グツグツ
ちょっとした性的表現あり。
くし型の玉ねぎをゴロゴロと木べらで転がし、豚肉もろとも火が通るまで待っていると、背後から影が降ってきた。窓のないコンロ周辺は特に暗くなるので、背後に立たれるのは好きじゃない。まして、どんな反応も封じ込めるように肩ごと抱きしめられるのは嫌いだ。
「今日の晩御飯はカレー? それともシチュー?」
「まだ決めてない。」
ご飯が炊けたと炊飯器が告げている。カレーにしろシチューにしろ、豚汁にしろ材料は全てそろっている。煮汁に何を溶かすかはその時に決断すればいい。今はまだ決断すべき時ではない。
大きな骨っぽい手の甲が私の顎を上向かせる。防御を封じられた首筋に切り揃えられた頬髭が当たる。香ばしい油の香りが男の匂いに掻き消される。ざらついた舌が這う。
片方の手の平は脇の下、脇腹を上下する。もう一方は右の乳房をつかんでいる。解放された私の腕は玉ねぎの程よい焦げ付きを確認し、人参とじゃが芋を投入する。さっきより重くなった木べらで具材の上下を入れ替える作業に専念する。
今夜もこの男とセックスするだろう。昨夜もしたセックスを今日も繰り返し、明日も繰り返すだろう。
もうすぐ母が帰ってくる。父は5年前に出て行ったきりだ。一人娘の私は帰ってくると夕飯の支度をする。時々、帰ってすぐにセックスすることもある。それでも夕飯を作る仕事がなくなることはないが。
「今日はどんなふうに抱かれたい? 優しくされたい? それとも痛いのがいい?」
抱かれたくないという答えは用意されていない。だから男の腕の中、私は振り向いてキスを求めるふりをする。
男は唇を歪め、私のお尻を強くつかむ。ぶよぶよと濡れた唇は無心になることで平気になる。長い修業を積んだ禅僧に匹敵するほどの瞑想状態ではないかと自画自賛している。誰に自慢するわけでもないが、誰も知ることはないのだ。