1 プロローグ 襲撃
この作品を見つけて読もうと思っていただき、ありがとうございます。
まりんあくあ初めての投稿作品です。
地球編は異世界人で世継ぎの姫レイアーナ、主人公怜奈を中心としたお話になります。
プロローグのみ、レイアーナの妹 シュリーア視点が混じっています。
ピーッ、ピーッ、ビーッ。鳴り響くアラート音の中、
「各部署からの状況報告はまだか!」
冷静な姉の声がコントロールルーム内に響き渡る。濃い青の切れ長な瞳はきつく細められ、薄い唇が引き結ばれている。
姉の声に呼応するかのようにいくつもの指示を出す声が飛び交い、コントロールルーム内は騒然としていた。
ず……ん、と重い衝撃と、重なる振動。
固定された座席ごと、何度も身体が揺さぶられる。
── 何、これは……。何が、起こって……いる、の?
初めて遭遇した緊急事態に、シュリーアは恐怖に襲われパニックを起こしていた。
モニターには次々と船体の受けたダメージの箇所や映像が表示され続けている。
乗務員達は厳しい表情で、慌ただしく指示を出し続けている。
── コレハ、何!? 何が起こっているの!? 怖い怖いコワイ……!
艦長でもある姉は、次々起こるそれらの事象を冷静に判断し、指示を与え続けている。その横で怯え、顔色を失っていく自分のことは一顧だにしない。
シュリーアは自分の座席の肘置きを両手が白くなるくらい握りしめ、必死に恐怖に耐えていた。
── どうして、こんなことに……!
シュリーアの乗船した宇宙船は、姉が艦長を務める軍用艦だ。母星成層圏上にある宇宙港から出航し、衛星にある学園都市を目指して航行していた。
シュリーアは今年十六歳になる。母星アレトの五大国の一つ、エミューリア王国の第二王女として生まれた彼女は、十歳までは離宮で育ち、その後王宮内に部屋を与えられた。
そこで貴族のみが通うことのできる王立学院に入学し、卒業後は広大な砂漠に造られた王立宇宙訓練所へ送られた。
訓練生は王立学院で特に優秀と認められたものだけが集められ、数ヶ月の訓練期間ののち、衛星にある士官養成学園へと送られる。そこで様々な適性を試され、国を支える重要な人材として育成されていく。
衛星に送られる候補生に選ばれることは誉れであり、全国民の憧れでもある。エミューリアを統べる一族の者としては選ばれて当然とはいえ、シュリーアはそのための努力を惜しまず、晴れて候補生に選ばれた時は誇らしさで胸がいっぱいになった。
シュリーアの姉レイアーナは、初めて国を出て学園に進学する妹の護衛と、国の代表として入学式に出席する任務を負っていた。
出港してしばらくは何事もなく、シュリーアは初めての宇宙旅とこれから行く学園に思いを馳せていた。
エミューリアからの学生は全員この軍用艦に乗船しているが、シュリーアたちとは別の部屋を与えられている。シュリーアは姉のはからいと警護上の理由から、就寝時以外はコントロールルームで過ごすことになっていた。軍用のスペーススーツを着込み、濃い水色の髪を美しくまとめ上げた姉が乗務員達に次々と指示を出していく。キビキビした様子は憧れの象徴でもあり、自分の目指す姿をそこに重ねて見てもいたのだ。
しかし、宇宙空間に出て間もなく、それは突然に起こった。
ぐらり。
また船体が大きく揺れる。その衝撃をものともせず、姉はモニターを見つめ指示を出し続けている。
その横顔を見ながら、シュリーアは正気を失っていく自分をコントロールできない。
宇宙空間に慣れるための訓練を受けたとはいえ、あくまでも基礎的なもの。知識としては知っていても、危険とは無縁の穏やかな生活しか知らないシュリーアにとって、突然の襲撃は恐怖でしかなかった。
どんどん感情のコントロールが出来なくなっていく。何とか必死に耐えていたが、戦況はどんどん悪化していく。
船内のあちこちから入る暴動の報告。捕縛されたり、命を失った同朋達。訓練を共にした仲間が次々に反旗を翻したというあり得ない報告が続いている。なぜ? どうして? 共に学園で過ごす日々を夢みて、時には厳しい訓練に耐えてきた。それが……。
ぎゅっ、と閉じていた目を開けると、不自然な格好で動きを止めた側近の死体が側に浮かんでいる。幼い頃から共に過ごし、姉よりも長い時間を共にしてきた、姉妹のように育った人。声にならない震える唇で呼びかけても、もう返事はない。
ひゅっ、と声にならない悲鳴が口から漏れ、身体がガタガタと震え出して止まらなくなる。……なぜ、どうして?
