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私の虫

※自傷描写

[ 熱中症警戒情報です。日中は危険な暑さになるため、できるだけ外出を避け、こまめに水分補給を……]

 ホームセンターに行くために外を歩いていると、市の防災放送が聞こえた。私は暑さのために緩慢な動作で、ぬるくなったペットボトル飲料を少し口にした。


 去年の夏、眠るのをやめようと試みた。それは自分の感覚できるもの全てを支配したいという幼い欲求からで、暑さのせいで浅くなっている思考がそれを手伝った。しかし私は一日目から眠気と闘うことになり、自分の体を叩いたり、しまいには脚に針を刺したりして凌ぐほどだった。三日目に、脚が傷だらけになったのを見た姉に止められた。姉の脚は白くて、あまり肉がついていなくて、よく見ると表面に細い産毛がたくさん生えていて、触ると気持ちが良かった。私の脚は浅黒くて、ガサガサしていて、毛は無かったけど、たくさんの傷はパソコンのイメージに繋がっていた。

 昔は家族共用の据え置き型のパソコンがリビングにあって、みんなで使っていた。ある時、姉が使った後に検索エンジンを開いたら、検索履歴に、様々な種類の虫の名前の後に、“交尾”という言葉がが付いて、並んでいた。姉は虫が好きで、他の時に見たら、“捕食”や“共食い”を調べた形跡もあった。姉は虫の、生にも死にも性にも興味があるんだ、と思った。姉は毎年、幼虫からカブトムシを育てていた。私は虫に興味が無かったが、そのままカブトムシの交尾動画を見ていると、パソコンの画面が固まり、真っ暗になった。色々やってみたが電源がつかず、パソコンの本体を開いたところ、基盤に大量の蛆虫が沸いていた。後で話したら、そんなことありえない、と父に言われた。実際、パソコンは壊れていなかったし、一匹の虫の死骸さえも存在してなかった。私が見たものは一体何だったんだろう、そうして脚にあるたくさんの傷から、私は蛆虫が沸く幻覚を見た。今も残っている傷痕に触れると、そのことを思い出す。

 

 寝転がってる姉に、ふざけて上に乗っかるたび、私はカブトムシの交尾を頭に浮かべる。実際に姉が飼っているカブトムシが交尾をしたところは見たことがなかったが、一度見た動画の鮮烈な記憶が、後ろめたさを抱かせた。

 暑いからひっつくな、と、夏場になると姉は接触を嫌がる。姉はいつのまにか虫を飼わなくなり、私が虫を飼っている。私は、自分の飼っている虫の交尾をいつか見てみたいと思う。人間の一人一人はパソコンに沸いている蛆虫と同じで、実はその大量の蛆虫がパソコンを動かしているのかもしれなかった。私の部屋にはたくさんの虫がいるが、外にはもっとたくさんの虫がいた。姉の体に虫が詰まっていることを想像し、喉の渇きを感じた。

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