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ぐちゃぐちゃになった夢の底

 この瞬間が永遠に続けばいいのに、と願うのは生命力の停滞した人間の特権だが、いつまでもそれに縋っているのは馬鹿らしい、な。と、自分でため息をついた。

 そんなにぐちゃぐちゃになるなら切ってしまえと言われそうなほどの、乱雑に一つにまとめられた中途半端な長さの姉の髪に、私は吸い寄せられるように近づいた。

「姉さん、私が縛り直すよ。」

「そう?ありがとう。」

 こう言われることを分かっていて、この人は汚く結ゆわえた髪の毛を、臆面も無く人目に曝さらすのだろうか。私だけにしといてほしいなどという自分勝手な気持ちで、柔らかい髪を櫛で梳とかす。髪を一つにまとめて持ち上げると、頸うなじにほくろがあった。多分、彼女に幾分かの興味がある人なら知っているであろう、小さな印。付き合いの浅い人でもたまたま目につくかもしれない。こんなものでなく、私は、自分だけが所有するような彼女の一部分ほしかった。

 血がつながっているのに似てないね。と言ってきた他人は、血がつながっているから似ないという可能性を知らない。私は、初対面の相手に何か熱心にスポーツをやっているのか聞かれるくらいの、女性にしては涼しい髪型をしていたが、姉の髪をくくるのは得意だった。誰かの髪を梳かしたり結わえたりするのは姉だけにしかしたことがなく、今後も私の手はその仕事に従事するだろう。

「こんなに綺麗な髪をしているのに、随分と雑に扱うよね。」

「本当は切ろうか迷っているんだけど、あなたがまるで宝物のように丁寧に扱ってくれるから、少し切るのが惜しい気がしてさ。」

「切らなくたっていいよ。いつでも私が結わえてあげるし梳かしてあげるから、そのままで。」

「じゃあ、そうしようかな。」

 髪からはふんわりと柔らかいシャンプーの匂いがした。私と使っているものは同じだが、匂うだけでこんなにも愛おしい気持ちがこみ上げるのは、姉の心地よい体の匂いと混じり合っているからだろう。最後に二人で風呂に入ったのはいつだっけと思った、また入れたら頸以外のほくろも見つけてやれるのに。でも姉はそんなことを望んでいないし、私にその役割は与えられていない。姉が大人しく私のそばに留まっているのはこうやって髪をいじってる間だけで、終わればふらふらとどこかに行ってしまうのだ。もういっそ、切ってしまえばすっきりするのだろうか。惨めったらしく執着していないで、今の私くらい少年のように短くすれば、姉は私そっくりになって、私は姉から解放されるのだろうか。そんな馬鹿みたいなことを考えながらも、私の手は姉の髪の毛を美しく一本にまとめ上げた。


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