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追放軍師の無双逆襲  作者: 友理 潤
第二章 蘇った彗星
14/36

⑥ 『予期せぬ再会』

◇◇


 帝都を出てから3日後。俺たちはヘイスターの町に戻ってきた。

 ……と、町の入り口で真っ先に出迎えてきたのは、ヘンリーだった。

 

 

「姉さん! 師匠! 助けてくれ!!」



 馬車を下りた俺たちに向かって、開口一番にそう叫んだ彼。

 よく見てみれば服のあちこちに小さな穴が開いており、綺麗な顔にも擦り傷とアザを作っているではないか。

 

 

「まあ、ヘンリー! どうしたの!? その顔!」



 目を丸くするリアーヌの隣で、俺は警戒心を強めていた。

 まがりなりにも彼は『領主の代行』として町に残ったのだ。

 そんな彼を傷つけることができる人が、領民の中にいるだろうか……。

 

 いや、絶対にいないと断言できる。

 ここの領民たちはリアーヌとヘンリーを敬愛しているからだ。

 

 ならば、彼は『外の人間』に傷付けられたはずであり、その人物はまだ町の中にいる可能性が高い。

 

 

「ヘンリー殿、その傷はいったい誰につけられたのだ?」


「名前なんか知らねえよ! そいつら急に町にやってきたんだ! 強そうな奴らだったから決闘申し込んだら……」


「そいつら……。ということは一人じゃないのか?」


「やったのは一人だ。でも他に四人も仲間がいやがる」



 ヘンリーが悔しそうにうつむいている。

 一方の俺は冷静に町を見渡していた。

 だが、何も変わったところはない。

 となれば、単なる旅人だろうか……。

 

 ずいっとヘンリーに顔を近付けると、ひたいの傷を見つめた。

 

 

「な、なんだよ! 近いって!」



 なぜか顔を赤くして照れている彼をよそに、一つ一つの傷をつぶさに観察する。

 すると、とあることに気付いた。

 

 

「丁寧に治療してもらったようだな」


「えっ? なんで?」


「かすかに薬草の匂いがする。この薬は戦場での応急処置に使われる特別なものさ。そして香水の匂い……。治療したのは若い女性か」


「げっ!? な、なんでそんなこと分かるんだよ!?」


「ちょっと、ヘンリー! 私たちがいない間に、何をやってるの!!」


「だから勝負挑んだら返り討ちにされて、ついでに治療もしてもらっただけだって!」



 そして、もう一つ。

 つけられている傷がすべて浅い。

 これなら数日もたてば、跡形もなく消えるだろう。

 

 傷をつけたのが一流の剣士なら、その傷を治療したのも一流の軍医。

 

 そんな二人が揃って旅をしているというのか……。

 ふと『とある人物たち』の名が浮かぶ。

 

 『明星みょうじょうの五勇士』。

 

 その名の通りに五人。いずれも『特別な能力』を有した勇士たちだ。

 

 一騎当千の無双剣士、ステファン・クッシュ。

 鉄壁の盾役タンク、アルバン・クラウスナー

 あらゆる傷を癒す俊才軍医、マリーナ・レーヴ。

 非凡な情報収集力を持つ斥候せっこう、コハル・カトウ。

 そして、百発百中の弓の名手、ロッコ・バルツァーギ。

 

 彼らはいずれも俺、ジェイ・ターナーの直属部隊の隊員だった。

 俺たちは常に一緒に行動し、あらゆる戦場を駆け抜けていった。

 

 同じ釜の飯を食らい、共に笑い、時には涙したのが懐かしい。

 

 それは『戦友』を通り越して『親友』とするに相応しい間柄だったのだ。

 

 しかし彼らがここにいるはずはない……。

 なぜなら『氷血の姫将軍』によって、ちりぢりにされてしまったのだから……。

 

 ……と、次の瞬間。

 脳裏をよぎったのはアンナの言葉だった――

 

 

――ヘイスターに贈り物を届けておいたわ。せいぜい彼らと一緒に悪あがきでもすることね。



「まさか……」



 そうつぶやいた直後。

 ヘンリーの背中越しに見えてきたのは……。

 

 かつての仲間、『明星の五勇士』だった――

 

 

「ステファン! アルバン! マリーナ! コハル! ロッコ!!」



 俺はヘンリーを押しのけて、五人のもとへと駆けていった。

 彼らと最後に行動を共にしたのはもう六年前になる。

 あのジュスティーノ殿下の救出以来のことだ。

 

 

「ジェイ!!」

「ジェイ殿!」

「ジェイさん!!」

「ジェイさまぁ!」

「……ジェイ様」



 相変わらずバラバラの呼び方だ。

 でも、それさえも懐かしい。

 

 息つぎすら忘れて懸命に走る。

 みるみるうちに五人との距離が縮まると、彼らの表情がはっきりと見えてきた。

 

 呼び方はバラバラでも、みんな同じ『笑顔』だ。

 

――ボフッ!


