崩壊は免れぬ
「お前が賢く努力家であるという疑いべくもない事実、おれはそれが素晴らしく誇らしい。おれは、怠惰で愚鈍などうしようもない人間だからさ、」
姉はいつものぼんやりとした笑いを浮かべて私の顔を見た、それでも美しい人間でしかなかった。姉は自分自身に対し、愚かであることを強いているふしがある、私は姉の部屋で見た、読み古されたたくさんの書物・感情を綴ったたくさんのノートの重なりに、姉の悲劇を感じた。
姉さんは突き詰めることに真剣になりすぎて、途中で諦めた自分を見放したからそうなったんだよ、
なんて言えれば楽だったのになあ。私は、どうでもいい曇り空と、せまく遊具の少ない公園に、姉の苦悩を閉じ込めたかった。座るともう足を引きずるしかない小さなブランコ、その色あせた青、昔は大きく輝いていた夢に、今は姉妹で二人、片方はサイズの合っていない汚れた古着、もう片方はいつまで経っても着慣れないスーツに身を包んで。
この土地を覆ってる多くの木の名前を私は知らない、遠くで鳴いている鳥の名前も、足元の踏みかけた草の名前も。こんな冷たい、異邦人を見る目で私達を睨む人々の住む田舎に愛着はないのに、どこを歩いても姉のにおいがした、狂おしく愛おしかった。この町が持つ、あらゆる全ての優しさは姉に起因していた。
「ちゃんとご飯食べてる?」
「うん、」
「病院行ってる?」
「うん、」
姉は作業的に頷いているに過ぎず、それでも私は無性に泣きたくなり、
「ねえ。」
耐えきれなかった。
「一緒に住まない?……そんなに広くないアパートの二階だけど、人が密集していないながらも、なかなか便利なところにあるし、近くに評判のいい精神病院もあるからさ、」
姉は焦点の合っていない目で、感情を伝えることを拒む表情をしていた。風が吹いた。姉の頬、その薄い皮膚を切り裂くくらいの鋭さを持っていたが、それでも姉は揺るがなくて、この世にこれほど強いものがあることに、私は畏怖の念を覚えた、しかしそれは世界でたった一人の、私の'きょうだい'であった。
会話はそこで終わった、私はあの部屋に戻るしか道はない。
そして姉はいつも通りに家に帰る、幼い頃を共に過ごしたあの、一戸建てのわびしい薄茶色の家。老いた母が一人でゆっくりと待っているのだろう。私は確実に崩壊に向かっている古い実家と、毎日帰らなければならない郊外の新しいアパートを同時に憎んだ。




