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追放軍師の無双逆襲  作者: 友理 潤
第三章 作られた激闘
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③ 『少なすぎる救援』

◇◇



 それぞれの国には、動員できる兵士の数がおおよそ決まっている。

 ヴァイス帝国であれば正規兵だけで20万。

 一方のリーム王国もまた正規兵は20万程度とみられている。

 

 それらの兵を都市の防衛に割り当てていけば、敵国に攻め入るために使える兵は、およそ半分が関の山。

 しかも兵糧に困らない収穫後すぐのタイミングで、という前提が必要だ。

 

 今は種まきを終えたばかりの春の終わり。

 厳しい冬を乗り越え、市場に出回っている食料の数は多くはない。

 

 

「となれば両国ともに敵国侵攻へ動員可能な兵数はおよそ5万程度とみた」



 俺、ジェイ・ターナーがそう告げると、『作戦室』に集まった面々は一様にうなずいていた。

 するとステファンが身を乗り出して問いかけてきた。

 

 

「それで、そのうちどれくらいがヘイスターを攻めてくると思ってるんだ?」


「多くて5000だろうな。逆にそれ以上、この町に兵を割くだけの価値はない」


「へんっ! なんだよ、それ!? それじゃあ、まるでヘイスターがしょぼいみたいじゃないか!」



 口を尖らせたヘンリーに対し、マリーナが子どもをなだめるような口調で言った。

 

 

「ふふ、残念だけど、ジェイさんの言う通りだわ。この町には産業もなければ、特産品もない。あえて言えば、広大な平原を利用した畑があるくらいなもの。数万の兵を使ってまでして攻め込むような場所ではないわ」


「むぐぐ……。でも、兵を余らせたって仕方ないじゃないか!」


「がはは! ヘンリー殿! 余らせるという言い方は正しくないぞ!」



 アルバンが大笑いしながら告げると、その言葉をつなぐようにロッコが続けた。

 

 

「……他の町の侵攻へ回す。または待機させる。……そんなところかと」



 するとタイミングよく、部屋にコハルが戻ってきた。

 彼女には敵の偵察と情報収集を頼んでいたのだ。

 

 

「やっほー! 敵さんのこと、調べてきたよぉ!」


「よくやった! では、早速報告を頼む」



 褒めながら彼女の頭をなでてあげると、彼女は嬉しそうに目をつむりながら、敵軍の様子を報告してきたのだった。

 

 

 リーム王国の軍勢は予想通り、5000。

 やはり前回の手痛い敗戦が効いたのだろう。平原の小さな町を攻めるにしては、考えられないくらいの大軍だ。

 

 前回と違って、弓や投石などの遠距離攻撃をする部隊もあれば、門を破るための攻城兵器までご丁寧に揃えているらしい。

 

 

「敵さんもかなり本気じゃねえか」



 俺がニヤリと口角を上げると、仲間たちもまた笑みを浮かべる。

 その様子を見て、ヘンリーが顔をしかめて問いかけてきた。

 

 

「なんだよ、ニヤニヤして気味悪いな。よほど今回は勝算があるってことだよな!?」


「そんなもん、あるわけなかろう」



 俺がさらりと答えると、ヘンリーはあきれたように目を丸くした。

 

 

「じゃあなんで、そんなに楽しそうにしてられるんだ!? あと3日しかないんだぞ!? どうするんだ!?」



 俺は一度全員を見回した。

 みなもその意図が分かったのだろう。表情を引き締めて俺を見つめている。

 俺もまたぐっと腹に力を入れると、ヘンリーの問いに答えた。

 

 

「勝算などない。なぜなら『勝つ気』がないからさ」


「はああああ!? 師匠は頭がおかしくなっちまったのか!?」



 驚愕のあまりに卒倒しそうなヘンリーをよそに、俺は高らかと告げたのだった。

 

 

「これより乾坤一擲の大勝負に出る! 一同! よろしく頼む!!」



 と――

 

◇◇


 一方その頃、同じ国境線沿いサザランドに、帝国軍が到着した。

 

 サザランドはヴァイス帝国にとっては大事な町だ。

 敵国に攻め込まれれば、味方が大軍で守りにやってくる。

 町の防備はさほど強固なものではなく、野戦で決着をつけるのが常であった。

 

 しかし町の領主ユージムは、救援の帝国軍を見て、思わずこう漏らしてしまった。

 

 

「少ない……! 兵が少なすぎる!!」



 その兵数は3000。

 国境線の向こう側のリーム王国領ダラムの町には、3万の王国兵たちが集結しているというではないか。

 

 

「ヴィクトール殿下! どうして、このような少数で町を守れましょうか!?」



 これでは到底、『野戦』は選択できない。

 となれば『籠城』ということになるが、それでは防備が心もとないのだ。

 ユージムが焦るのも仕方ないと言えるだろう。

 

 苦笑いを浮かべて何も答えようとしないヴィクトールに代わって、参謀のアンナ・トイがユージムに言った。

 

 

「皇帝陛下のご意向により、帝国軍はヘイスター防衛を優先することになったのだ」


「ヘイスターですと……。なぜあのような何の価値もない町を?」


「ユージム卿。貴殿は陛下のご意向に疑念を持たれるおつもりか?」


「いえ……そのようなつもりはございません……」


「ヘイスターにはパオリーノ殿下とルーン将軍が大軍を率いて救援に向かわれている。王国軍を蹴散らした後に、こちらへやって来るだろう。それまでは耐えるのだ」



 それは気休めだ。

 それでも軍の参謀長であるアンナ・トイに言われれば、そう信じざるを得ない。

 しぶしぶ納得したユージムに対し、アンナは無表情のまま言ったのだった。

 

 

「諦めるな。『希望』は必ず『現実』に変わる」



 と――

 

………

……



 三日後、ヘイスター付近――

 

 

――目標はヘイスター!! 全軍進めぇぇぇ!!


――おおおおおっ!!



 王国軍5000は、一斉にヘイスターの町の手前にある砦に向かって進軍を開始した。

 後世に言う『第二次ヘイスターの戦い』は、こうして戦いの火ぶたが切って落とされたのだった――

 




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