五話 魔法とは(1/3)
訓練用の木刀が3度交錯し、互いに距離をとる。
一度相手を確認しなおして、仕切り直し。
フェイントも混ざった剣筋を逃すことなく受け流し、相手が一瞬見せた隙を縫うように木刀を突きだした。
「やあっ!」
読まれていた、というよりは誘導されたのだろう。
テレンスはニヤリと笑って突きをかわし、俺の頭にこてっと木刀を当てた。
「ほい、一本。お前単純すぎるんだよ。もっと相手を疑ってかかった方がいいぜ?」
『ほんとだぜ全く。肉薄したときに空いてる手で闇属性魔法の一つでもぶつけてやりゃ少しはマシになんのによ』
無茶言うなよ…。
テレンスの剣筋を見極めるので精一杯だっての。
視界から一瞬消えるんだぜ…?
頑張ってるよ俺。
「俺みたいな素人がフェイントさばいてるんですから褒めてくれたっていいじゃないですか…」
そんなことを考えていたら、愚痴として漏れてしまったようだ。
テレンスがますます悪人面になる。
「お?言うようになってきたじゃねえか。もう少し早さあげてもいいんだぜ?」
「せめて今の速度のままでお願いします」
もはや土下座するしかない。
日本の美。
THE・DOGEZA。
『どの辺に美しさがあるってんだ…?』
出入口の方からクスクスという声が聞こえる。
そちらを向いてみれば、アネモネ団長が腕を組みながら俺に向かって歩いてきていた。
「とはいえ、ここ数日でメキメキ実力が増しているのがわかるよ。
あれだけ担架を切ってついてこれなかったらどうしようかと思ったが、杞憂だったようだ」
「あ、ありがとうございます!」
『まだまだ俺様の本来の実力には程遠いがな。けっ!』
正直シックの本当の実力がどうであれ追いつける気がしない…。
いや、弱音を吐いたらダメだ。
いつか絶対追いついてやる。
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「ちょっとあんた。あたしについてきてくれない?」
今日も今日とて授業が終わった。
最近楽しみになってきたテレンスとの特訓に向かおうと荷物を片付けていたところ、イザベルさんから呼び出された。
「えっと…どんな用事でしょうか?」
なんか俺したかな…。
イザベルさんは優しい微笑みで話しかけてくる。
「この前アリスが世話になったって聞いてさ、あんたのことちょっと見直したのよ。
だからあたしも、あんたが少しでも早く強くなれる方法を実践してあげようかなと思って」
なんとアリスさんに続いてイザベルさんまでもが俺の手助けをしてくれるという。
情けは人のためならずとはこのことか。
俺が感動していると、シックが水を差してきた。
『おいおい、このねーちゃんが凄腕の魔法使いだってのを忘れたのかよ。近付かない方が身のためだぜ?』
シックは人を疑いすぎなんだよ。
もう少し人を信じるってことを覚えた方がいいと思うぜ?
『アホか。そもそも少し前までテメーだって疑ってたじゃねーか』
疑ってませんー!
怖い人だなって思っただけですぅー!
『開き直んなよ…』
「で、どーすんの?ついてくる?」
シックとの会話に気をとられて、まだ返事を返していなかったことに気がつく。
もちろんいきますと返すと、イザベルさんは満足そうな笑みを浮かべた。
「よろしい。ま、そんなに時間かかるようなもんじゃないから、気楽にしてなさい」
どんなことするのかな…。
でも短時間で強くなるってことはやっぱりそれ相応のリスクがあるはずだろうし…。
『魔術の発展に犠牲はつきものでーすってか?』
そうそれ。
最近リスクに見合ったリターン貰えないからなぁ…。
「【催眠術】」
────意識が、遠のく。
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南正義が目を覚ますと、そこは寂れた小屋のベッドの上だった。
「…………知らない天井だ」
いやほんとに知らない。
しかも動けない。
何だこれ?
