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追放軍師の無双逆襲  作者: 友理 潤
第三章 作られた激闘
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① 『2回目の宣戦布告』

◇◇


 時は流れ、季節は冬から春へと移っていった。

 ヘイスターの町に残っていた雪もすっかりけ、緑が映えるようになってきた。

 

 この間、町はめまぐるしい変化を遂げていった。

 帝国からもたされた報酬金によって水道が引かれるなど、領民たちの生活は豊かになったのだ。

 さらに『彗星の無双軍師』がヘイスターを守っていることは国中に伝わったため、町を往来する商人の数が爆発的に増加。生活用品や建材、さらには武器にいたるまで、様々な物資が流通するようになったのである。

 

 町が豊かになれば自然と領民が増えていく。

 そして領民が増えれば、町の税収も増加し、『軍備』に使える金もできる。

 

 残った報酬金と増えた税収を元手として、国境線と町の間に『砦』を設置した。

 つまりリーム王国が町を侵攻してきた際、この砦を制圧しなくては町を攻撃できないようにしたのである。

 

 時間が短かったため、最低限の防備しか作れなかったが、それでも深い堀に吊り橋、さらに高い土壁に木製の門、二つのやぐらを突貫工事で完成させた。


 そして、帝都の浪人たちを大工として雇用し、彼らをそのまま兵として町に残した。

 いわば私兵団を編成したのだ。

 

 これで報酬金は使いはたしてしまったが、まもなく次の戦争が起こることを俺は知っている。

 そこで勝利すれば、また報酬金を得られるはずだ。

 まるで戦争を『商売道具』として利用しているようで胸が痛むが、綺麗事など言っていられない。

 

 リアーヌと領民たちの『希望』が『現実』に変わるその日まで、俺は利用できるものは何でも利用してやるつもりでいたのだ。

 

 たとえそれが皇族と貴族による醜い権力争いであろうとも……。

 

………

……


 

――ドタドタドタッ!


 騒々しい足音が領主の館の中に響き渡る。

 仲間たちと共に『作戦室』にいた俺は、その足音を耳にした瞬間に、来るべき時が来たことを確信した。

 

――バンッ!


 突然開けられた扉。

 そして転がるように部屋の中に入ってきたリアーヌにも冷静な目を向ける。

 だが何も知らない彼女にしてみてみれば、一大事だろう。

 机に置いてあったコップの水をぐいっとあおると、一息に告げてきた。

 

 

「ジェイ!! 大変よ! 『宣戦布告』の書状が王国から届いたの!!」


「そうか」


「そうか……って、驚かないの!? また戦争になるのよ!」


「ああ、ゆくゆくはこうなるとは思って準備を進めてきたからな。驚いちゃいないさ」


「まあ……」



 俺の態度は、焼け石のように熱くなっていた彼女にとって冷水となったようだ。

 桃色だった頬が、いつもの肌色に変わっていく。

 俺はにやりと口角を上げると、穏やかな口調で言った。

 

 

「領主たるもの、そう簡単にパニックになっちゃいけねえ。でーんと構えてればいいんだよ。でーんとな」


「うん、分かった。でも、どうするの? また町をわざと占領させるの?」


「ははは! あんな奇策は一度でも成功したら奇跡に近いさ。まさかあんなに上手くいくとは思ってなかったからな! 次は通用しねえよ」



 リアーヌは眉をひそめると、口を尖らせた。

 


「まあ! あきれた! 失敗したらどうするつもりだったのよ!」


「そいつを今語ってる暇はねえんだろ? さっそくだが、一つ頼まれてもいいかい?」



 どこか納得いかない表情のリアーヌだが、コクリとうなずく。

 俺はさらさらと一通の書状を書き上げると、それを彼女に手渡した。

 

 

「これを帝国軍に。援軍の要請だ」


「……でも、また無駄になってしまうんじゃない? ここは『エサの町』なのは今も変わっていないのだから……」



 リアーヌが心配そうにうつむく。

 俺は大声で笑い飛ばした。

 

