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【3】雨の夜に思い出す


山積みになった書類を片付ける為、昼から書斎に篭っていた。


窓を叩く細かな音に、ペンを走らせていた手を止めた。


「……雨、か」


雨はある記憶を思い出させる。あの時もこんな雨の夜だった、と。


「…昼間はあんなに晴れていたのにな」


薄紫の瞳を執務机から見える窓の向こうへ向ければ、空は冬の厚い曇天が広がっていた。


冬のこの時期の雨だ。


このまま朝まで降り続けるようなら、雨から雪に変わっているかもしれないな、と何となくそんなことを考えていると、近づく人の気配に意識が切り替わる。


「あれま?ついに降ってきたか。こりゃ、雪になるかな~」


追加の書類を携えた赤毛の青年が執務机側に歩み寄る。


「ノックぐらいしろ。アレン」


「へいへい。ほらよ、頼まれてたヤツ」


「…随分時間がかかったな」


赤毛の青年、アレン・イノクスが持ってきた書類は、以前に彼に頼んだある件の報告書だった。


「お前ねぇ、この忙しい時にわざわざ時間割いてやったんだぞ?もっと感謝しろよー」


「忙しいと言いながらミュレット嬢の所には毎日通っているようだがな」


「うげっ!?何でお前がミュウの事を知ってるんだよ!?」


「お前は普段口が軽すぎるんだ。…酒を飲んで酔っ払う度に自分から喋ってるんだよ。同じ話を何度もな」


「うそっ…」


「ソティあたりにでも聞いてみろ。で、さっさとソレをよこせ」


アレンから書類を奪い取りざっと目を通す。


内容は大方予想していた通りのものだった。情報収集の分野でアレンの能力が優秀なことは自分がよく知っている。


アレンに限って誤った情報を掴んで、あまつさえそれを自分への報告にあげてくることは先ずない。


予想していた内容ではあったがあげられた報告書には目を通す事が自分の仕事なので、ひと通り最期のページまで読み終え机の上に置く。


「手間を取らせてすまなかった。この件の調査はこれで終了してくれ。あとはカール達に引継がせる」


「……なぁ、一つ聞いてもいいか?」


「なんだ」


「それ、どうする気だ?」


「………」


アレンから上げられた報告書は二つ。


一つには先ほど目を通したが、まだ確認していない報告書がもう一つ。アレンが『それ』と示すのはそちらの報告書であることだと判る。


「別にお前を非難しようとか、そんなんじゃないぞ?そんなもんはウォルトのじじい達にでもやらせておくさ。ただ、シプーベルとの停戦交渉から戻ってすぐにそんな調査を依頼してくるってことは、やっぱりあの時のことと関係があるんだろ?」


アレンの言葉に顔を上げる。


「そこまで分かっていて、なんでこの調査を引き受けた?」


「いや、俺だった確信していたわけじゃないぞ。だた、やっぱりそういう事なのかと、そんな位にしか思ってなかったさ…」


アレンには珍しく歯切れが悪い物言いだった。


「直接会いに行っても、良いんじゃないか?」


「………」


「あの時、瀕死のお前を一晩匿ってあまつさえケガの治療までしてくれた娘さんに礼の一つや二つしに行ったっても罰は当たらないと思うぞ。いや、礼の一つもしなくちゃ逆に罰が当たるぞ!」


「罰、か…」


窓に目を向けると雨足は先ほどよりも強くなっているようだった。


アレンはまだ何事かを言い続けていたが、レイフォン・ノア・アキレアの脳裏にはあの夜の雨音と少女の声が蘇っていた。





◇◇◇


夢を見ていた。


ただ時折、肌に感じる冷たさが自分の意識を夢から引き上げてくれた事を覚えている。


はっきりと意識が夢から覚めた頃、はじめ自分が置かれた状況に戸惑った。


見知らぬ部屋、いや家だ。


こじんまりとしたその家は、平均的な王都の平民が住む家よりも随分と小さく古びたもので、室内は

常日頃から清掃されて清潔を保っているだろう事は、自分が寝かされていた寝台の脇にある小窓の縁に置かれた一輪だけ活けられた花瓶から想像が出来た。


意識を失ってから一体どの位の時間が経ったのか。


小窓には布切れが掛けられていたが、外の様子を伺うには十分な薄さだった。


(まだ夜は明けていない、よな…)


幾日も気を失っていた訳ではない事は身体の感覚で確信が出来る。


幼少期に毒への耐性をつける為に訓練された身体だ。


何の毒かは分からないが、奴らが使用した毒は耐性を持つ種類のものだったのだろう。眠って、身体を休めたことで幾分代謝されたようだった。


つらつらと気を失ってからの事を考えていると、自身の腕に触れる冷たさに気が付いた。


負傷した腕の傷はまだ熱を持っていて、ズキズキとした痛みを全身に伝達していたが、それとは対照的な冷たさが手の甲に触れている。


視線をやれば、そこには自分のものではない白い手が見えた。いまだ熱でぼやけていた意識が、すぐ傍らに居た人の気配に完全に覚醒する。


「ん……」


そこにいたのは灰色の長い髪をした一人の少女。


自身は椅子に腰かけ寝台に突っ伏して眠っている。











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