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追放軍師の無双逆襲  作者: 友理 潤
第三章 作られた激闘
18/36

④ 『約束された援軍と想定外の援軍』

◇◇


 第二次ヘイスターの戦い。

 攻め手のリーム王国軍は5000。

 一方のヘイスターの守備兵は1000。

 

 ヘイスターは『籠城』を選択した。

 

 町をぐるりと囲った堀には豊かな水がたたえられている。さらに堀の向こうの壁は高い。

 王国軍は町を完全に包囲したものの、攻めあぐねていた。


 さらに王国軍を苦しませたのは、ヘイスターの兵を率いている指揮官たちの存在だ。

 言うまでもなく、『彗星の無双軍師』と『明星の五勇士』である――


………

……

 

「……放て!」


――ヒュン! ヒュン! ヒュン!


 弓兵の部隊を率いているのは、帝国一と称された弓の名手、ロッコだ。

 彼によって徹底的に鍛え上げた弓兵たちは、やぐらの上から狙いを外さずに敵兵を撃ち抜いていった。

 

 

「ひけえい! 一度距離を取るのだ!!」



 たまらずに王国軍は少し距離を取る。

 するとそれを待っていたかのように吊り橋が下り、中から帝国兵が飛びだしてきた。

 

 

「攻めよ! 攻めよ! 攻めよおおお!!」


――うおおおおおっ!


 一騎当千の無双であるステファン、そして隣にはなんと総大将のヘンリー・ブルジェ。

 二人と共にヘイスター軍の中でも屈強な兵たちが一斉に逃げる王国兵の背中に向かって突撃を開始した。

 

 

「貴族ごときにやられるか!!」

「あいつの首を取れ!!」

「おおおおっ!!」



 ヘンリーの姿を見るや、王国兵たちが反転し、飛びかかってくる。

 するとステファンとヘンリーの合間を縫って前に出てきたのは盾役のアルバンだった。

 

「かかってこいやああ!!」


――ガツンッ!


 三人の王国兵がアルバンの手にした大きな盾に槍を突き立てる。

 だがアルバンはびくりとも動かなかった。


「な、なんだと!?」

「この巨大な岩石のような男はだれだ!?」

「いいから攻めろ!」


 群がる王国兵。しかしアルバンは彼らの攻撃を完全にシャットアウトした。

 そして頃合いを見て、盾をずんと前に押し出したのである。


「むぅん!!」


「ぐわああ!!」


 

 王国兵たちは一斉に態勢をくずす。

 その隙をヘンリーとステファンが見逃すはずもなかった。

 

「うらああああ!!」

「うおおおおお!!」


 二人は王国兵の集団の中へ飛び込むと、互いに背中を預けながら、ばったばったと敵を斬り伏せていった。

 

「強い! 強過ぎる!!」

「いったん、距離を取るのだ!!」

「弓で射ぬけ!!」


 王国軍の指揮官の声がこだましたところで、ステファンとヘンリーは顔を見合わせてうなずいた。

 そして王国軍がじゅうぶんに距離を取ったのを見計らって、吊り橋の向こうへと戻っていったのだった。

 

 こうして距離を縮められれば反撃に出て、離れれば散会するという作戦で、まったく敵をよせつけない。

 すなわち『専守防衛』。

 敵の殲滅を『勝ち』とするならば、『勝つ気はない』としたジェイ・ターナーが取った作戦は、『負ける気もない』ものだったのである。

 

………

……


 戦況が一望できる砦の3階に立った俺、ジェイ・ターナーは、戻ってきたヘンリーを笑顔で出迎えた。

 

 

「ヘンリー殿。前回と違って、見違えるような活躍ではないか!」


「へんっ! 前のことを思い出させるとは、ずいぶんと意地悪だな!」


「はははっ! 過去のことを気にするような男は、女にもてませんぞ!」


「へんっ! いつまでもクロ―ディア殿下のことを想い続ける師匠に言われたくないやい!」


「なっ……! なぜそんなことを……!?」


「しまった! 姉さんに『内緒』って言われてたんだった!」



 そんな緊張感のない会話を交わしていると、部屋に入ってきたステファンが横から口を挟んできた。

 

 

「ところでいつまでこれを続けるんだ? らちが明かねえぞ」


「そうだ、そうだ! 確かに負けねえかもしれねえが、それは敵も同じじゃねえか!」



 どうやらいつの間にかヘンリーとステファンは意気投合していたらしい。

 調子に乗りやすい性格はそっくりだから、馬が合うんだろうな。

 

 二人して同じ表情で俺に詰め寄ってきた。

 そこで俺は逆に彼らに問いかけることにした。

 

 