 

「あははは! いいんだよ、それで! ハナから奴らの救援なんか期待しちゃいねえさ」


「へっ? じゃあ、なんで?」



 それはパオリーノ殿下との『約束』を果たすためだ。

 

 

――王国が宣戦布告をしてきたら、速やかに『ジェイ・ターナー』の名義で救援を要請する書状を送ってきてくれ。あとは目の前の戦いに勝利するだけでいい。そうすれば君もリアーヌ・ブルジェも『自由』になれる。これは約束だ。



 このことはリアーヌには伝えていない。

 皇族との密室でのやり取りが、仮に外に漏れたりしたら、俺だけではなくリアーヌや仲間たちの立場も危うくなるのは目に見えているからだ。



「……地方の町が攻められたら救援を要請するのは、領主の義務。ただそれだけだよ」


「そう……そうよね。義務なら仕方ないよね……」



 なおも暗い顔のリアーヌに対し、俺はぐっと表情を引き締めて言った。



「この戦いに勝って『希望』を『現実』に変えてみせるから。俺を信じてくれ」



 リアーヌの大きな瞳を覗き込む。

 彼女もまた俺の視線から逃げずに、じっと見つめてきた。

 

 周囲には仲間たちやマインラート、ヘンリーの姿もある。しかし今、この瞬間、ここには俺と彼女のたった二人だけの空間だった。


 あの夜。彼女が俺の心を動かした時のように……。


 大丈夫だ。

 信じてくれ。



 俺は絶対に君を守ってみせる――



「うん、分かった! 私、帝都に行ってきます! すぐに帰ってきますから、町のことはよろしくお願いします!」



 彼女の瞳に強い光が戻ってきた。

 その表情を見て安心した俺の口から、思わず本音を漏れる。

 しかしそれによって、『作戦室』が大荒れになってしまうとは……。



「いい顔だ。それでこそ俺の愛するリアーヌ・ブルジェさ」



 その場にいた全員が口をぽかんと開けて、俺を凝視してくるのが気持ち悪い。

 耐えきれなくなった俺は、眉をひそめて言った。



「なんだよ? 何かまずいことでも言ったか?」


 

 その瞬間から、堰を切ったかのように次々と言葉が飛び交い始めたのだった。



「へっ!? 愛する!? ちょっと、それはどういう意味でしゅか!?」


 とリアーヌが顔をりんごのようにして言えば、


「やいっ! 俺は許さないからな! し、師匠が『兄貴』になるなんて! もしどうしてもそうしたいなら、俺を倒していけ!」


 と、ヘンリーが牙をむき出しにして吠える。

 

「むーっ! ジェイさま! コハルは一度も『愛してる』なんて言われたことありません! あたしにも言ってください!」


「うふふ。安心したわぁ。ようやくジェイも他の女性を好きになれるようになったのね。これで遠慮なく私も……。うふふ」


 コハルとマレーナが口を挟み、ステファン、アルバン、ロッコもまた興奮気味に言った。

 

「はははっ! ジェイもちょっと見ねえうちに、ずいぶんと言えるようになったじゃねえか! よしっ、なら今度、一緒にナンパしに行こうぜ!」


「がははは! ジェイ殿は相変わらず真っ直ぐな御方だなぁ」


「……ジェイ様。かっこいいです」



 まったく……。

 何を勘違いしてるんだか……。

 

 でもみんな笑顔だ。

 この雰囲気、嫌いじゃねえよ。

 

 俺は部屋を震わせるような強い口調で言ったのだった。

 

 

「細けえことは何だっていいんだよ! とにかく『勝つ』! それだけだ!! てめえら、いっちょやってやろうぜ!!」



 みなが口をつぐんで顔を合わせる。

 そして声をそろえて返事をしてきたのだった。

 

 

「おおっ!!」



 開戦は一カ月後。

 さあ、見せてやろうぜ。

 

 乾坤一擲の奇策を――

 

 


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