【第一章】3.再び
【第一章】3.再び
アラートが耳元で鳴り響く。俺はゆっくり起き上がった。確認するように伸ばした手は、スマホをするりと通り過ぎた。
もう一人の俺がスマホを手に取った。真っ黒な画面に赤い帯。
先と同じ光景が、同じ朝が始まった。
何も触れない、何も語れないこの身体で、10分間の時間が何をせんと言うのか。
諦めかけたその時、シャッと開いたカーテンを見て思いついた。もし俺が幽霊なのであれば、それに気がつく人間がいるかもしれない!
窓を通り抜け、二階から外に飛び出した。
音もなく、庭に着地する。
この身体は、随分自分勝手にできているようだ。何者にも触れられないが、地面を通り抜けて落ちたりはしないらしい。
そんな事は今は良い、周りの人間にコンタクトを取るんだ!
『おいっ!』
『ちょっと聞いて!』
『待って!』
いくら声をかけても気付く者は居ない。
それどころか、ぶつかっても身体は何事も無かったかのようにすり抜けてしまう。
何度も、何度も、何度も全て!
『うあああああー!!』
歩道に立ちすくみ、大声で一人吠えた。しかしその声は、何者にも届く事は無い。
このまま何も出来ないまま、死を待つしかないのか。他にやれる事は。
ふらりと、車道に飛び出す。
ごぉっと大きな音を立てて、トラックが突っ込んで来た。しかしそれはクラクションを鳴らす事もなく、ブレーキを踏む事も無く、そのまま何も無かったかのように通り過ぎた。
一台、二台、三台。
何の抵抗も無く、全てが通り過ぎていく。
そして、あの瞬間が訪れた。
ばっと大きな銀色の破片のようなモノが、俺の家を直撃した。どぉんと大きな音を立てて、砂煙が上がる。車道を走る車は何事かと、ハザードをたいて路肩に止まった。
『あああああああーーっ!』
『何でっ!こんなっ!意味がないじゃないか!!』
天を仰いで、叫んだ。
『何も触れられない、何も語れない、これでは何も変えられない!』
『何度やっても同じだ、死神っ!もう終わらせてくれっ!!』
あの黒い、墨を塗りたくったような老人に吠えた。この意味のない繰り返しを終わらせろと。
その時、心臓をぎゅっと握られたかのような感覚。振り向くと、後ろに例の死神が立っていた。
「終わらせ、ろ?」
『そうだ、意味がないじゃないか!何度やっても同じだ』
「お前、には、その権利はない」
『権利?』
「そう、だ。お前、まさか、私と契約したつもりでいた、のか」
口をつぐんだ。契約とは、魂を取るとかじゃないのか。こいつは一体何を言っているのか。
『……』
「穢れた魂。お前のようなモノの魂が、価値があると。思っていたのか」
「時間、だ」
再び、時が戻った。