【第一章】4.誰が為に
【第一章】4.誰が為に
アラートが耳元で鳴り響く。俺は天井を見上げていた。無力感から俺は、スマホを手に取ろうとする事すらしなかった。
もう一人の俺がスマホを手に取った。真っ黒な画面に赤い帯。いつものそれだ。
俺に終わらせる権利がない、では誰にある。
死神は何を言っている。
何もわからない。
ピピピピッピピピピッ
音に導かれるように、もう一人の俺は階下に向かう。無意識に俺はそれに従った。
かちゃんとリビングのドアを開けると、チョコが俺の肉体に噛み付いた。低いうなり声を上げて、ズボンの裾に。
「おいっ、何してんだよ!」
彼はそう言ってチョコを振り払う。
パッと離れた後、もう一度噛みつき引っ張った。そう玄関の方へ。
まさか。
ピピピピッピピピピッ
「チョコっ!電話だからっ!」
ワンッワンッ!!
二つ吠えて、もう一度裾を引っ張る。
「もうバカ犬っ!」
それは力づくで引き剥がされた。
そのまま、もう一人の俺はチョコを抱き上げてゲージに入れた。かちゃんと軽い音を立てて閉められるゲージの扉。
ピピピピッ
「はいはい」そう言って、親父からの電話に出るもう一人の俺。ぶわっと背中の毛が逆立つ気がした。
チョコが、俺を助けようとしている?
ゲージの中で、必死に吠えて何かを訴えかける。しかしそれは俺には、生きている俺には伝わらない。
「普段全然吠えないのに、どうしたんだよお前。アラートが怖かったのか?」
そんな事を言いながら、ゲージの前にしゃがみ込んでいる。
『おい!逃げろ!チョコを連れて家を出ろ!』
俺とチョコが必死で、俺を説得する。しかし、何も伝わらない。言葉も、気持ちも、想いも!
こんなに歯がゆい思いをした事はない、自分の姿に腹が立つ。
『クソッ!わからないやつ!!』
10時22分。
そうしていると、あの瞬間がやってきた。
轟音と共に、裂ける空と、浮かび上がる地面が混ざり合うあの瞬間が。
……
死神が立っていた。
「お前は、黙って、見ていると良い」
全てが巻き戻った。