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序章4話 「村の異変と書類」

青年の能力の片鱗が見えます。怖いですね。

「あの失言が彼をあそこまで追い詰めてしまったのかもしれん」



 書類を進めながらうつむき気味に語る村長。



「だがな、いくら何でも彼はおかしくなっていた。

 なんせエイト夫妻は子供なんてできたこと(・・・・・・・・・・)がないはず(・・・・・)なんだ」


「村長さん……」



 言葉にだんだん焦りの色が見えてくる村長に、たまらず少女は声をかける。

 先程からこの二人は何かを隠しているのか。そんな風に思えるような焦燥を感じるときがある。



「記憶喪失が云々というのはもしかして……」


「ああそうだ。エイトが『村中すべての人間が息子のことを忘れている』なんて言いふらしていたせいで、傍から見ればおかしな村扱いだ」



 青年の問いに、村長は「困ったもんだ」とでも言いたげな態度をとった。



「それにですね。この村では少し前に集団失踪事件……とも言えない?ような?事が起きているんですよね」


「エイトの異変と同時期に……な」



 そう説明する二人の情報から察するに、記憶喪失で森に鎮座していた珍妙な青年をこの村に連れてきたのは、そういう事情が絡んでいるんだろう。



「未だに見つからない者もいる。無事だといいんだが……」


「集団失踪の原因などは……?」


「分からない。夜が明けたら皆それぞれ違う場所で目が覚めた。」



 話しながら既に終えた様子の書類をまとめている村長は、こちらに向き直り説明を続ける。



「幸い青年のような記憶喪失は誰も起こしていなかった。それぞれの足で帰ってこれる程度の距離にいたようで、皆が続々と帰ってきた不思議な光景をよく覚えてるよ」


「それで私はその時にこの村に派遣された調査員……みたいなものなんです」



 いままでのいきさつの補足説明を入れてくれた少女は、ふと時計を見上げたかと思うと途端に驚いたような様子をみせ、青年に話しかける。



「―――あっ! ごめんなさい! 私もう戻らないといけない時間になってしまいました……」


「いえ、ありがとうございました。あとは自分でなんとかします」



 少女に導いてもらうまで、右も左もわからなかったのだ。感謝こそすれど恨むようなことは決してない。



「こんなところまで引っ張っておいてごめんなさい。あとは村長さんに任せても大丈夫ですか……?」


「んん?まあ場所と食事程度なら用意してやれるだろうが、青年はこれからどうするつもりだ?」



 どうするつもりと言われても、ここは村の厚意に甘えるしかないだろう。



「しばらくお世話になることができるのでしたら、あとは自分で何とかしてみせます」



 正直なことを言うと不安でたまらない。自分が誰で、どこに住んでいて、誰と暮らしていたのか何も思い出すことができない。そんな状況でも自分の力でなんとかできる、そう思い込めるほど理性は欠けてはいないらしい。



「それじゃあ、後はお願いします……!また何日かしたら調査で訪れると思うので、また力になれると思います……!」



 問題の途中でいなくなる罪悪感から、次の日程まで明かし去っていく少女。見知らぬ人にそこまで肩入れすることができるなんてよっぽどのお人好しなんだろう。



「青年、早速住居の方なんだが……」



 どこか引け目を感じているような様子で家の場所の説明をしてくれる村長。話によれば、一組の夫婦が住んでいる家のようだ。



「本来ならとても人当たりのいい夫婦なんだ。数日の間泊めてもらう程度なら快く承諾してくれるはずだ。」


「何から何までありがとうございます。何とか復帰の目途が立ち次第村を出ていくので」



 本来なら(・・・・)、余計な一言が付いているせいで、何か不安に駆られるものがある。



「気にするな。最悪断られたらここに戻ってこい、かなり狭いが倉庫がある。そこで寝るぐらいならできるだろう。」


「そうさせてもらいます」



 引け目を感じるのはこちらだろうに、どうして村長は浮かない顔をしているのか。不思議に思いつつも恩人には違いない相手に不躾ぶしつけな態度は良くないだろう。

 記憶とすら呼べない、そんな感覚から綱渡りをするように手探りで言葉を選んでいく。

 


「じゃあな青年。がんばれよ」



 表情を少し緩めてエールを送る村長。



「はい。少しの間、お世話になります」



 おそらく合っているだろう言葉の感触に若干の達成感を得つつ、気になっていたことを思い出し、振り返る。



「そういえば、もう遅いかもしれないんですが」


「んん?どうした、なにかあったか?」



 青年は、100枚近くあるだろう書類の山を指さして



「その書類の山、上から13番目と27番目、43番目に判を押しそびれてますよ」



 そう言って村長宅を後にして、教えてもらった通りの道筋を辿り目的の家へ足を進める―――

 

 最後に大きなミスをしているとも知らずに。



「……変な奴だな。話しながら作業してたとは言えそんなに間違えるわけないだろう……」



 最後に不思議なことを口にしていた青年を訝しむ。思い返せば言葉遣いこそ正しいものの、何かが欠けている―――そんな気がしていた。

 きっと彼は普通ではない。それこそ例の失踪事件等との関係も……?


 収まることのない想像を膨らませる中で、念のために確認していた書類。上から何枚目なんて数えることもせずにパラパラと見ていただけだが、見つけてしまった。

 数え直せば上から13番目。特別覚えやすい書式なわけでも見た目なわけでもない普通の書類。



「―――っ!」



 ―――ただ、判の欄が真っ白な事を除けば。

 

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