体にまとわりつくような感触もないのに、全然体が動かせない。
まさか、これが俗にいう金縛りってやつか!?
『マジでやらかした…テメーのせいだからなこのやろー!!』
うわっ!
煩いな、何だよ!
『何だも何もねーよ!俺たちゃ睡眠魔法かけられてここへ連れてこられたんだよ!』
え…睡眠魔法?
『睡眠魔法は初級も初級の魔法だが、発動時に上乗せする魔力によっては昏睡レベルまで強化ができる。
俺様たちはそのレベルをかけられて、無様に捕まってるって訳だ』
マジかよ…謀ったなイザベル!
信じてたのに!
『いや、あれはテメーがアホすぎたからだろ!?
どう見たって怪しい誘いだったぞ!!
さっさとトンズラこけばよかったんだよ!』
シックだって俺と会話してて警戒のけの字も見せなかったじゃんか!
原因は俺だけじゃない!
お前も悪い!
『魂だけの俺様が何に注意しろってんだよ!
主導権握ってんのはテメーなんだからテメーの落ち度100%だろーが!』
水掛け論というか、結局悪いのは自分だとわかってるけど、何となく反抗してしまうのはシックが犯罪者だからだろうか?
頭の中でギャーギャー喚いていると、奥の扉がゆっくりと開いた。
「あら、起きたのね。結構強力にかけたから当分起きないかと思ったわ」
そこに現れたのは当然ながらイザベル。
にやけ顔を隠そうともせずに俺を見下ろしている。
「イザベル!何でこんなことを!?」
「あたしだってまさかあんな手に引っ掛かるなんて思わなかったわよ。
ギャルゲーってやつのやりすぎなんじゃないの?」
ばばばば、ばかな!
俺はそんなにギャルゲーはやってないぞ!?
ただちょっと、教室の隅で話し合ってる人たちが言ってたゲームが面白そうだなーと思ったから手を出してみただけで別にそんな…って、え?
『何でこいつ…この世界にないはずのギャルゲーを知ってやがるんだ?』
俺もシックも呆けてイザベルを見ていると、イザベルはにやけ顔を更ににやけさせながらこう言った。
「真面目が服着て政治してると言われるこの国の王様が【降霊術】なんて禁術に手を出すとは思ってなかったけど…。
大犯罪者が【降霊術】による魂の上書きを耐えきるなんてのも思わなかったわ。
ねえ?大盗賊シック・ヴィローザさん?」
『なっ…!?』
まさか…俺たちの秘密が知られた!?
「魂のプロテクトのやり方を覚えてシックの言葉を聞かないっていうマサヨシの考えは概ね当たり。
そうじゃなきゃこうして簡単に秘密を盗まれちゃうんだから」
『バカな!!
ここ数日で俺様はこいつにもプロテクトが適用されるように魔法を改良しといたんだぞ!?
それを解析しただと!?』
さりげなくとんでもないことしてませんかねシックさん。
「どうやってって感じかしら?
そうね、確かに辺境の村生まれにしてはよくできた【精神保護】だったけど…。
魔法使いの聖地で最上位の成績を残してきたあたしの腕には叶わなかったわけよ」
『魔法使いの…聖地だと…!?』
O☆I☆TE☆KE☆BO☆RI☆!
現地人同士で専門用語話し合われたらそりゃついていけませんわ。
とはいっても、イザベルはシックの言うことを先読みしてるだけで会話ではないようだけど。
ここで黙ってるとほんとに理解できないまま終わりそうだし、聞いてみるか。
「えっと、魔法使いの聖地って?」
「そのまんま、天才的魔法使いが多くいる場所よ。あたしはその天才の中でもさらに大天才ってこと」
うーん、つまり天才ってことか。
…本当に何でこんなところの学校に?
「あたしがここに来たのはそこの犯罪者の予想通り、賞金稼ぎだからよ。
この国は安全で豊かなことで有名だけど、その分犯罪を犯すクズ共が大勢いるからね。
金稼ぎにはちょうどいいってわけ」
『ほらやっぱテメー俺様の言う通りだったじゃねーか!!
