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追放軍師の無双逆襲  作者: 友理 潤
第三章 作られた激闘
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⑨ 『奇襲』

◇◇


 第二次ヘイスターの戦いは、『作られた激闘』であった。

 つまり援軍到着後は互いの軍勢が攻めかかってこないことになっている。

 

 だが、それを知るのは『未来を創る者』とぬかしている泥まみれの亡者たちだけだ。

 つまり前線で雨をしのぐ兵たちは、号令があればいつでも戦う準備はできているのである。

 

 俺はそれを利用することにしたのだった――

 

 

「やいっ! なんで俺がこんな格好しなくちゃなんねえんだよ!」



 ヘンリーが口を尖らせたのも無理はない。

 ヘイスターの総大将としてきらびやかな鎧に身を包んでいた彼が、今は敵とも味方とも区別がつかぬ貧乏な兵と同じ格好をさせられているのだから。

 


「ははは! ヘンリー殿は残念ながら帝国軍に顔を知られていないからな。味方をあざむくにはうってつけという訳だ」



 彼の他にもヘイスターの兵たちには、ヘンリーと同じ兵装をさせている。

 そして、それだけではない。

 彼らにはある物を用意し、袋に入れて持たせていたのだ。

 

 

「こんなんで本当に味方が勝てるんだろうな?」


「ああ、本当だ。ただし、絶対に『味方』につかまってはならんぞ」


「はあ? 敵じゃなくて、味方につかまっちゃならないってどういう意味だよ?」


「それは行ってからのお楽しみだ」



 俺はニヤニヤしながらそう告げると、ヘンリーを含む5人のヘイスターの兵を率いて、味方の陣へと向かっていったのだった。

 

 

………

……


「これは、ジェイ大佐! 見回り御苦労さまです!」



 さすがに小隊の指揮官クラスになると、俺の顔を知っている者たちばかりだ。

 そしてルーン将軍らによって、この戦いに勝利した後は、俺が『副将軍』に昇格することも彼らには伝わっているのだろう。

 俺の姿を目にするなり、彼らは媚を売るように敬礼をしてきたのだった。

 

 

「ふんっ……。気分が悪い」


「いいじゃねえか。誰にも気付かれない俺よりも百倍はましだっつうの!」



 変なところで張り合ってくるヘンリーの言葉に、苦笑いを浮かべながら先を急いだ。

 そして、ついに目的の場所に到着した。

 それは帝国軍の食料を集めた仮設の倉庫。

 誰もいないところを確認したところで、ヘンリーたちに小声で指示をした。

 


「俺が合図したら、一斉に砦に向かって走ってくれ」


「砦に向かって? 何のために?」


「敵に攻撃を仕掛けるためだ」


「敵に攻撃を? どういうことだ?」


「そのままの意味だよ。袋には王国軍の兵たちがかぶっている兜が入っている。砦の近くに着いたら、それをかぶって、そのまま王国軍に向かって突撃してほしい」


「ちょっと待ってくれよ! 俺たち5人だけでか!? そんな無茶な!」


「大丈夫だ。俺を信じろ。敵軍に突っ込んだところで、兜を脱いで構わない。思う存分、暴れ回ってこい」



 ヘンリーの両肩をつかんで、じっと彼の瞳を見つめる。

 彼はごくりと唾を飲み込むと、コクリと大きくうなずいた。


「そうだ。それでこそ俺の一番弟子だ」


「一番弟子……。俺がか!?」


「ああ、だから頼んだぜ。敵の大将の首を取ってこい」


「おおっ! やってやるぜ!!」



 ヘンリーの瞳がギラギラと輝く。

 とてもいい目だ。

 彼になら大切なものを託せる。

 そんな気がした俺は、最後に低い声で伝えたのだった。



「この戦いが終わったらヘンリー殿が、リアーヌを守るんだ」


「へっ? それはどういう意味だ?」


「そのままの意味さ。ヘンリー殿ならリアーヌを守れる。いいな」


「おう……。なんかよく分からないけど、任せとけ! 姉さんは俺が守る!」


 

 にやっと口角を上げると、松明を高々と掲げて左右に振った。

 それは木陰に隠れたロッコと弓隊への合図だ。

 事前の打ち合わせ通り、四方八方から火のついた矢が飛んできたのである。

 

――ゴオッ!!


