序章1話 「望まない出会い」
第1章が完結するまではそこそこのハイペースで投稿を続ける予定です。
村を抜け草原を越えた先にある森。
木々は生い茂りとても歩きやすいとは言えない獣道を進んでいくしかない不便な土地だが、その森にはある『伝説』が残された大樹が生えていた。
そんな大樹の下に今、二人の若者がいるのだが―――
「あのー……」
片割れの燃えるような赤色の髪を後ろで結わえている少女が、直立不動で目を閉じている青年に向かって声をかけていた。
青年は微動だにせずただ黙って立っているだけなのが少女の心配を加速させたようで、たまらずもう一度声をかける。
「生きてますか……?森の中で奇抜な死体を見かけたとか嫌ですよ私」
それでもなお、青年は微動だにせずに佇んでいるだけだ。
傍から見ればおかしな二人組で片付くが、片割れの少女はそうはいかない。
少女はただ街に向かう途中にある名所に訪れて息をつきたかっただけなのだが、世話焼きな性格が災いしてか自ら面倒事|に首を突っ込んでしまう。
「こうなったら……!」
少女はおもむろに青年の目元に手をやり、むりやり目を開き始めた。
「おはようございます……?大丈夫ですか……?」
「…………ん?」
目が開ききると同時に生まれた青年の声を聞いて、少女は安堵するように声をかけた。
―—―――――――――――――
目が覚めた。
目の前には見知らぬ少女、そこまではいい。
どうして俺は見知らぬ少女に目をこじ開けられ、直立不動で森の中にいるのだろうか。
「どういう状況なのか――聞いても大丈夫ですか?」
あまりにも突然のことで同様の声音を隠せないまま少女に尋ねると、少女が慌てて距離を取り話し始める。
「ごめんなさい!あまりに不自然な格好で眠っていたので、てっきり何かあったのかと……」
「いえ、大丈夫なんですが……すみません、重ねて失礼ですがここは一体?」
「……?ここにいらしたのにご存じないのですか?」
不思議そうな目で青年を見る少女。
しかし、最寄りの村からでも1時間はかかるこの森に用事もないのに訪れて寝ているとなれば訝しげな態度をとってしまっても無理もない。
「ここは『祝福の大樹』で有名な森です。聞いたことありませんか?」
「……聞いたことないですね。どうやってここに来たんでしょうか」
「私にもそれは……あなたはどこからいらしたんですか?」
何か思いついたかのように青年に問いかける少女。
「どこって……あれ……?」
「どうかしました?」
少女に聞かれてようやく気が付いた。
気が付いてしまった。
「たびたび重ねて聞くのも申し訳ないんですが―――」
どこから来たのかを思い出せない―――どころの話ではない。
「――――俺は……誰なんでしょうか……?」
自分についてのなにもかもを思い出せないということに。