「ここに攻めてきた王国軍は5000だったな。ならば残りの兵はどこへ行ったと思う?」


「そんなの知るか!」


「そうだ、そうだ!」



 二人とも考えるのが苦手なのも共通のようだ。

 すると彼らの背後から、ゆったりとしたマリーナの声が聞こえてきた。

 

 

「ふふ、この町よりも『価値』のある町を攻めるために兵を集めているでしょうね」


「ヘイスターより価値のある町……」



 ステファンがつぶやいたところで、俺はその条件を並べた。

 


「ああ、交通の要衝、産業が盛ん、高価な特産品がある……。それらのいずれかを満たす町さ」


「サザランド! 姉さんからサザランドの町は昔から交通の要衝だって聞いたことあるぜ!!」


「正解だ!」



 ヘンリーの答えた通り、サザランドの町は俺がリーム王国の参謀ならば、喉から手が出るほどに欲しい町だ。

 

「ヘイスターの町が開戦からほどなくして陥落すれば、王国軍と帝国軍はサザランドと、その先にあるダリムの町を巡って大軍同士でぶつかるに違いない」


「でも、いつまでたってもヘイスターの町が陥落しなければ、サザランドを攻める軍は待ちぼうけを食う」



 マリーナが俺の調子に合わせる。

 俺たちは顔を見合わせて微笑むと、二人で先を続けた。

 

 

「食うのは待ちぼけだけじゃねえぜ」


「ふふ、食料も食べなきゃ生きていけないわね」


「つまりヘイスターの戦いが長引けば長引く程、サザランドを攻めようとしている王国軍の食料がなくなっていくってことさ」


「そして食料が底をつきれば……」


「音を上げる!!」


「その通りだ、ヘンリー殿! 正解だ!」



 そう、俺たちが戦っているのは、目の前の王国軍だけではない。

 国境線を進んだ先にいる別の王国軍との戦いでもあるのだ。

 

 

「俺たちが勝たねばならない相手は、サザランドを狙っている敵軍ってことだ」



 ヘンリーとステファンは合点がいったようだ。

 二人とも気合いを入れ直して門の方へと戻っていった。

 

 俺はちらりとマリーナを見た。

 すると彼女は小首を傾げた。

 

 

「肝心なところは言わなかったのね」


「やはり気付かれていたか」


「ええ、もちろん」



 彼女の言う通りだ。

 俺は肝心なことを言わなかった。

 それは王国軍には『待機している兵』が少なからずいるということだ。

 サザランドで待機している王国軍から兵糧が危ういと報せが入れば、ヘイスター攻略に向けられる兵は増やされるはず。

 

 

「1万は覚悟しておいた方がいいんじゃない?」


「さすがだな、マリーナ。お前さんもこれから忙しくなるぜ」


「ふふ、他の人と違って、私は忙しいのは好みじゃないわ」


「ああ、できれば軍医であるお前さんが活躍できる場なんて作りたくねえんだがな」



 もし彼女の読み通りに1万の王国兵が追加されれば、合わせて15000もの敵兵を相手しなくてはならなくなる。


「ふふ、でもどうにかしちゃうんでしょ? ジェイさんなら」



 軽い調子でマリーナは言うと、そのまま部屋を後にしていった。

 俺は戦場を見つめながら、小さな声でつぶやいたのだった。

 

 

「当たり前だ。絶対にどうにかしてみせる」



………

……


 戦況は硬直状態のまま三日が経過した。

 そしてついにその時はやってきたのだった。

 

 

「ジェイさまぁ! 敵に援軍の動きありっ! その数1万!! このままだと明日には合流してきそうだよ!」



 コハルの報告に心臓がドクンと脈打つ。

 

 

「ついにきやがったか……。思ったよりもずいぶんと早いお出ましだな」



 俺の読みではあと十日くらいは先のはずだった。

 敵が焦る理由が何かあるのだろうか……。

 

 そんなことに考えを巡らせているうちに、驚くべきことが報せが飛び込んできたのだった。

 

――ドタドタドタッ!


 それは聞き慣れた騒々しい足音。

 

 

「リアーヌ!? まさか、なんでここに!?」



 彼女は安全な町の中に待機しているはずだ。

 なぜ砦までやって来たのか。

 

――バンッ!


 ドアが勢いよく開けられると、頬を桃色に染めたリアーヌが、興奮をそのまま声に乗せて告げてきたのだった。

 

 

「援軍!! 帝国から援軍がきたの!!」


「なんだと!?」



 それはまったくの想定外の事態だった。

 だが、この援軍こそが俺にとてつもなく重い選択をつきつけてくることになろうとは――

 

 

 

 



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