17 とりあえず置いといて
二人対二人の攻防が一旦終結します。
怜奈と詩雛の決断は?
かなり修整しました22.10.25
『……れーちゃん、きこえる?』
不意に頭の中に直接響く声がした。はっとしてしーちゃんを見ると、二人に立ち向かうようにぐっと見返している。私は答えるかわりにつないでいた手を強く握り返した。
しーちゃんが口を開く。
「あなた達の要求はわかった」
その声に続けて、また頭の中に直接声が届く。
『とりあえず一時休戦しようと思う。あの二人のいないところで作戦をたてたい。了解?』
もう一度しーちゃんの手をぎゅっと握り返す。しーちゃんが続ける。
「だけど、今すぐにやるよって簡単には答えられない。この受容体があたし達の……思念波っていうの? それを吸いとって成長するっていうことはわかったよ。さっきからいろいろと考えると、この欠片に何かが流れていくのが分かる。それに……またちょっと大きくなってるし」
しーちゃんが受容体を握っている方の手をくいくいと動かしながら続ける。
「とりあえず、この受容体ってのを育てとくから、その間の時間をくれない?」
「私も同じ気持ちです。今すぐ協力者になるのは、怖いです。少しでいいので時間をくれませんか?」
慌てて付け足すように言った。
しーちゃん、ナイスアイデアだよ。とてもじゃないけど今すぐになんか決められない。考える時間が欲しい。この受容体のこともまだどうしたらいいのかわからない。
レイアーナが狙いを定めるように睨み付けてくる。まずいことを言ったかな。なんだか格好の餌食になったような気がする。またあの不気味な顔でにやりとした。……でも、これは威嚇しているんじゃなくて、笑ってるんだ。きっと。なんだか私達の対応を面白がっている感じがする。
シュリーアの方も、少し笑みが深くなったように見える。そして、レイアーナの方に軽く頷いてみせる。
レイアーナがまた無表情に戻り、口を開いた。
『……よかろう。我らも他の協力者のもとにも行かねばならぬ。では、3日後のこの時間に返答を聞かせてもらおう。だが、それまでに禁忌を犯せばその時点でそなたらの受容体を回収し、その間の記憶は消去する。いいな』
「わかった」
「分かりました」
私達は力強く頷いた。
『そなたらが協力者になれば、受容体の扱い方、思念波の力の使い方について教えよう。どうすれば災害を防げるのかも含めてな』
シュリーアが少し嬉しそうに微笑んで言った。
『あなた方は受容体とのなじみが良いようです。それに、共に学び合うことで扱い方も覚えやすいでしょう』
どうやら交渉は上手くいったみたい。レイアーナを見ると、僅かに口の端が上がっている。
その後、二人は博物館から消えた。かき消すようにその場からパッと消えたわけではなく、ふわりと浮き上がり、天井を突き抜けて空へ上がって行った。
こうして奇妙な二人との会合は終わった。
「ふう」
私はぐったりしてベンチにもたれかかった。………疲れた。買ったジュースを飲むと、ちょっとぬるくなっていた。
「うえっ、まっず。炭酸って、ぬるくなったらすっごくまずいー」
しーちゃんも一息ついたみたい。嫌そうな顔をしながら、それでも一気にごくごく飲んだ。ぷはーっと缶から口をはなし、ぐっと腕で口を拭うと、
「よしっ」
とかけ声を掛けて、ベンチから立ち上がった。そして私の前に立つと言った。
「れーちゃん。今はとりあえず、さっきのことは置いておこう。そろそろ戻らないとせっかくのお宝を見逃しちゃうかもしれないよっ」
はっ、そうだった。あまりに嘘みたいな出来事の連続に、すっかりさっきまでのすてきな遺物のことが、すこーんと頭の中からすっとんでいた。……何ということだ。貴重な体験がずいぶん昔のことのような気がする。時計を見るとけっこう時間がたっている。
「そうだね。とりあえず戻ろうか」
私達がテントの場所に戻ると、既に古墳の中の副葬品はプラスチックの籠に綺麗に分けられて、組立式の机の上にならべられていた。大きな鎧と兜が一式並べて置かれている。どちらも錆びて赤茶けてはいるけれど、形はしっかりと残っている。
土器類はつやつやと光り、剣の柄の螺鈿細工はきらきらと輝きを放ちながら、私達を待っていた。小さな矢じりなどの部品は、綿にくるまれて大事に1つずつ置かれている。千年以上も昔に埋葬されていたものが、太陽の元に帰って来て、古の歴史を語りかけているようだ。
ああ、古代ロマンがいっぱいだよ。
ふと机の端の方に目をやると、粉々になった欠片が一つに集められていた。小さなガラスの円い入れ物に、色ごとに分けられて収納されている。中には白っぽい欠片の集まりと、うす青色の欠片の集まりもある。
──そのうす青色の欠片が元は何だったのか、私はすでに知っている──
白っぽい欠片の方はまだ分からないけれど、そのうち分かるよね。
──もう、元には戻せないよね。
自分のポケットの中の受容体を思い浮かべた。しーちゃんの様子をうかがうと、私の視線に気づいて軽くポケットをたたいて見せる。お互いにポケットの中身は誰にもみせられないね。
しーちゃんが私に向かって力強く頷いてみせた。
大丈夫だよ。あたしがついてる。思念波でなくても、そう言っているのが伝わってきた。
とりあえず休戦です。
怜奈が詩雛に頼ってばかりに見えないといいな。この二人のコンビ、お互いがあってこそ最強なので。
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それでは続きをお楽しみください。
皆様に、風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




