序章6話 「子供部屋」
「根源構築要素については覚えているかい?」
階段を上がりながら突然、エイトさんは尋ねてくる。
「……?いいえ、覚えていないです。村長から似たような言葉は聞きましたが」
村長から聞いた「根源構築要素確定人物」という言葉。聞いた覚えすらないその言葉は不思議と頭の中に強く残っていた。
「根源構築要素っていうのは、簡単に言うと超能力みたいなものだよ」
そこでエイトさんはハッとして。
「……超能力は分かる?」
「流石に分かります」
別に言葉まで全て忘れているわけではないのだ。何を忘れたのか具体的には分からないが、こうして会話を交わせる程度には教養はある…つもりだ。
「超能力と根源構築要素は、何か違うんですか?」
「ほとんど同じだよ、発生条件を除けばね」
エイトさんの雰囲気から察するに、とても当たり前のことなんだと思う。
ただ、他の単語とは違い、微塵も覚えていないのだ。
「ここだよ」
ドアの前で立ち止まり、そう言ったエイトさんは、やはり複雑な表情をしている。
「エイトさんの部屋ですか?」
「いいや違う。息子の部屋だ」
「……でも村長は、エイト夫妻に子供はいないって―――」
そこで気付いた、決定的な間違いを犯したことに。
エイトさんの目は血走り、唇を噛みしめ、必死に何かを踏みとどめようとしている。
おそらく、「子供がいない」体で話すことが、エイトさんにとっての地雷なのだ。
「―――ごめんなさい。」
ただ謝ることしかできなかった。
他の選択肢が見つからなかった。
「……中に入ろうか」
そう言ってエイトさんはドアを開ける。
中はたくさんのものであふれてはいるが、整理されていた。
おもちゃや絵本、少し稚拙な絵などが置いてあり、まるで本当に子供が住んでいたようだった。
「……あの……」
「子供部屋だよ。もちろん僕たちのね」
そう言ってのけるエイトさんは嘘をついてるようには見えない。
この景色について聞き辛いこちらの心境を察してくれたのか、言葉にする前に答えを提示してくれた。
「僕以外の人は皆覚えていないんだ。こうして部屋も、物も、においも、こんなにも証拠が残っているのに」
奥さんが趣味として片付けるのも無理はない。いや、むしろ逆だ。
これが作り物なら、完全に趣味の領域を超えている。
それほどまでに、子供の存在感を感じる部屋だった。
「今から言う言葉を信じてほしいわけじゃない。ただの戯言だと流してくれてもかまわない」
こちらに向き直ったエイトさんは、こちらを品定めするように強く睨みつけていた。
悲しさからなのか、緊張からなのか、とても震えていて。
とてもこれから冗談を言うようには見えなくて。
「息子……ソラは、根源構築要素確定人物になったんだと思う」