俺様の指示通りにしてりゃ気付かれることもなかったのによぉー!!』
確かにこればっかりは俺の落ち度だ…。
バレてしまった以上、言い触らされたらシックを匿った罪かなんかで裁かれるだろうし、俺の人生はここで終わりか…。
「くっ、殺せ!」
「うっわ、それ確かに男が言ってもキモいだけね。鳥肌たったわ」
もうこれの元ネタの記憶みたのか。
どうしてかわからないけど、一度は言ってみたい台詞だったり。
『誰がキモいだってこのアバズレがぁ!!』
「ほーっほっほ!考えていることが手に取るように分かるわよシック・ヴィローザ!ランク5が聞いて呆れるわね!」
高飛車な笑い声と得意気な顔を浮かべるイザベル。
シックはといえば、怒り心頭である。
『キィー!!殺せ!早くその女殺しちまえ!!』
身動きできないんだから無茶言うなよ…。
「さぁて、何をしてやろうかしらね?
身ぐるみ剥いで外にほっぽり出す?
それとも普通に国へ大犯罪者として売り渡してやろうかしら?」
や、ヤバい…!
そんなことをされたら社会的地位はもちろん地に落ちるし、そうでなくともシックとして捕まったらあっという間に処刑される…!
ど、どうしたら…!?
「冗談。そう気構えなくていいわよ。どうせこれ以上なにかすることはないし」
呆れ顔を見せるイザベル。そして棚の方に向かって、お茶か何かを汲み始めた。
「ど、どういうことだ?」
「どうもこうも。
あたしがあんたを国につきだしたところで、その国がグルになって行ってる勇者育成計画だもの。
逆に国家機密を知ったあたしの方が粛清されるかもしれないじゃない。
割に合わないわ」
お茶のいい香りが部屋の中を充満した。
これってこの前飲んだカラ茶か。
でも微妙に香りが違うってことは、この前とは色が違うのかな?
イザベルは足を組んでふんぞり返りながら優雅にカラ茶を飲み、話を続けた。
「それにあんたの記憶を覗いたときに見えた、ゲームっていうのにでてくる魔法にも興味あるのよね…。
このまま引き渡したら、再現したくなった時に困るじゃない?」
「それを再現するなんてとんでもない!
この小説はフィクションであり、実在するゲームソフトやアニメや漫画や人物や地名や宗教や花の学名には一切関係がないんだぞ!」
「五話にもなって今さらそんな説明するわけ?」
『つーかテメーの名前が一番それ言わなきゃ駄目だろ』
イザベルはお茶を飲み終わると、近くに置いてあった袋を開けて、その中のクッキーをひとかじりした。
…ところで俺はいつまで動けないままなんだろうか。
「後、あたしはあんたを騙すつもりでここへ連れてきた訳じゃないからね?
先に言った通り、あんたの手助けをしてあげようと思ったのよ」
「手助けって…具体的になんだよ」
イザベルは残りのクッキーを一気に食べきり、ニヤリと笑って俺を見た。
「要は度胸がほしいんでしょ?
あたしの仕事に付き合わせてあげる。
シックほどじゃないけど凶悪な奴も多いから、否が応でも図太くなるわ」
賞金稼ぎの仕事って…何か嫌な予感がするんだけど…。
「あの、それ辞退しても…」
「あんたを売り渡す相手はなにも国じゃなくたっていいのよ?
裏の人間はシックが捕まったこと知らないみたいだしね~?」
要はこの情報を裏社会の人間にリークするぞと脅しているようだ。
それが出回ればこの国が傾く危険性だってあるわけで…どのみち俺はイザベルの言うことを聞くしかないのだ。
『…ま、この程度で済んでんだから勉強料だと思うしかねーな』
人をむやみに信用するな。
勉強になりました、はい。