 食料庫に火がつくが、雨のせいもあってか、それほど火は燃え広がらない。

 しかしそれも想定内であった。

 俺はヘンリーの背中をどんと叩いた。

 

 

「走れ!」



 有無を言わさぬ俺の気迫に、ヘンリーとヘイスターの兵たちが駆け出す。

 彼らの顔を知らない帝国軍の兵たちは、何ごとかと彼らの様子をうかがっていた。

 そして彼らがじゅうぶんに距離を取ったところで、大声を張り上げたのだった。

 

 

「奇襲だ!! 食料庫を燃やされた!!」


「なにっ!?」


「どうにか火は食い止めた! しかし敵はまだ近くにいる! 追うのだ!!」



 そう言いながら俺は一気に駆け出した。

 そして指揮官たちを見かけるたびに、こう告げたのだった。

 

 

「敵襲だ!! これより反撃にでる!! みなで攻めかかれ!!」



 雨の音と漆黒の闇で敵の人数は分からない。

 見えるのは逃げていく数人の影。

 

 どれほどの危険が迫っているか分からないからこそ、防衛本能が彼らを攻撃へと駆り立てた。

 俺と一緒に駆け出す人数が増えていくに連れ、それは大きなうねりとなって動き始めたのである。

 

 

「ちょっと待て!! やいっ! 師匠!! 話が違うだろぉぉぉぉ!!」



 ヘンリーが文句を垂れる声が聞こえてくる。

 しかし俺は容赦なく彼の背中を追いたてた。

 それでも砦の近くまできたところで、彼をはじめヘイスターの兵たちは、言われたとおりに王国軍の兜を装着する。

 

 

「いたぞ!! あそこに王国軍の兵がいる!! 攻めろ!! 敵襲は失敗した!! 今こそ反撃の好機ぞ!!」


――おおっ!!



 途中からヘンリーの横にステファンが並び、彼も兜をかぶって王国軍の方へ突撃していく。

 その頃にはヘンリーにもようやく俺の意図が分かったようだ。飛び跳ねるように王国軍の中へと突っ込んでいった。

 

 

 味方に奇襲をかけ、敵に『反撃』という名の総攻撃をかける――

 

 

 それが俺の取った作戦。

 

 完全に勢いづいた帝国軍は、無防備な王国軍の真正面を突いた。

 

 

――ズガガガガガッ!!



 帝国軍の兵たちが敵陣を蹂躙する音が各所に響き渡った。


――敵は攻めかかってこない。


 そうたかをくくっていた王国軍は完全に虚をつかれた格好だ。

 俺は天に向かって咆哮を上げた。

 

 

「攻めろぉぉぉぉぉ!!」


――ぐおおおおおお!!



 兵たちの雄叫びが雨を切り裂く。

 敵兵は断末魔の声さえあげることを許されず、物を言わぬ亡骸へとその姿を変えていった。

 

 まさに電光石火の奇襲――

 

 またたく間に国境線まで敵を追い込むと、そのまま本陣へ突撃を開始。

 そして最前線からヘンリーの声が響いてきたのだった。

 

 

「敵軍、総大将!! 討ちとったりぃぃぃ!!」


――おおおおおっ!!



 ようやく鎧をまとったパオリーノ殿下とルーン将軍が白馬にまたがって、こちらに向かっているのが見えてきた。

 

 恐らく彼らにつかまれば、ただじゃ済まないはずだ。

 

 俺は急いで上空に向かって火矢を撃ちあげた。

 それは仲間うちでの『集合』の合図だ。

 

 そして集合する場所は、事前の打ち合わせの通り。

 

 

 ここから遠く離れたサザランドの町であった――

 




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