【第一章】6.生きる意味
【第一章】6.生きる意味
ぼくは、産まれた時から真っ黒な穴の中だった。産まれながらに死んでいた。
生きていながら、生きていなかった。
そして気がつくと、檻の中だった。
ぼくの半生は、冷たい穴と檻それの繰り返しだ。
でもある日、人間の少年と出会った。
彼はぼくを連れて行くと言った。
ぼくは、真っ暗な穴の中に落とされるんだと思った。そうしたらもうこの檻の中には帰ってこなくて良くなる。
となりのおじさんも、もう一つとなりのおばさんも、帰って来なかった。人間に呼ばれて、連れていかれて、帰って来た仲間はいなかった。
ぼくは、ついにぼくの番が来たんだと思った。
それで良かった。
でも違ったんだ。
ぼくはその日、「チョコ」と名前を貰った。
前にも他の名前があったと思うけど、これほど嬉しい名前はなかった。だって、それらは死んでいるモノの名前だから。
だからぼくは、「チョコ」になった日に生まれたんだと思った。「チョコ」と言う言葉が世界で一番好きになった。
そりゃそうだよ。その言葉が出ると、楽しい事が起こったんだから。
チョコご飯だよ、チョコ散歩に行くよ、チョコ一緒に寝よう。チョコ、チョコ……。
だから、ぼくはあなたに、全部をあげてもちっとも惜しく無い。
あなたの為なら、なんでもできる。あなたの喜びが、ぼくの喜びなんだから。
ふわりと大好きな匂いが流れてきた。
身体が軽くなる、「…………コ」
薄っすらと目を開けた、そこには世界で一番大好きな人間がいて、世界で一番大好きな言葉を言った。
「チョコ!」
ああ、本当に、嬉しくて堪らない。