 俺は大きな熊のようながたいのアルバンの胸に飛び込んだ。

 

 

「みんな! よく無事だったな!!」


「はははっ! それを言うなら、ジェイ殿が無事だったことの方が驚きだぞ」



 今年で40歳になるアルバンが大きな声で笑いながら、俺の背中をバンバンと叩いた。

 彼は大きな体と同じくらい広い心の持ち主で、いつも優しい。

 彼の笑顔を見て、あらためて仲間と再会できた喜びがわきあがってきた。

 

 ……と、そこに白くて細い腕が伸びてきたかと思うと、俺はぐいっと引き寄せられた。

 目の前に現れたのは美しい女性の顔。

 

 

「ジェイさん。ちょっと診せてちょうだい」



 軍医のマリーナだ。彼女はぺたぺたと俺の体を触ってきた。

 どうやら体に異常がないか診察しているようだ。

 俺と同い年の30歳の彼女だが、こうして間近で見るとますます綺麗になったのがよく分かる。

 

 

「うん、どこも悪いところはなさそうね。よかったわ」


「ははは! 心配かけて悪かったな」


「もう……。本当に心配したのよ」



 マリーナは、そう言ってじっと見つめてきた。

 ふっくらとした柔らかそうな唇が徐々に近づいてくる。

 妖艶な魅力に固まってしまった俺は、彼女のされるがままになっていた。

 

 そして唇同士が触れそうになったその瞬間……。

 

「だめえええええ!」


 と、けたたましい声とともに、割って入ってきたのはコハルだった。

 

 

「もうっ! マリーナはすぐにエロくなるんだからぁ! あたしだって、ジェイさまのこと、いーっぱい心配したんですからぁ! ちゅーするなら、あたしにしてよ!」



 小さな体を精一杯伸ばし、つぶらな瞳で見上げてくるコハル。

 確か18歳になるはずだが、子どもっぽさは抜けてないらしい。

 まあ、そこが彼女のチャームポイントだから、かえって変わっていなくてよかったと思う。

 俺は口を尖らせてキスをせがむ彼女から離れ、頭を優しくなでた。

 

 

「へへっ! ありがと!」



 コハルは嬉しそうに目を細めている。

 次に俺は、彼女の横にいたステファンと顔を合わせた。

 よく日に焼けた短髪の好青年だ。彼も見た目は5年前と何ら変わらない。

 

 

「ジェイ! 元気そうでよかったぜ! ……ところで、あそこにいる清楚な美少女は、新しい『コレ』か? じゃなきゃ俺に紹介してくれよ」



 ステファンは、小指を立てていやらしい目を向けてくる。

 相変わらずいい女に目がないのか……。

 こっちの方は、少しは変わって欲しいものだ。

 俺は彼にこっそりと耳打ちした。

 

 

「やめとけ。ああ見えて、酒が入ると性格が変わるんだ」


「げっ! そうなのか……。人は見た目によらずってことか」



 あからさまに落胆したステファンをそのままに、最後に隅で静かにしているロッコに近寄った。

 人付き合いが苦手で、物静か。

 でも仲間思いで、誰よりも忠義にあつい男なのだ。

 

 

「……ジェイ様。これからはどんなことがあってもおそばを離れません」


「ははは! さすがに風呂やトイレくらいは、一人にさせてくれな」


「……仕方ありません。仰せの通りに」


「おい……。まさか言わなければ、トイレにまでついてくるつもりだったのか……」


「……仕方ありません」



 ……ちょっと度が過ぎる部分もいなめないが、それも愛嬌ってやつだ。

 

 これで五人全員。

 固い絆で結ばれた仲間たちと再会できるなんて、まさに『奇跡』だ。

 

 

「恩に着るぜ」



 空に向かって感謝を述べる。

 そして俺たちの様子を静かに見守っていたリアーヌに、彼らのことを紹介した。

 俺の興奮は彼女にもしっかり伝わったようで、彼女は満面の笑みを浮かべている。

 

 

「ふふ、ジェイが嬉しそうで、私もすごく嬉しい! そうだ! ねえ、マインラートさん」


「はい、何でしょう? お嬢様」


「みなさんの部屋を館にご用意してあげて!」


「かしこまりました」



 マインラートは頭を下げると「では、お先に失礼します」と言い残して、すぐさま館の方へと消えていった。

 俺はリアーヌに問いかけた。

 


「リアーヌ……。いいのか?」


「ふふ、ジェイもそれを望んでいるんでしょ? これは町を救ってくれた英雄へのささやかな御礼よ」


「かたじけない。この恩は必ずや……」


「もう! 固いこと言わないの!」



 彼女にやりこめられる俺を見て、仲間たちが一斉に大笑いする。

 かつて俺とクロ―ディアのやり取りを見て大笑いした彼らと何ら変わらないものだ。

 

 失ったはずの『希望』が、少しずつ戻ってくる不思議な感覚がした。

 それをもたらしているのは、まぎれもなく太陽のような笑顔のリアーヌ・ブルジェに他ならない。

 

 リアーヌの笑顔と未来を守りたい。

 俺は心の底からそう思えるようになっていたんだ――

 

 


御一読いただきまして、まことにありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

ブクマ・評価・ご感想をいただけると、大変励みになります。

何卒よろしくお願い申し上げます。

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