……コワイコワイコワイコワイッ……!!
ガクガクブルブル震えが止まらない身体から、ゆらりと思念波が溢れ出す。
「いけません、姫様!」
シュリーアの異変に気づいた側仕えが、後部座席からベルトを外し駆け寄ろうとしたその時。
── コワイコワイコワイコワイコワイっ……!!
ぶわりとシュリーアの能力が暴走し、あっという間に周囲を巻き込んだ。
巻き込まれた乗務員達の意識が引きずられ、恐怖に呑み込まれていくのになす術もない。
能力の暴走は更に加速度を増し、あっという間にコントロールルーム外にも溢れ出ていった。
「何!? シュリーア!」
宇宙船内で唯一シュリーアより能力値の高い、姉のレイアーナがそれに気づいた時には、既に押さえ切れない程の奔流となったシュリーアの思念波がコントロールルーム内に渦巻き始めていた。
「うぉおお」
「うわぁ! 何だ!?」
「きゃあぁぁ!」
コントロールを失った思念波の塊を放出すれば、周囲への被害は避けられない。
思念波の干渉を受けた乗務員達が次々と恐怖に呑み込まれていき宇宙船そのものが操作不能になっていく。
コントロールルーム内が途端に大混乱になった。
── まずいっ……!!
レイアーナはすかさず己の思念波を解放し、船外から包み込んだ。船外にいた戦闘員、コントロールルーム外の船員達の意識もろとも一気に取り込み、シュリーアの波動を包み込む。
進行方向にはおびただしい機雷群が待ち受けている。
このままでは宇宙船もろとも粉々に砕け散るしかない。
── ならばっ……!
レイアーナは操作パネルの緊急停止ボタンを素早く押した。
── 相殺するしかないっ!!
暴走したシュリーアの思念波に、一気に自らの思念波を叩き込む。
次の瞬間、辺りの空間が歪み、その裂け目に吸い込まれるようにして宇宙船が消失した。
あとには、最初から何も起こっていなかったかのように静寂が訪れていた。
「シュリーア!! ……って、誰?」
怜奈は自分の出した声に驚いて一瞬目を覚ました。
枕元の時計を見ると、まだ夜中の時刻を指している。
何か夢を見ていた気がする……。
── まあ、いいか。
ずれていたタオルケットを肩まで引き寄せると、再び眠りについた。
翌朝目を覚ました怜奈は、すっかり昨夜のことは覚えていなかった。
思念波は、まりんあくあの勝手に作った概念?です。既成のものとは差違あると思います。
興味を持っていただけたら幸いです。
次話から本編となり、現実世界 (あくまでもフィクションですが)での話になります。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは一気読みにご注意の上、次話以降を楽しんでいただければと思います。
どうぞ末長くお付き合い下さい。
_(._.)_
Twitterの企画でシュリーア姫のイラストを描いていただきました。雨色銀水(@ameiroginsui)さん、素敵なイラストありがとうございます!
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外見描写が足りないと指摘をいただきました。ありがとうございます。そのあたりを重点的に加筆しました。今回加筆したのはレイアーナの描写です。
それでは皆様に、風の恵みが共にあらんことを。