13 幽霊に盗聴される
埋葬品についての話が続きます。
怜奈は盗聴だとは言っていませんが、読まれてます。
加筆修整しました22.10.17
── しーちゃん、ナイス。おじさんは学芸員だから小学生にもわかるように説明してくれるはず!
「おじさん、私達にもわかるように説明してくれませんか」
「そうだね。守川の説明だと専門的すぎて、詩雛達にはわからないよね。……よし、では説明してあげよう」
そう言って父さん達から少し離れた入口側に場所を移動すると教えてくれた。
「この古墳は白鳥山古墳の近くにあるから、そこに埋葬されている天皇か貴族に仕えていた人のものだろう。大きさの違う石棺が埋葬されているから、家族で葬られているのでは? 詳しくわかるのは棺を開けてからになるという話はさっきしたよね」
静かだけれどよく通る声で説明してくれる。
「普通、古墳に埋葬されるのは裕福な人だから、その人が生前使っていたものや、亡くなってからも不自由な生活にならないようにするためのものを一緒に埋葬している。亡くなった人達は死後黄泉国に旅立つと考えられていたんだ」
やばい。説明を聞いているうちにうっかり想像しそうになった。今はしっかり聞くぞ。まだ駄目だよ、私。
「黄泉国で食べる物や飲み物に困らないように、食器が一緒に埋葬されるんだ。あそこにいくつもある須恵器がそうだね。多く入れられているということは、生前それだけ裕福な生活をしていたということなんだ。黄泉国で出される食事のことを、黄泉戸喫といって、これは生きている人が食べてしまうと、二度と元の世界に戻ることは出来ない、と言われている。つまり、亡くなってから食べる物と、生きている人が食べる物は別なので、食器だけを埋葬するんだよ」
「なるほどー。父さんありがとう。超わかりやすい!」
「おじさん、ありがとう。とてもよくわかります」
黄泉戸喫の話は図書室で、「日本の国のなりたち」という神話を読んだ時に出ていた。本で読んだ時はすごく昔の話だと思っていたし、神様が矛で海をかき混ぜて、そこからしたたった滴がそのまま島になって、それが日本になった。なんてあまりにも現実離れした話だったので、昔の人は変な考え方するなーって思っていた。
その本の中に、日本を作った夫婦神の物語があった。女の神様が先に亡くなり、そのことを受け入れられなかった男の神様が、黄泉国に女の神様を迎えに行くというものだ。けれども女の神様が黄泉国の物をもう食べてしまっていたから元の世界に戻ることが出来なかった。
神話だし作り話だろうと思っていたんだけれど、昔の人は本当に信じていたんだ。不思議だけど面白い。やっぱり古墳にはロマンが詰まっているね!
『成程。レナと言ったな。そなた、まだ幼く見えるが意外と博識だな』
静かに感動していたその時、突然頭の中にあの声が響いてきた。一瞬身体がびくっと大きく動いてしまった。
……私、声に出してた?
「怜奈ちゃん、大丈夫かい?」
おじさんが心配そうに聞いてきたので、慌ててごまかす。
「だ、大丈夫です! 暗いからちょっと躓いただけ!」
おじさんは心配そうに眉をひそめると優しい声で、「気をつけてね」と言ってくれた。
ほっとして息をついたその時、また頭の中に声が響く。
『すまない。驚かせてしまったな』
姉の声はさっきまでの偉そうな感じはなくなり、私のことを気遣ってくれている感じがする。声の響き方もさっきまでのガンガン頭が痛くなるくらいに大きいものではなく、普通に会話しているときと同じくらいになっていた。
『そなたの感じたことや思考は、受容体を通して私に伝わっている。だが怯えずともよい。受容体と私の距離が近くなければ全てを共有することはない。そなたがまだ慣れておらぬから繋げているだけだ。今そなたがいるところから、そなたの父親がいる場所くらいに離れれば、会話する程度の思考しか共有されることはない。安心せよ』
姉の透き通った体がすぐ隣にあり、私の左腕と彼女の右腕が重なっていた。
『このように近接しておれば思考は共有される。そして、他の者に共有されることもない。……恐れるな。不必要に共有することはせぬ。だが、今は必要であろう。こうしておれば、声に出さずとも会話出来るからな』
──話すのと、思考の筒抜けは違うと思う! と心の中で叫ぶと、ふっと笑った感じが伝わってきた。
おじさんの説明は続く。
「次に向こう側の武具の説明をするね」
おじさんの手が、右奥の武具のある場所を指す。
「未盗掘だったお陰で、埋葬された当時と変わらない姿で残っている遺物が、たくさん見つかったんだ。木製の部分は残念ながら腐ってしまったところもあるみたいだけれど、ここから見ても鉄製の鎧がそのままの形で残っているのが分かるよね。冑と胴の他に、甲と呼ばれる手や膝を守るための武具もあった」
おじさんの指先が横にずれる。
「それから鎧の横に立てかけられているのが、大刀。刀自体は錆びてしまっているけれど、意匠と呼ばれる刀の根本部分が綺麗な状態で残っていたよ。この後で運び出すから、明るい場所でよく見てごらん。螺鈿細工がよく見えると思うよ」
他にも矢じりや槍の先なんかが、いくつも埋葬されていたみたい。
「ふっふっふっ。やったね父さん! お宝ザックザクだねっ! れーちゃんすごいね、感動するね!」
しーちゃんが興奮した声でぴょんぴょん飛び跳ねた。
続けて読んで下さっている皆様、ありがとうございます。少しずつPVとユニークが増えています。まだまだ先は長いので、お付き合いいただけると嬉しいです。
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それではまたお会いしましょう。皆様に、風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。