138 ふんだりけったりになった怜奈
大変遅くなりました。
138話 お届けします。
加筆修整しました(06.2.16)
「はあー」
「……」
しーちゃんが大きなため息をついているその横で、私は何も言えずにぐったりしていた。
げしっ。
「あいたっ」
いきなり肘を食らってしまい、
「ひどいよ、しーちゃん」
と泣き言を言うと、
「ヒドイのはそっち! れーちゃん他の人の目、気付いてた?」
半分睨みながら聞いてくるしーちゃんに思わずう、と身体を引く……気付いていたかと言われると、全くそんなこと考えていなかったというのが正解だ。完全に自分の思念波のことなんてすっぽり頭から抜けていた。
会議室に所狭しと並べられた副葬品の数々に魅了され、頭の中はあっという間に古代ロマンでいっぱいになってしまった。守川のおじさんが静かな声で一つ一つ説明をしてくれると、それらの副葬品を身に付けた古代人の想像が止まらなくなり、会議室にいる間中ずーっとその世界に浸りまくっていた。しかも思念石に思念波を流れ込ませることなんてきれいさっぱり意識から消えていたので……ああ、穴があったら入りたいっ!
豪華な馬具のついた馬に鎧を着て腰に豪華な刀を着けた豪族の父様。その父様の額には太陽の光を受けて燦然と輝く黄金の繊細な細工による冠。父様に憧れる弟が真似をして自分の丈には見合わない大刀を脇に差している。その様子をそっと見守る母様の胸には幾重にも重なる玉と勾玉のあしらわれた首飾り。
置いてある副葬品が豪華過ぎて思わず想像の翼をたっぷり広げて堪能してしまっていた。その想像から溢れ出した思念波が会議室の中にいた全員に垂れ流し状態になっていたのだ。気付いたしーちゃんが私の頭に手刀をたたきつけて止めてくれるまで、またもや私は生あたたかーい視線にさらされまくっていた。そして、そんな状態になっていることに全く気付いてもいなかったのだ。
そうです。私のやらかしです。もう海よりも深く、深海よりもさらに深く深く沈みこんでしまいたいくらいに反省しています! 恥ずかし過ぎて脱兎のごとく逃げ出したのも私です! きっと真っ赤に熟れたトマトくらいには顔が赤くなっていたことも自覚してますってば!
あー、やっちゃったよ。しかも盛大にやらかしたー。思念石がなかったら立ち直れなかったよ、ぜったい。
「この馬鹿妄想魔神! 変な妄想をみんなに押し付けるんじゃないっ!」
盛大にしーちゃんに叱られた。そのお陰でみんな笑って許してくれたし怪しまれずに済んだんだのでしーちゃん様々なんだけどっ! うう、そう簡単には立ち直れないよー!
たっぷり思念波を吸収した思念石が出来上がりつつあるのだけが救いだよ……。
「大変ご迷惑をおかけしました」
私が深々と頭を下げると、しーちゃんがふんと鼻を鳴らし胸を張る。
「あたしに感謝するようにっ」
はい。何も言えません。
その後、何とか落ち着きを取り戻した私は、今度はしっかりと思念石に意識を繋ぎ止めて溢れ出る思念波を必死で吸収させながら何とか最後まで見終えることができた。だけど見終わったときにはものすごーく疲れていた。
「な、なんとか終わったー」
博物館入口の側にあるベンチでぐったりしているのが今。
「ま、あんだけ興奮したらそりゃ疲れるよね」
しーちゃんは涼しい顔で自販機で買ったコーラを飲んでいる。しーちゃんは「おおお」とか「ふおおお」と謎の叫び声を上げながら食い入るように遺物を見て、おじさんに写真撮らせてーと詰め寄っていた。SNSに上げたりしないように、フラッシュも駄目、と注意はあったけれど、それさえ気をつければいいよと言ってもらえたので私もしーちゃんも撮りまくった。スマホ便利。
午後からはまたしーちゃんちで夏休みの宿題の残りをすることになっている。今日は習字と標語なんかをする予定だ。夏休みってなんか余計な宿題多くてめんどくさいよね。
「……そろそろかな」
「そうだね。移動しようか」
私たちは人の来なさそうなベンチに移動した。もう少ししたら会合の予定時間になる。そのとき、大事なことを伝え忘れていることに気付いた。
「あ、そうだ」
ごそごそと御守り袋をポケットから取り出す。袋はもうぱんぱんに膨れあがっている。しーちゃんがあきれた顔で言った。
「そろそろ他の入れ物考えた方がいいんじゃない?」
「うん、わかってる。ちょっと時間なくてまだこのままなんだけど、それよりもこれ見て」
しーちゃんの目の前に手を出して、
「私、すごいことが出来ちゃったんだよ。ほら!」
手のひらの上に思念石を並べて見せびらかした。しーちゃんが食い入るように覗き込み、
「ちょ、何これ!?」
危うく手を出しそうになって、
「おっとぅ、」
と手を別の方向へ回避させる。
「あっぶなーって、れーちゃんこれどうやったの?」
手の上には青い勾玉と、穴の空いたローズクオーツ、そしてハート型でくびれた部分に穴の空いた瑪瑙の思念石がある。しーちゃんは食い入るようにじーっと目を近付けて見ている。ここまでは私の予想通りだ。この後しーちゃんが目をキラキラと輝かせながら、
「すごいね、れーちゃん。思念石の形を変えられるなんてさっすがだね!」
と褒めてくれるはず。
── さあ、どんどん褒めるといいよ、かもーん。
ところがいくら待っていてもしーちゃんの顔が一向にこちらを向いてこない。じーっと思念石を見つめたままピクリとも動かない。
── あれ、おかしいな?
そのとき、ぎぎぎ、と音がしそうなくらいにゆっくりと首を回して私を睨み付けてきた。
「れーちゃん」
「はい」
地獄の底から響いてきたかと思うくらい低ーい声で私の名前を呼んだしーちゃんは、
「とりあえず、そこに正座しなさいっ!」
とベンチをビシッと指差した。
── え? 私、何か怒られるようなことした?
体調不良とリアルに襲われました。
しかも前回から暴走中の怜奈が止まらず話が進まない……恐るべし古代ロマン。
次回はたぶんがっつりお説教会になると思います。
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皆様に、風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。




