファンタジーを生でやってるよね! うわぉ、生きてて良かった! 君たちと一緒にいたら僕にも精霊の加護があったりしてー!』
思わずしーちゃんと目を合わせて、『しばらく見ないふりをしておこう』とアイコンタクトを取った。
「しーちゃん、ミシェルさんの怪我はどう?」
「ミシェルさんがミネラルウォーター持ってたから、それで洗っておいたよ。大丈夫、傷は大きいけど浅いからすぐ血が止まったよ」
「良かったぁ」
「れーちゃん、大丈夫? こんな時に言うのはあれだけど、たぶんもうあんまり時間ないと思うんだ。だから、どうするか決めないと」
「うん……ミシェルさんが言ったみたいに家族を連れて逃げるか、それとも爆散させるか、だよね」
「もう一つあるよ。どこまで飛ばせるかはわかんないけど、あたしたちが思念波で『地震が来るから逃げて!』って呼びかける方法がね」
「でも、呼びかけるのって地震が起きる直前でないとだめだよね? 今『逃げて!』って言っても、いつまで逃げていればいいかわからないし、困るよね」
しーちゃんが顎に拳を当てるいつものポーズで考え込む。
── 私はどうしたい? 家族で逃げる? でも、私たちだけ助かって他の人たちがどうなってもいいとは思えないよ。レイアーナさんに頼んで直前に教えてもらう? その時になったらめいっぱい思念波で『逃げて!』って拡散して……。でも、やっぱり全員は救えないよね。限界がある。……じゃあ、やっぱり爆散、させる……? 失敗したら死んじゃうかもしれないのに?
『ダイジョウブ。レナハオレガ、マモッテ ヤルヨ』
── でも、失敗したら?
『シッパイ シナイヨウニ オレガ マモル』
「できるの?」
『レナハ ナニガ シタイノ?』
肩の上で止まっていた精霊さんが、ふわふわと目の前に飛んできていた。
「私は、地震を止めたいの。これから起きる大地震を爆散で止めて、被害がないようにしたい」
『ヨク ワカンナイ。レナ、ミセテ。』
── 見せる?
『レナノ シッテルコト ミセテ!』
すると光の玉から片方の手がにゅっと出てきた。
『ココニ レナノ シッテルコト チョウダイ』
「れーちゃん、記憶を渡したらいいんじゃない? 緑の渦の記憶、渡してみたら?」
いつの間にかしーちゃんがこっちを見ていて、そう言った。
「分かった。やってみる」
しーちゃんの受容体に送った時のように、緑の渦の記憶を精霊さんの手のひらに流し込んだ。すると精霊さんは一瞬一回り大きくなり、細かく震えながら元の大きさに少しずつ戻っていく。
『ウワォ、レナが精霊を使役してる! くぅ、クール! カッコいい!』
── しまった。ミシェルさんのこと忘れてたよ……。
「ミシェルさん、手出しちゃダメだよ! またケガしちゃうよ?」
『えー! 目の前にこんなにファンタスティックな現象が起きてるのにー! くぅ、お預けとか厳しいっ』
必死に伸ばしかけた手を反対の手で抑えるミシェルさん。思わずまた白い目を向けてしまったのは、しかたないよね?
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それではまた二週間後にお会いしましょう。
皆様に、風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




